軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第358話:さっぱり冷麺と、白雪姫のお目覚め

「あいつら、本当にいいやつらだよな」

綺麗に片付いたキッチンのシンクを見つめながら、俺はふと笑みをこぼした。

大輝たちが帰った後のリビング。

実はトランプ大会を始める前、彼らが「食休みの運動だ!」と言って、焼肉のホットプレートや油でベタベタになったお皿を全員で協力して洗って片付けてくれていたのだ。

「うん、みんな大好き」

隣で温かい麦茶を飲みながら、凛も柔らかく微笑む。

気を使わせないように、でもしっかりと手伝ってくれる。

改めて、良い忘年会だったと振り返ることができた。

夜になり、少しお腹が空いてきた俺たちは、晩ご飯の準備に取り掛かった。

お昼にガッツリとお肉を食べたので、夜は胃に優しい軽めのメニューがいい。

「よし、焼肉の締めに買っておいた『冷麺』にしようか」

「冷麺! 賛成!」

鍋でたっぷりのお湯を沸かし、半透明の麺をサッと茹で上げる。

ザルにあげて氷水で揉み込むようにキリッと締めると、麺はツヤツヤと輝き、シコシコとした強いコシが生まれる。

それを涼しげなガラスの器に盛り付け、澄んだ琥珀色の冷たいスープをたっぷりと注いだ。

トッピングには、シャキシャキの千切りきゅうり、半分に切ったとろとろの半熟ゆで卵、ピリッとした辛味が食欲をそそる白菜キムチ。

そして、お昼に少しだけ残しておいたロース肉を乗せれば、特製冷麺の完成だ。

「いただきます」

「んんっ……!」

スープをひとくち飲んだ凛の瞳が、パァッと輝いた。

「冷たくてさっぱりしてる! お昼にあんなに食べたのに、つるつる入っちゃうね」

「だろ? お好みでお酢を少し足すと、さらにさっぱりして美味いぞ」

氷がカランと音を立てる冷たいスープには、牛肉の旨味とキムチの酸味がしっかりと溶け出している。

強い弾力の麺を噛み切りながら、合間にきゅうりの歯ごたえを楽しむ。

暖房の効いた温かい部屋の中で食べる冷麺は、火照った体に染み渡るような、クセになる美味しさだった。

お風呂も済ませ、いよいよ就寝の時間。

今夜は俺の部屋で、ベッドと床に別々の布団を敷いて寝ることにした。

「……おやすみ、朝陽くん」

ベッドに入った凛が、布団から顔だけを出して、少しだけ寂しそうな、心細そうな瞳で床にいる俺を見つめてくる。

昨日は俺の腕の中で眠っていたのだから、そのギャップで寂しくなる気持ちはよく分かった。

「……ちょっと待ってろ」

俺はクローゼットから自分の大きめのパーカーを取り出し、それを細長い抱き枕にすっぽりと着せた。

「はい、これ。今日は俺の代わりに、これで我慢してくれ」

「っ……!」

凛は顔を真っ赤にしながらもそれを受け取り、布団の中でギュッと抱きしめた。

「……朝陽くんの匂いがする」

パーカーの胸元に顔を埋め、小さく呟いて安心したように目を閉じる凛。

その無防備すぎる可愛さに、俺の理性が吹き飛びそうになったのは言うまでもない。

翌朝。12月30日。

朝8時。俺はいつも通りに目が覚めたが、凛はまだスヤスヤと夢の中だった。

今日はお正月の買い出しに行こうか、くらいで特に予定の時間は決めていなかったので、「まあ、寝かせておくか」としばらくリビングで温かいお茶を飲みながらのんびりと過ごした。

しかし、時計の針が9時を回っても、一向に起きてくる気配がない。

「さすがに、そろそろ起こすか」

寝室のドアをそっと開ける。

ベッドの上では、凛が俺のパーカーを着た抱き枕をギュウッと抱きしめたまま、微動だにせず眠っていた。

(……生きてるよな?)

あまりにも静かな寝息に少しだけ心配になり、そっと近づいて彼女の首元に指を触れてみる。

トクン、トクン。

温かい体温と、規則正しい脈の動き。

ちゃんと生きていることを確認して、ホッと胸を撫で下ろした。

その時、完全に油断しきった無防備な寝顔を見ているうちに、俺の中に少しだけいたずら心が芽生えた。

(……起きてないなら、バレないよな)

俺はそっと、凛が固くホールドしている抱き枕を少しだけ横にずらす。

そして身を屈め、静かに眠る彼女の柔らかい唇に――チュッ、と、軽くキスを落とした。

「……んっ」

すると、そのわずかな刺激で凛の長いまつ毛が震え、パチリと目が開いた。

寝ぼけ眼で俺を見つめ、ぽやっとした声で呟く。

「……あさひ、くん……?」

(いや、童話のお姫様か!!)

キスで目覚めるという、あまりにも完璧すぎるシチュエーションに、俺は心の中で盛大にツッコミを入れた。

「……ん、あれ……?」

凛は目を瞬かせながら、少しだけ身を起こした。

そして、自分の唇にちょこんと指先を当てて、ジト目で俺を見上げてくる。

「……朝陽くん。今、ちゅーした?」

「っ!? し、してないしてない! 気のせいだろ!」

俺は声が裏返りそうになるのを必死に堪えながら、全力で首を横に振った。

「えー? 本当に? なんだか、すごく柔らかいものが触れた気がしたんだけど……」

「きのせいだって! 凛が寝ぼけて、夢でも見てたんじゃないか?」

「うーん……そう、なのかなぁ……」

まだ少し疑わしげに俺の顔をじーっと見つめてくる凛。

完全にバレている気もするが、ここであっさりと認めるのはあまりにも恥ずかしすぎる。

俺は誤魔化すようにパンパンと手を叩き、わざとらしく明るい声を出した。

「ほら、いつまで寝ぼけてるんだ。早く顔洗って着替えてこいよ。もう9時過ぎてるぞ」

「えっ!? うそ、私そんなに寝坊したの!?」

「ああ。今日はこれから、お正月に使う食材とか飾りとか、色々買い出しに行くんだろ? 歯を磨いて、朝ご飯を食べたらすぐ出発するぞ」

「わっ、大変! 今すぐ支度するね!」

お正月の買い出しというワードで完全に目が覚めたのか、凛は抱き枕をベッドに放り投げ、慌てて洗面所へとパタパタと駆けていった。

その後ろ姿を見送りながら、俺はドッと疲れを感じてその場に座り込んだ。

「……はぁ。心臓に悪い……」

自分の唇を指でなぞると、先ほどの柔らかい感触がまだ微かに残っている気がした。

不意打ちのキスなんて、柄にもないことをするもんじゃないな。

……でも、目を覚ました瞬間の凛の顔は、とても可愛かったけれど。

少しだけ火照る頬を手でパタパタと仰ぎながら、俺も簡単な朝ご飯の準備をするために、急いでキッチンへと向かった。