軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第362話:年越しと、新年最初のおねだり

テレビの画面の端に表示されたデジタル時計が、『23:55』を指し示している。

特番の賑やかだったバラエティコーナーも終わり、いよいよ年越しのカウントダウンに向けた少し厳かな、けれどどこか浮き足立ったような空気に切り替わっていた。

少しだけ照明を落としたリビング。

俺たちはソファに並んで座り、二人で一つの大きな毛布にすっぽりと包まっていた。

「……あと少しだね」

「ああ」

コテン、と俺の右肩に頭を預けている凛が、小さく呟く。

毛布の下では、俺の左手と凛の右手がしっかりと繋がれていた。

少しだけひんやりとした彼女の指先を包み込むように握っていると、じんわりとした温かさがお互いの肌を通して伝わってくる。

テレビから聞こえる賑やかな音声とは裏腹に、俺たちの間には静かで穏やかな時間が流れていた。

繋いだ手に少しだけきゅっと力がこもる。

それに応えるように握り返すと、凛のシャンプーの甘い香りがふわりと鼻をくすぐった。

重なり合う心臓の音が聞こえてきそうなほどに近い距離。

こんな風に好きな女の子と身を寄せ合って年を越すなんて、半年前の俺には想像もできなかったことだ。

『さあ、今年も残すところあと10秒です!』

テレビのスピーカーから、アナウンサーの弾んだ声が響く。

画面に大きく、カウントダウンの数字が表示された。

『10、9、8……』

「あっ、始まるよ」

「うん」

凛が肩からそっと頭を離し、俺の顔を見上げてくる。

テレビの淡い光に照らされたその瞳に、俺の顔がじんわりと映り込んでいた。

『3、2、1……ハッピーニューイヤー!!』

画面いっぱいに華やかな花火の映像が広がり、歓声が湧き上がる。

それと同時に、俺たちはゆっくりと顔を見合わせた。

「あけまして、おめでとう。朝陽くん」

「ああ。あけましておめでとう、凛」

凛は、学校での『氷の令嬢』の面影なんて微塵もない、ふにゃっととろけるような笑顔を俺に向けた。

「今年も、よろしくね」

「こちらこそ。今年も凛の隣で、美味しいご飯をいっぱい作るからな。覚悟しとけよ?」

「ふふっ、望むところだよ。朝陽くんのご飯で、いっぱい幸せにしてください」

毛布の下で繋いでいた手を一度解き、今度は正面から向き合って、そっとお互いの体を抱きしめ合う。

腕の中にすっぽりと収まる華奢な体。

その確かな温もりを感じながら、俺は新年早々、胸がいっぱいになるような多幸感に包まれていた。

ブブッ、ブブッ。

と、その時。テーブルの上に置いていた二人のスマホが、ほぼ同時に小刻みに震え始めた。

体を離して画面を見ると、メッセージアプリの通知が画面を埋め尽くしている。

『あけおめー! 今年もよろしくな! 昨日の焼肉最高だったぜ!』(大輝)

『あけましておめでとう! 二人とも、新年早々イチャイチャしすぎないようにねー!(笑)』(寺田さん)

『あけましておめでとうございます! 凛ちゃん、今年も一緒に遊びに行こうね!』(佐藤さん)

「あはは、みんな年が明けた瞬間に送ってきてくれたんだね」

「だな。とりあえず、スタンプだけでも返しとくか」

二人でくすくすと笑い合いながら、友人たちへの返信を済ませる。

スマホを置き、ふうっと一息ついた凛が、改めて俺の方を向いた。

「去年は本当に……色んなことがあったなぁ。朝陽くんに出会えて、美味しいご飯を作ってもらえて……今、こうして一緒にいられて。私、本当に幸せだよ」

「俺だって同じだ。凛が美味しそうにご飯を食べてくれるのが、今の俺の生きがいみたいなもんだからな」

照れ隠しのように、俺は凛の頭をポンポンと優しく撫でた。

凛は猫のように目を細めて、気持ちよさそうに俺の手に擦り寄ってくる。

新年の余韻を少しだけ楽しんだ後、時計の針は0時30分を回っていた。

「さて、そろそろ寝ようか。」

「……うん」

テレビを消し、リビングの電気を落として寝室へと向かう。

俺は昨晩までと同じように、ベッドの横の床に敷かれた自分の布団へと潜り込もうとした。

その時だった。

「……っ」

俺のパジャマの袖が、きゅっと小さな力で引っ張られた。

振り返ると、ベッドの端に座った凛が、うつむき加減で俺の袖を掴んでいる。

「……どうした?」

「えっと……あのね」

凛はもじもじと身をよじりながら、ほんの少しだけ顔を上げ、潤んだ上目遣いで俺を見つめてきた。

頬が暗い部屋の中でもわかるくらい、ほんのりと赤く染まっている。

「……今日は、新年だから」

「……うん」

「特別、ということで……一緒に、寝たい、な……って」

「っ……!」

予想外の甘すぎるおねだりに、俺の心臓がドカン!と跳ね上がった。

「その、パーカーの抱き枕も……朝陽くんの匂いがしてすごく安心するんだけど。でも……」

「でも?」

「……やっぱり、本物の朝陽くんがいい」

(……可愛い)

俺も健全な男子高校生だ。

大好きな彼女にここまで言われて、素直に床で寝られるほどの聖人君子ではない。あっさりと白旗を上げるしかなかった。

「……わかった。新年最初の、特別だからな」

「っ! うん……!」

俺が苦笑いしながら頷くと、凛はパァッと顔を輝かせ、ベッドのスペースを空けてくれた。

布団をめくり、隣に潜り込む。

途端に、凛が俺の腕の中にすっぽりと収まるように擦り寄ってきて、ぎゅっと抱きついてきた。

「あったかい……」

「そりゃ、生きてる人間だからな」

「えへへ……今年もよろしくね、私の朝陽くん」

胸元に顔を埋め、心底幸せそうに目を閉じる凛。

俺も彼女の背中にそっと腕を回し、その柔らかな髪に軽く頬を寄せた。

「ああ。おやすみ、凛」

互いの温もりと、規則正しい心音に包まれながら。

俺たちは、穏やかで甘い新年の眠りへと落ちていった。