軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第351話:理解者と、カフェでの秘密

「……凛を傍で支えてくれたこと……祖父として、心から礼を言う。ありがとうな」

源蔵さんのその不器用で温かい言葉を皮切りに、個室を満たしていた重い緊張感は、春の雪解けのようにスッと溶けて消え去った。

俺と凛は顔を見合わせ、ホッと安堵の微笑みを交わす。

テーブルの下で繋いだままの手にギュッと力がこもり、彼女の指先から伝わってくる嬉しそうな体温に、俺も自然と口元が緩んだ。

(……よかった。)

そんな平和で穏やかな空気が流れる中。

源蔵さんは温かいお茶をズズッと啜り、ふと思い出したように顔を上げた。

「……そういえば、母さん」

「ん? なあに」

「ちなみにだが……凛の両親はこのことを知っているのか? 朝陽くんと凛が付き合っていることは……」

恐る恐る尋ねる源蔵さんに、おばあ様はさも当然のようにあっさりと頷いた。

「ええ、知っているわよ」

「…………」

源蔵さんの動きが、ピタッと止まった。

「……母さん。お前、さっきから知っていたような口ぶりだったが……」

「ええ。私も知っていたわよ」

「なっ……! ま、まさか凛に彼氏がいること……身内で知らなかったのは、わしだけなのか!?」

事実を知り、愕然として目を見開くおじい様。

そのあまりに哀愁漂う姿に、おばあ様はクスッと上品に笑ってフォローを入れた。

「本当は、あなたにも話そうか迷ったのだけどね。……ほら、あなたたち、まだ少しギクシャクしていたじゃない?」

「うぐっ……」

「だから、4人で話し合って、今はまだ内緒にしておこうって決めたのよ」

「よ、4人で話し合った……? いったい、いつそんな時間があったんだ。わしは何も聞いておらんぞ」

完全に蚊帳の外だったことにショックを受け、ヨレヨレと項垂れる源蔵さん。

そんなおじい様に、今度は凛が少し申し訳なさそうに口を開いた。

「えっとね、前回……クリスマスの前に、おばあちゃんと駅まで迎えに行ったじゃない?」

「ああ。わしは家で、ご馳走を作って待っていた日だな」

「うん。あの帰り、家に帰る前に少しだけ、駅前のカフェでお話をしたの」

「あの時か……!」

『彼氏がいる』なんて報告をすれば、イラストの件で意地を張っていた源蔵さんをさらに刺激してしまうかもしれない。

そう考えた家族たちの気遣い(という名の隔離)だったのだが、結果的に源蔵さんへ特大のダメージを与えてしまったらしい。

「……そうか。あのカフェで、4人で話し合って……」

源蔵さんがブツブツと呟きながら納得しかけた、その時だった。

「4人で……あぁ、いいえ」

おばあ様が、ふと思いついたようにポンと手を打ち、ニコニコと悪戯っぽい笑みを浮かべて俺の方を見た。

「あの時は、5人だったわね」

「「……5人?」」

源蔵さんと凛が、同時に首を傾げる。

おばあ様は、そんな二人の疑問には直接答えず、優雅にお茶を一口飲んでから、俺に向かって爆弾を投下した。

「ねぇ、瀬戸さん。あなたもあの時……あのカフェにいたわよね?」

「「えっ」」

ピタッ、と。

凛の動きが、文字通り完全にフリーズした。

俺は一瞬だけ天井を仰ぎ、観念したように苦笑いを浮かべて頷いた。

「……はい。実は、たまたま近くの席にいまして」

「ほ、本当に!? 気づかなかった……!」

凛は驚きの声をあげ、顔色がみるみるうちに沸騰したように真っ赤に染まっていく。

テーブルの下で繋いでいた彼女の手が、ビクッと大きく跳ねた。

(……そりゃあ、動揺するよな)

俺はあの日のカフェで、観葉植物の陰から、凛の家族会議を最初から最後までバッチリ聞いていたのだ。

『……朝陽くんのご飯、すっごく美味しいの』

『優しくて、かっこよくて……私のこと、いつも一番に考えてくれて』

『……私、朝陽くんのことが、大好きなの』

親の前で、これ以上ないほど俺への惚気を全開にし、真っ赤になりながら『大好き』と宣言していた凛の姿を。

「ま、待って!? 朝陽くん、あの時いたの!?」

ガタッ! と音を立てて身を乗り出し、凛が涙目になって俺に詰め寄ってくる。

学校で見せる『氷の令嬢』の面影など微塵もない、年相応の、ただの恋する女の子のパニック顔だ。

「ぜ、全部……!? 最初から最後まで、全部聞いてたの!?」

「あー……うん。まあ、偶然だけどな」

「うわあああっ! 恥ずかしいっ! なんで言ってくれなかったのバカ!」

顔から火が出そうなほど赤面した凛が、俺のコートの袖をポカポカと叩いてくる。

俺はそんな彼女の照れ隠しの抵抗を避けもせず、愛おしさに目を細めて、彼女の耳元で甘く囁いた。

「ごめん。でも、凛の気持ちが聞けて、すっごく嬉しかったよ」

「〜〜〜〜〜〜っ!!」

俺の言葉に、凛は限界を突破して両手で顔を覆い、机に突っ伏してしまった。

耳の先まで真っ赤になっているのが丸わかりで、最高に可愛い。

「……おい。わしの目の前で、何を見せつけられとるんだ、これは」

完全に二人の 世界(イチャイチャ) に入ってしまった俺たちを見て、源蔵さんがジト目で呆れたように呟く。

おばあ様は「ふふっ、ご馳走様」と楽しそうに笑っていた。

平和で、甘くて、少しだけ騒がしい。

そんな温かい空気の中、ベストなタイミングでふすまが開き、店員さんが入ってきた。

「お待たせいたしました。特上・海鮮丼の四つ盛りでございます」

運ばれてきたのは、丼から溢れんばかりに海の幸が輝く、極上の海鮮丼だった。