軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第332話:悪夢の終わりと、サンタ服検索

「はぁーっ……」

帰りがけにレンタルビデオ店に寄り、明後日二人で観るためのDVDを借りてから俺たちの家に帰宅した。

両手いっぱいの荷物を下ろし、買ってきた食材を冷蔵庫にしまい終えた俺は、キッチンの前で深々と安堵の溜息をついた。

今日一日、駅でもモールでも、ちょっとした段差でも。

俺は絶対に凛の手を離さなかった。

彼女をエスコートし、守り抜くことができた。

朝見たあの心臓に悪い夢が、正夢にならなくて本当に良かったと、心底ホッとしていた。

——でも。

ホッとした隙間に入り込むように。

ふとした瞬間、俺の脳裏に『夢の中で階段から落ちていく凛の顔』が、スローモーションのようにフラッシュバックした。

(……っ)

ただの夢だ。

分かっているのに、胸の奥がギュッと鷲掴みにされたように苦しくなる。

失うかもしれないという恐怖が、冷たい水のように足元から這い上がってくる。

「……凛」

俺は気付けば、リビングのソファで寛いでいた凛の元へ歩み寄り、その細い体を両腕で力いっぱい、ギュッと抱きしめていた。

「わっ……朝陽くん?」

「ごめん、ちょっとだけ……」

情けない声が出た。

いつもは俺が彼女の世話を焼いて、守っているつもりなのに。

今の俺は、不安で仕方がない迷子の子供みたいだった。

けれど、凛は驚くことも、強く抱きしめられて怒ることもなかった。

俺がまだ、朝の悪夢の恐怖を引きずっていることを察してくれたのだろう。

彼女の柔らかい両腕が俺の背中に回り、トントン、と一定のリズムで優しく叩いてくれる。

「大丈夫だよ」

耳元で聞こえる、甘くて、どこまでも優しい声。

「どこにも行かないし、落ちないよ。大丈夫、大丈夫だからね」

その温もりと、甘いシャンプーの香りと、俺を全肯定してくれる言葉。

それが、冷え切っていた俺の心の奥底までじんわりと染み渡り、不安を完全に溶かしてくれた。

「……ありがとな。もう大丈夫だ」

「ふふっ。いつでもぎゅーってしていいんだからね」

悪夢の呪縛から解放された後。

俺たちは向かい合って、少し遅めの晩御飯を食べていた。

明日からの24日、25日は、チキンやクリスマスケーキなど、高カロリーなご馳走が続くことが確定している。

だからこそ、今夜はあえて胃に優しいヘルシーなメニューにした。

『豚肉の冷しゃぶ定食(海藻サラダ添え)』と、炊きたての白いご飯、そして湯気を立てる豆腐とわかめの温かいお味噌汁だ。

「ん〜っ! 豚肉が甘くて美味しい……っ」

「暖かい部屋で食べる冷しゃぶも、さっぱりしてて結構ありだろ」

「うんっ! ごまだれのコクがすっごく合うし、いくらでも食べられそう!」

サッと湯通しして氷水で締めた豚肉は、余分な脂が落ちて柔らかく、それでいて肉の旨味がギュッと閉じ込められている。

シャキシャキのレタスや海藻と一緒に、濃厚なごまだれや、さっぱりとしたポン酢を絡めて白米にバウンドさせる。

冷たいおかずと温かいご飯、そしてお味噌汁の無限ループがたまらない。

美味しいご飯でお腹を満たし、それぞれ別々にお風呂を済ませた後。

いつものようにストレッチと入念なマッサージを施すと、凛は完全に骨抜きにされ、ソファの上で「ふにゃふにゃ」の液体と化していた。

「ほら、ココア淹れたぞ」

「んふふ……ありがとぉ」

スーパーで買ってきたココアパウダーを温かいミルクで溶き、真っ白なマシュマロをいくつか浮かべた特製ココア。

熱でマシュマロがとろとろに溶けていくのを眺めながら、俺たちは甘い夜更かしの時間を楽しんでいた。

ふと隣を見ると、マグカップを片手に持った凛が、もう片方の手でスマホを操作し、真剣な顔で画面を見つめていた。

「ん? 何見てるんだ?」

「えっとね……」

俺が横からスマホの画面を覗き込むと、そこにはネット通販のサイトが開かれていた。

検索窓に入力されているワードは——『サンタ服 コスプレ レディース』。

「……は?」

「私でも着れるようなの、ないかなって思って。……あ、これとか可愛くない?」

「冗談だから! マジでやめて!?」

俺は全力でスマホの画面を手で覆い隠した。

凛が少しだけジト目になり、唇を尖らせる。

「むー。私のサンタ姿は、お気に召さない?」

「違う! お気に召しすぎるから、俺の心臓が持たないんだって!」

「えへへ、朝陽くん顔真っ赤」

からかうように笑う彼女につられて、俺も結局、笑ってしまった。

そんな甘くて騒がしい夜更かしを経て、俺たちは一緒に布団へと潜り込んだ。

腕の中には、大好きな彼女の確かな温もり。

今夜はもう、悪夢を見る気配なんて欠片もなかった。

——チュンチュン、チュン。

小鳥のさえずりと共に、カーテンの隙間から冬の澄んだ朝の光が差し込んでくる。

ゆっくりと目を開けると、すぐ目の前で、世界で一番可愛い笑顔が待っていた。

「おはよう、朝陽くん。メリー・クリスマスイブ!」

12月24日。

俺たちの、最高に幸せなクリスマスが幕を開けた。