作品タイトル不明
第331話:25日朝の約束と、想像だけのサンタクロース
「凛、財布ほんとにありがとうな。大事に使うよ」
「えへへ、どういたしまして!」
ショッピングモールを出て、目的の大型スーパーへと向かう道すがら。
俺のチェスターコートのポケットには、凛からもらったばかりの上質な本革の財布が収まっている。
その確かな重みを感じながら、俺は繋いだ手に少しだけ力を込めた。
「……実はさ、俺も凛へのクリスマスプレゼント、もう用意してあるんだ」
「えっ、ほんと!?」
俺の言葉に、凛はパァッと顔を輝かせて身を乗り出してきた。
「どこどこ? 今持ってるの?」
「いや、家にある。でも、渡すのは25日の朝。……サンタさんからのプレゼントだからな」
「もう、朝陽くんったら私を子供扱いして〜!」
ぷくっと頬を膨らませて抗議しつつも、その表情はこれ以上ないくらいに緩みっぱなしだ。
「でも……すっごく楽しみ。早く25日にならないかなぁ」
「俺も、凛が喜んでくれるといいんだけどな」
そんな他愛のない、けれど最高に幸せな会話を交わしながら、俺たちは賑わうスーパーの中へと足を踏み入れた。
店内は、クリスマス・イブの前日ということもあり、大勢の買い物客とマライア・キャリーのBGMで活気に満ち溢れていた。
「えっと、まずはメインのチキンだな」
「あ、朝陽くん、このお肉すごく美味しそう! これにしよ!」
二人で一つのショッピングカートを押し、精肉コーナーで骨付きの鶏肉を選ぶ。
続いて青果コーナーへ行き、ケーキに飾るための真っ赤で大きなイチゴを2パックと、生クリームをカゴに入れた。
一緒にスーパーへ来るのは日常茶飯事だが、カゴの中身がクリスマス仕様になっているだけで、付き合って初めてのクリスマスという実感が湧いてくる。
「よし、食材はこんなもんか。……あ、そうだ」
俺はカートの向きを変え、お茶やコーヒーのコーナーへと向かった。
そして『ココアパウダー』と『マシュマロ』、さらには凛が好きな甘いスナック菓子をいくつかカゴに追加する。
「朝陽くん、これ……」
「今日と明日、また一緒に夜更かしするかもしれないだろ? その時用に、な」
「……ふふっ。お泊まり、確定だね」
凛は嬉しそうに目を細め、カートを押す俺の腕にギュッとすり寄ってきた。
昨日の夜も一緒に寝たのに、今日も、そして明日も一緒にいられる。その事実がたまらなく愛おしかった。
「じゃあ、そろそろレジに行くか」
カートを押し、レジへと向かうメイン通路を歩いていた時のことだ。
特設コーナーの前で、クリスマスケーキの予約販売を呼びかけている女性の店員さんが目に入った。
その店員さんは、赤いスカートに白いフワフワの飾りがついた『サンタクロースの衣装』を着ていた。
「……」
俺は思わず足を止め、そのサンタ服を「じーっ」と見つめてしまった。
——ギチッ。
「痛っ!?」
突然、繋いでいた右手を万力のような力で握り潰されそうになり、俺はハッと我に返った。
隣を見ると、凛が氷点下のジト目でこちらを睨みつけている。
「……朝陽くん、何見てるの?」
「えっ? いや、あの……」
「私っていう『彼女』がいながら、他のお姉さんのサンタ姿に見惚れるなんて……」
プイッとそっぽを向き、ぷくーっと頬を限界まで膨らませる凛。
付き合っている彼女としての、ストレートで可愛すぎるヤキモチ。
俺は慌てて首を横に振り、全力で弁解した。
「ち、違う! 誤解だ! 俺はお姉さんを見てたんじゃなくて……!」
「じゃあ何を見てたのよ」
「『あのサンタ服、凛が着たら絶対にすげぇ可愛いだろうな』って想像して、勝手にダメージ受けてただけだ!」
「……えっ」
俺の口から飛び出した正直すぎる本音に、凛は一瞬ポカンとした後。
耳の先まで一気に真っ赤に染め上げ、繋いでいる手からシューッと煙が出そうなほどの熱を発し始めた。
「な、なんだ。そういうことなら……いい、けど」
「ごめん、変なとこで立ち止まって」
「……着て、ほしいの?」
俯き加減で、上目遣いにこちらをチラリと見てくる令嬢。
俺の脳内で、先ほどのサンタ服を着た凛が「メリークリスマス」と微笑む姿が完全に再生された。
「……いや。破壊力が高すぎて俺の心臓が確実に止まるから、頭の中だけの秘密にしとくよ」
「むー、なにそれ。ずるい」
恥ずかしさを誤魔化すように、俺は逃げるようにしてレジへと向かった。
お会計の時、凛にもらったばかりの革財布を取り出すと、隣で凛が「えへへ」と誇らしげに微笑んでいた。
両手いっぱいの荷物と、それ以上の幸せを抱えて。
俺たちは、温かい二人の家への帰路についたのだった。