軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第392話:こたつむりと、風邪予防

「……さ、寒い寒い寒いっ!」

金曜日の放課後。

アパートのドアを開けるなり、凛は小刻みに肩を震わせながら玄関に転がり込んできた。

吐く息が白くなるほど冷え込んだ夕方。

暖房が切れていた部屋の中は、まるで冷蔵庫のようにひんやりとしている。

「本当に急に冷え込んできたな。凛、とりあえず着替えてこたつ入ってろ」

「うんっ……」

凛は自分の部屋に駆け込み、数分後、もこもこのルームウェアの上にさらに厚手のカーディガンを羽織った、雪だるまのような姿でリビングに現れた。

そして、俺が電源を入れたばかりのこたつへと一目散にダイブする。

「……はぁぁぁ……生き返るぅ……」

肩までこたつ布団をすっぽりと被り、テーブルの上に頭だけをちょこんと乗せたその姿は、完全に『こたつむり』だった。

今日はイラストの仕事も休みだ。

野生を失ってとろけきっている彼女を微笑ましく見守りながら、俺はエプロンを身につけてキッチンに立った。

冷蔵庫を開け、今日の晩ご飯のメニューを決める。

こんなに寒い日は、体の芯から温まるものが一番だ。

ボウルに豚ひき肉とみじん切りにしたネギ、生姜のすりおろしをたっぷりと加えて粘り気が出るまで練り上げる。

鍋に鶏ガラスープを沸かし、たけのこ、人参、椎茸の細切りを投入。

そこに先ほどの肉種を丸めて落としていく。

肉団子に火が通ったら、最後に戻しておいた春雨を加え、ごま油をひと回し。

さらに、隣のコンロではフライパンに餃子を並べて火にかける。

パチパチという小気味いい音と共に、キッチン中に香ばしい匂いが漂い始めた。

「……んんっ、ごま油のすっごくいい匂い……」

こたつむりになっていた凛が、鼻をヒクヒクさせながら顔を上げた。

「できたぞ。今日はこたつで食べようぜ」

俺はお盆に、熱々の『具沢山中華スープ』と、綺麗な羽根のついた『焼き餃子』、そして白いご飯を乗せてこたつの上へと運んだ。

「わぁ……っ! 餃子だ! スープも具がいっぱい!」

「生姜をたっぷり効かせたから、食べたらすぐに温まるぞ。いただきます」

「いただきますっ!」

凛はレンゲを持ち、フーフーと息を吹きかけてからスープを一口飲んだ。

「……ん〜〜っ! お出汁が染みる……! 生姜がピリッとしてて、すっごく美味しい!」

「肉団子も手作りだからな。熱いから火傷するなよ」

凛はハフハフと言いながら肉団子を頬張り、「んんっ!」と目を輝かせる。

噛んだ瞬間、生姜の風味と肉汁が口の中にジュワッと広がり、春雨が旨味たっぷりのスープをしっかりと吸い込んでいる。

パリッと焼き上がった餃子も、酢醤油に少しだけラー油を垂らして食べると、白米が無限に進む最強のおかずだった。

こたつに入りながら熱々の中華をかきこむと、あっという間に体の芯からポカポカと熱くなってくる。

凛の少し青白かった頬にも、ほんのりと赤みが戻っていた。

食後。

「冷えないうちに」と、俺たちは交互にお風呂に入った。

俺がリビングでくつろいでいると、脱衣所のドアの向こうから、水の音に混じって凛の声が聞こえてくる。

『朝陽くーん、お風呂すっごく気持ちいいよー』

「お湯、熱すぎないか? ちゃんと肩まで浸かれよ」

『うん、極楽だよ〜。朝陽くんも後でしっかり温まってね』

ドア越しに交わす、のんびりとした会話。

お風呂上がりには二人で並んで軽いストレッチをし、寒さで縮こまっていた筋肉をゆっくりとほぐした。

寝るまでの少しの自由時間。

俺はマグカップにお湯を注ぎ、はちみつとレモン果汁をたっぷりと加えたホットレモンを二つ作って、こたつに戻ってきた。

「ビタミン摂って、風邪予防な」

「ありがとう、朝陽くん。……すっぱ甘くて美味しい」

マグカップを両手で包み込むようにして飲む凛の隣に座り、俺はスマホを操作した。

「さて、明日の買い出しだけど……。去年は暖冬だったから今の布団のままでも平気だったけど、今年はさすがに厚手の毛布が必須だな」

「うん。ヒートテックみたいな、あったかいインナーも買っておきたいな」

「あとはホッカイロと、万が一雪で外に出られなくなった時のための食料か。……ちょっと予算的にかさみそうだから、おばさんに連絡してみるわ」

俺の生活費を出してくれている叔父と叔母のグループLINEに、『大寒波に備えて、毛布や防寒具を買ってもいいか』とメッセージを送る。

すると、一分も経たないうちに『もちろん! 風邪引かないように、ケチらず一番あったかいやつ買いなさい!』と、スタンプ付きで即答の返信が来た。

「……よし、予算はおりたぞ」

「あ、私も今おじいちゃんたちにLINEしたら、『お金は振り込んでおくから、朝陽くんと一緒に温かいものを揃えなさい』って!」

お互いの保護者からの心強いバックアップを得て、俺たちはホッと胸を撫で下ろした。

「じゃあ、毛布は少し大きめのやつにしよう。二人でくるまれるサイズがいいし」

「賛成! あ、ねえ朝陽くん、私これ欲しいかも」

凛が自分のスマホの画面を見せてくる。

そこには、ネット通販のページに載っている『羊の角が生えた、もこもこの着ぐるみ風フード付きパジャマ』が映っていた。

「……これ、絶対凛に似合うな」

「ほ、ほんと?」

「ああ。フード被れば頭まで暖かいし、一石二鳥だろ。俺は今のスウェットで十分だから、凛はこれ買えばいい」

「えへへ……朝陽くんがそういうなら、これ買っちゃおっと」

二人で頭を寄せ合い、あーでもないこーでもないと買い出しのリストを作っていく。

防災対策のはずなのに、なんだか新婚生活のお買い物計画のようで、ただリストを作っているだけでも心が弾んだ。

やがて、就寝の時間。

今朝、寒さで明け方に目が覚めてしまった教訓を生かし、俺たちは今夜は最初から、俺の部屋のベッドで一緒に寝ることにした。

部屋の電気を消し、冷え切った布団の中に潜り込む。

「……朝陽くん、寒いから、くっついて寝よ」

暗闇の中、凛が俺の腕の中にすっぽりと潜り込んできた。

「足、冷たいな」

「んっ……」

俺は自分の足で彼女の冷えやすい足を挟み込むようにして温めながら、その華奢な背中に腕を回してぎゅっと抱きしめた。

「……あったかい。朝陽くん、最高の湯たんぽ」

「凛こそ。」

「ふふっ。おやすみ、朝陽くん」

「おやすみ」

ホットレモンでポカポカになった体と、お互いの密着した体温。

この上ない安心感と『ホワイトサボン』の優しい香りに包まれながら、俺たちは深い眠りへと落ちていくのだった。