作品タイトル不明
第357話:昼下がりの忘年会と、白熱するトランプ大会
ピンポーン。
お昼時を少し回った頃、アパートのチャイムが賑やかに鳴り響いた。
「お邪魔しまーす!」
「朝陽、お肉とスナック菓子買ってきたぞー!」
「ジュースも冷えてるの持ってきたよ!」
玄関を開けると大輝と寺田さん、そして佐藤さんが寒さを吹き飛ばすような笑顔で入ってきた。
「おう、みんなありがとな。準備はもうバッチリだから、早速リビングに入ってくれ」
部屋に案内すると、三人はすでにテーブルの上でスタンバイしているホットプレートと、その脇に並べられた食材を見て、一斉に声を上げた。
「えっ、ちょっと待って。この大トロみたいなすごいお刺身は何!?」
「ほんとだ! 焼肉パーティーで、こんな豪華なお刺身まで食べられるなんて……!」
目を丸くする佐藤さんと寺田さんに、朝陽は少し照れくさそうに笑いながら説明した。
「昨日、市場とお肉屋さんで買ってきたんだ。ちなみに、この魚介類に関しては凛のおじいちゃんとおばあちゃんがお金を出してくれたんだよ」
「へえーっ! 凛ちゃんのおじいちゃんたち、太っ腹!」
「凛ちゃん、後で私たちからもお礼言ってたって伝えてね!」
「うんっ、伝えるね。みんな、いらっしゃい」
凛が嬉しそうに頷きながら、みんなにコップとお茶を配っていく。
その手際の良さと完璧なテーブルセットを見て、大輝が感心したように息を吐いた。
「いやー、瀬戸の準備の手際の良さは相変わらずだな。ほんと、こいつに任せておけば間違いないよな」
「でしょ? 朝陽くんのご飯、本当に美味しいんだから」
大輝からの褒め言葉に、なぜか凛が少しだけ得意げに胸を張っている。
そんな彼女が可愛くて、朝陽は思わず口元を綻ばせた。
「よし、それじゃあ、今年一年お疲れ様! 乾杯!」
「「「「乾杯!!」」」」
炭酸ジュースの入ったコップをカチンと合わせ、賑やかな忘年会がスタートした。
ジュワァァァッ……!
みんなで思い思いにホットプレートの上へお肉を乗せると、耳を幸せにする豪快な音が響き渡る。
朝陽特製のもみダレに漬け込んだ牛カルビが焼ける匂いと、ごま油の香ばしい匂いが一気に部屋を満たした。
「よし、焼けたんじゃないか?」
「うおお、いただきまーす! ……んんっ! 美味すぎる!!」
「このもみダレ、最高! 白米が無限にいけちゃうよ!」
熱々のお肉を次々と白米の上のワンバウンドさせて、もの凄い勢いで掻き込んでいく大輝たち。
凛も、友人たちの賑やかな雰囲気にすっかり馴染み、佐藤さんや寺田さんと笑い合いながら、美味しそうに塩だれ豚トロを頬張っていた。
みんなで一緒に網を囲んで食べるこの空間が、たまらなく心地よかった。
しばらくして、みんなのお腹が少し落ち着いてきた頃。
コップのジュースを飲みながら、佐藤さんがふぅと息を吐いて呟いた。
「いやー、今年も色んなことがあったねー。学校行事とか、結構ドタバタしたし」
「ほんとそれ。……でもさ、来年はいよいよ3年生なんだよな。みんな、進路とか受験とか、どうするんだろ」
ぽつりと言い落とされた大輝の言葉に、リビングの空気がほんの少しだけ、現実的でしんみりとしたものに変わりかける。
「ストーーップ!!」
すかさず、隣に座っていた寺田さんが大輝の肩をペシッと叩いて声を張り上げた。
「せっかくの楽しい忘年会で、そういうリアルで暗くなる話は禁止! 受験の話とかは、また今度学校が始まってから嫌というほど話すでしょ!」
「そうそう! 今日はとにかく、残りの焼肉とお刺身を全力で楽しむ日!」
佐藤さんも力強く同調し、一瞬のしんみりムードは一瞬で吹き飛んだ。
「あはは、悪かった悪かった」「じゃあ、このカルビは俺がもらう!」「あ、ちょっと大輝くんずるい!」と、再び賑やかなお肉の争奪戦が再開された。
食後、お腹がいっぱいになって一息ついた頃。
朝陽の家にはテレビゲーム機がないため、大輝が「はい、これ!」とバックからカードの箱を取り出した。
「トランプ持ってきたぜ! 久しぶりにみんなで大富豪とかババ抜きやろう!」
「おっ、いいな! 負けたやつは罰ゲームな」
テーブルの上を手早く片付け、五人で輪になってトランプ大会が始まった。
最初は少し遠慮がちに参加していた凛だったが、ゲームが進むにつれてどんどん熱を帯びていく。
「ああっ! またババを引いちゃった……!」
「凛ちゃん、顔に出やすいからすぐ分かるよー(笑)」
「うぅ……もう一回、もう一回お願い! 次は絶対に勝つから!」
負けず嫌いな一面が顔を出し、顔を真っ赤にしながらカードを引く凛。
ただただ楽しそうにはしゃぐ彼女の姿を隣で見つめながら、朝陽は深い愛おしさを感じていた。
楽しい時間はあっという間に過ぎ去り、ふと窓の外を見ると、辺りはすっかり夕暮れ時になっていた。
「うわ、もうこんな時間か! 盛り上がりすぎて気づかなかったわ」
「そろそろ暗くなるし、私たち帰ろうか」
「朝陽くん、凛ちゃん、今日は本当にごちそうさま! めちゃくちゃ楽しかった!」
大輝たち三人が立ち上がり、帰り支度を始める。
「おう、みんな来てくれてありがとな。ジュースやお肉も助かったよ」
「また来年もよろしくね。気をつけて帰ってね」
靴を履きながら、ふと寺田さんが顔を上げ、ニヤニヤと悪戯っぽい笑みを浮かべて俺と凛を交互に見つめた。
「そういえば、二人ともこれから年末年始はずっと一緒に過ごすんでしょ?」
「えっ……う、うん」
「ふふっ。お休みで浮かれるのはわかるけど、あんまり羽目を外しすぎちゃダメだからね?」
「そーそー! 若いからってイチャイチャしすぎないようにねー!」
寺田さんの言葉に、佐藤さんも楽しそうに笑いながら乗っかってくる。
その言葉の裏にある意味を察した凛の顔が、ポンッと音を立てるように一瞬で真っ赤に染まった。
「だ、だだだ、大丈夫だってば!! そんな、羽目を外すようなことなんてしないもんっ!!」
「あはは! 凛ちゃん顔真っ赤! 可愛いー! ほら大輝、私たちはお邪魔虫だからとっとと帰るよ!」
「お、おう!冬月さん、朝陽のことしっかり頼むぞ! じゃあな、良いお年を!」
「朝陽くん、凛ちゃん、また来年ねー!」
玄関で賑やかに手を振り合い、三人は笑い声を残してアパートを後にしていった。
パタン、とドアが閉まる。
嵐が去ったように静かになった玄関。しかし、部屋の中には、まだみんなでワイワイと過ごした楽しい余韻と、からかわれた照れくささがほんのりと残っていた。
「……ふふっ、楽しかったね、朝陽くん」
まだ少しだけ頬を朱に染めている凛が、名残惜しそうに、けれど本当に幸せそうな笑顔を向けた。
「ああ。良い忘年会になったな」
俺は彼女の隣に並び、その柔らかな微笑みを見つめ返した。
明日からは、いよいよ二人きりで過ごす年末。
そして、その後には凛の実家への帰省イベントが待っている。
残った部屋の温もりを感じながら、俺たちの穏やかな冬休みは、ゆっくりと更けていった。