作品タイトル不明
第405話:雪上がりの予感と、号泣の映画鑑賞
キッチンに立ち、手早く鶏ガラベースの特製スープを作り、別茹でしておいた中太麺をしっかりと湯切りしてどんぶりへ。
自家製のチャーシューと、半熟の味付け玉子、たっぷりのネギをトッピングすれば完成だ。
「お待たせ。特製醤油ラーメンだ」
「わぁっ……湯気からすっごくいい匂いがする……!」
こたつの上にどんぶりを置くと、凛が割り箸を割ってさっそく麺をすする。
「ずるっ、ずずっ……ん〜っ! 鶏ガラのお出汁がしっかり効いてて、すっごく美味しい! チャーシューもとろとろだよぉ……」
「スープ熱いから火傷するなよ。味玉もいい感じに半熟になってるはずだ」
ふーふーと息を吹きかけながら、幸せそうにラーメンを平らげていく凛。
食後、ふとベランダの窓から外の景色を見て、俺は小さく声を上げた。
「おっ。凛、だいぶ雪が弱まってきたぞ」
「えっ、本当?」
凛がどんぶりを置いて窓際に駆け寄る。
昨日から激しく降り続いていた大雪はすっかり勢いを失い、今は小さな粉雪がチラチラと宙を舞っている程度だった。
雲の切れ間からは、薄っすらと冬の太陽の光も差し込んでいる。
「これなら、明日には完全に止みそうだな」
「わぁ……! じゃあ土日は、外にお出かけできるかもしれないね!」
二日間の引きこもり生活も最高に楽しかったが、やっぱり外の空気を吸えるとなると気分が上がる。凛も嬉しそうに窓の外の銀世界を見つめていた。
「それじゃあ、午後も映画見よう! 次は私が見たかったやつ、再生していい?」
「おう、いいぞ。でも午前中でラスク全部食っちゃったから、おつまみがないな」
「あ……ほんとだ」
「ちょっと待ってろ。すぐできるやつ作るから」
俺は再びキッチンへ向かい、クッキングシートの上にピザ用のとろけるチーズを薄く広げた。その上に粗挽きの黒胡椒をパラパラと振りかけ、電子レンジへ。
数分加熱すると、チーズがグツグツと泡立ち、やがて水分が飛んでカリカリの薄いせんべい状になる。
「よし、カリカリチーズスナックの完成だ。粗熱が取れたら手で割って食べるぞ」
「わぁ、これレンジでチンしただけ? すっごくいい匂い!」
こたつに戻り、パリッと割ったチーズスナックを凛の口元に運んでやる。
「あむっ……ん! パリパリで香ばしい! チーズの味がギュッて濃縮されてて、黒胡椒がピリッと効いてるから食べる手が止まらなくなりそう!」
「簡単だしな。よし、じゃあ午後の部、開演するか」
部屋を暗くして、凛が選んだ映画を再生する。
パッケージからして、感動系のファンタジーラブストーリーのようだ。
俺たちはチーズスナックをパリパリと齧りながら、画面に集中し始めた。
……しかし。
映画が開始してわずか三十分。
「ひぐっ……うぅ……っ」
隣から、小さなしゃくり上げるような声が聞こえてきた。
見ると、凛が大粒の涙をポロポロとこぼしながら、画面を食い入るように見つめている。
物語の序盤。なんと、ヒロインを守るために男主人公が命を落としてしまうという、衝撃の展開を迎えていたのだ。
「お、おい凛、大丈夫か? まだ序盤だぞ」
「だってぇ……っ、主人公の男の子、すっごく優しかったのに……! 朝陽くんみたいに、ヒロインのことすっごく大切にしてたのに……っ」
凛はポロポロと涙を流しながら、俺の左腕にギュッと両手でしがみついてきた。
「もし、朝陽くんが……あんな風に、死んじゃったら……私、どうしよう……っ。朝陽くんがいなくなったら、私、生きていけないよぉ……っ」
映画の主人公と俺を完全に重ね合わせてしまい、鼻を赤くして子供のように泣きじゃくる凛。
「おいおい、大げさだな。映画の話だろ」
「ひぐっ……うぅ……っ」
「泣くなって。俺はすこぶる元気だし、凛を置いてどこかに行ったりしないから。ずっと隣にいるから大丈夫だよ」
苦笑しながらも、俺はしがみついてくる凛の頭をポンポンと優しく撫でた。
俺の体温と心音を確かめるように、凛は俺の腕に顔を埋め、小さく頷く。
結局、映画は残されたヒロインが死後の世界まで主人公に会いに行き、最後は向こうの世界で二人仲良く暮らすというハッピーエンドを迎えた。
「……よかったぁ……二人とも、最後は一緒にいられて……っ」
「ほら、ティッシュ。目、真っ赤だぞ」
「うぅ……っ、いい映画、だった……」
すっかり泣き疲れて、俺の腕に寄りかかったまま鼻をすする凛。
氷の令嬢のクールな姿なんてどこにもない、あまりにも無防備で愛おしいその姿に、俺はどうしようもなく胸を締め付けられていた。
「よし。映画で泣いて体力使ったみたいだし、夕飯はガッツリ行くぞ」
「うん……お腹すいたぁ……」
すっかり外が暗くなった頃。
俺はキッチンで豚肉のブロックを大きめに切り、下味をつけてから片栗粉をまぶしてカラッと揚げた。
そこに玉ねぎ、ピーマン、にんじんを加え、特製の黒酢ダレをしっかりと絡めていく。
フライパンから、酸味と甘味が混ざった食欲をそそる香りがジュワッと立ち上る。
「できたぞ。特製、黒酢の酢豚だ」
「わぁぁ……! お肉がゴロゴロしてて、タレがツヤツヤに光ってる……!」
食卓に並べた大皿を見て、凛が先ほどまでの涙顔から一転、パァッと顔を輝かせた。
「いただきますっ! ……あむっ、はふっ……んん〜っ!!」
大きな豚肉を頬張った瞬間、凛の顔がとろけた。
「カリッとした衣の中から、ジューシーなお肉の旨味がじゅわって出てくる……! 黒酢のタレが酸っぱ甘くて、すっごくコクがある!」
「野菜もシャキシャキ感が残るようにサッと炒めてあるから、一緒に食ってみろ」
「うんっ! ……ピーマンも玉ねぎも甘い! これ、ご飯が無限に進んじゃうよ!」
もりもりと白米をかき込みながら、極上の笑顔を見せる凛。
さっきまで泣いていたのが嘘のように、完全に食欲の虜になっている。
「いっぱい食べて元気出せよ。明日晴れたら、どっか出かけるか」
「ほんと!? やったぁ! 久しぶりのお出かけだね!」
ガッツリとした中華の旨味と、明日への楽しみ。
特大の休校ボーナスがくれた最高の時間は、美味しい匂いと共にまだまだ続いていくのだった。