軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第384話:未来の設計図と、カニの宴

両手いっぱいの春服が入った紙袋を提げ、俺たちは同じ町にある大型家具専門店へと足を踏み入れた。

広大なフロアには、様々なテーマに沿った家具がずらりと並べられている。

「わぁ……家具屋さんって、見てるだけでもワクワクするね」

「ああ。ええっと、お目当てのソファコーナーは……あっちだな」

フロアマップを確認し、俺たちはリビング家具のエリアへと向かった。

探しているのは、脚のある普通のソファではなく、床に直接置いて使える『ローソファ』、あるいは『幅広の座椅子』のタイプだ。

「あっ、朝陽くん! これどうかな?」

凛が小走りで駆け寄った先には、温かみのあるアイボリー色をした、ふかふかのローソファがあった。

大人二人が並んで座っても十分なゆとりがあり、背もたれもしっかりしている。

値札を確認すると、高校生の俺たちのお財布にも優しい、非常に手頃な価格帯だ。

「おっ、いきなり良さそうなの見つけたな。座り心地も良さそうだし……でも、一応他のも見比べてみよう。家具は最初の第一印象だけで決めると後悔することもあるからな」

「うん、わかった!」

俺たちはアイボリーのソファを一旦保留にし、他のローソファも順番に試してみることにした。

「これはどうだ?」

「うーん……デザインはスタイリッシュでかっこいいけど、座面がちょっと硬いかも。長時間座ってるとお尻が痛くなりそう」

「確かに、俺も座ってみたけど沈み込みが足りないな。……じゃあ、こっちの可愛い丸いタイプは?」

「あ、これ可愛い! ……でも、二人で並んで座ると、ちょっと窮屈かな。」

キュッと密着できるのは恋人としては嬉しい設計だが、凛が絵の作業をするための席としては、もう少しゆとりがあった方がいい。

「これは背もたれが低すぎて寄りかかれないし……こっちは予算オーバーだな。凛は稼いでるから買えるだろうけど、俺も半分出すって約束したしな」

「朝陽くんが出してくれるの、すっごく嬉しいよ。……やっぱり、最初に見たアイボリーのやつが一番よかったかも!」

フロアをぐるりと一周して比較検討した結果、結局一番最初に見つけたアイボリーのローソファの前に戻ってきた。

改めて二人で並んで座ってみる。

「……んん〜っ、やっぱりこれ、適度な弾力があって包み込まれるみたい」

「ああ。これなら凜が寄りかかって、俺が後ろから抱きついてくる形になっても全然疲れないな」

「……ふふっ。ここで一緒に作業するの、すっごく楽しみになってきた」

琥珀色の瞳を輝かせる凛と顔を見合わせ、今度こそ俺たちの意見は完全に一致した。

流石にこのサイズの家具を電車で持ち帰ることはできないため、レジで配送の手続きを済ませる。

最短で届くという【月曜日の夕方】を指定し、俺たちは会計を終わらせた。

「ねえ、朝陽くん。せっかくこんなに大きな家具屋さんに来たんだし、他のフロアも見ていかない?」

手続きを終えて身軽になったところで、凛が弾むような声で提案してきた。

「他のフロアか……そうだな」

ズラリと並ぶ、家族向けの大きなダイニングテーブルや、二人用のベッド。

温かい照明に照らされたモデルルームのような一角を見つめていると、俺の胸の中に、ある一つの感情が静かに、けれど確かな熱を持って溢れてきた。

「……なぁ、凛」

「ん?」

「俺たち、今は隣同士の部屋でうまくやってるけど……高校を卒業したらさ。今のアパートじゃ、色々と手狭になるよな」

「……え?」

「だから……卒業したら、ちゃんと二人で、一緒に住める部屋を借りよう」

俺は立ち止まり、真っ直ぐに凛の目を見て告げた。

それは、思いつきの言葉ではない。俺の中でずっと温めていた、素直な願いであり、決意だった。

凛は一瞬だけ目を丸くした後、その美しい漆黒の髪を揺らし、ぱぁっと花が咲いたような極上の笑顔を見せた。

「……うんっ……! 絶対、絶対に一緒に住むっ!」

俺の腕にギュッと抱きついてきた凛の顔は、今日買ったどの春服よりも嬉しそうな春色に染まっていた。

そして、彼女は瞳をキラキラと輝かせながら、俺の手を引いた。

「じゃあ、今のうちにどんな家具がいいか、二人で見ておこうよ!」

「ははっ、気が早いな。でも、いいかもな」

そこからは、未来の同棲生活に向けた甘すぎるシミュレーションの始まりだった。

「ダイニングテーブルはこれくらいがいいな! 朝陽くんがいっぱいご飯並べられるように!」

「そうだな。これだけ広ければ、凛が隣で仕事の資料を広げても全然邪魔にならないし」

「クローゼットはこのくらい大きくないとダメだね。今日春服もいっぱい買っちゃったし」

「あとは、収納用のカラーボックスもいくつか必要だな。仕事用の小物をまとめるのに便利だし」

「あ、このローテーブルとクッション、今日買ったソファにぴったり合いそう!」

「俺はこっちのハンガーラックも使い勝手が良さそうで気になってる。ほら、帰ってきてすぐコート掛けられるし」

「ねえねえ、朝陽くん! この枕、すっごくふかふかだよ! お揃いで買っちゃう?」

「いや、枕は今使ってるやつで十分だろ。俺の匂いがついてるからよく眠れるって、この前自分で言ってたじゃないか」

「っ〜〜! そ、それはそうだけどぉ……!」

生活感あふれる細かな家具や収納グッズまで、俺視点と凛の視点を交えながら見て回る。

家具の好みや、生活における価値観が驚くほどぴったりと合っていて、この先二人でどんな部屋を作っていくのか、想像するだけで胸が温かくなった。

未来の甘い約束に胸をいっぱいにしながら、俺たちは帰りの電車に揺られていた。

窓の外は、すっかりオレンジ色の夕焼けに染まっている。

「……なんだか、いっぱいいろんなこと想像してたら、お腹すいてきちゃった」

「俺もだ。土曜日の夜だし、今日はパーッと美味しいもの食べたいよな」

「うんっ! 食べたい!」

「……そういえば、冷凍庫にアレがあったな」

俺の脳裏に、お正月に実家に帰った際、おじいちゃんが気前よく買って持たせてくれた、とんでもない箱の存在がよぎる。

「アレって?」

「おじいちゃんが買ってくれた、特大のタラバガニ。極太の足が、丸々一匹分あるんだよ」

「た、タラバガニ……!?」

「ああ。冷凍庫のスペースも圧迫してるし、今日食べちゃおうか。カニだけだと箸休めがないから、少しずつ残ってるおせち料理も全部並べてさ」

俺の提案に、凛の瞳が見開かれた。

「カニと、おせち……! 今夜は宴だね!!」

「ははっ、そうだな。帰ったらすぐに解凍の準備をしないと」

高校卒業後の同棲の約束と、帰ってから待っている極上のタラバガニの宴。

これ以上ないほど幸せな未来だけを思い描きながら、俺たちは繋いだ手をさらに強く握り合い、家路を急ぐのだった。