作品タイトル不明
第324話:とろけるピザトーストと、年末に向けて
「……んん。……あと、五分だけ……」
12月21日、月曜日の朝。
冷え切った冬の空気が漂う部屋の中で、俺の胸にすっぽりと顔を埋めた凛が、子猫のようにすりすりと身を寄せてくる。
「こら、起きろ。朝ごはん食べる時間がなくなるぞ」
俺はそう言いながらも、二日ぶりに味わう『一緒のベッド』の温もりと、腕の中にいる凛の柔らかさに後ろ髪を引かれまくっていた。
本当ならこのまま一生布団の中で寝ていたいところだが、今日と明日を乗り切れば待ちに待った冬休みがやってくるのだ。
「ほら、今日は凛の好きなチーズたっぷりのやつにするから」
「……ちーず……? 起きる……」
食欲というわかりやすい言葉でなんとか凛をベッドから引っ張り出し、俺はキッチンへと向かった。
今日の朝ごはんは、気分を変えて洋食だ。
厚切りの食パンにケチャップベースのソースをたっぷり塗り、スライスした玉ねぎ、ピーマン、カリッと焼いたベーコンを乗せる。
その上から、これでもかというほど大量のミックスチーズをふりかけてトースターへ。
数分後。チーンという音と共に、チーズの焦げた香ばしい匂いと、ピーマンの少し爽やかな香りがキッチンに広がる。
「わぁ……美味しそう!」
「熱いから気をつけて食べろよ」
ダイニングテーブルには、こんがりと焼き色のついた特製ピザトーストと、湯気を立てる温かいコーンスープ。
凛がトーストを両手で持ち、小さく口を開けてかじりつく。
「んっ……!」
サクッという心地よい音の後、とろとろに溶けた熱々のチーズが、みょーんと長く伸びた。
パンの甘みとベーコンの塩気、そこにシャキシャキとした玉ねぎの食感が加わり、凛はみるみるうちに目を輝かせていく。
「んふふっ、美味しいっ。チーズとろとろ……」
「口の端、ケチャップついてるぞ」
俺は苦笑しながらペーパーで凛の口元を拭ってやり、温かいコーンスープで冷えた体を芯から温めた。
美味しい朝ごはんで完全に目を覚ました俺たちは、しっかりと手を繋ぎ、白い息を吐きながら学校へと向かった。
明日で授業が終わり、明後日からは冬休み。
その事実だけで、今日の学校全体がどこかそわそわと浮かれた空気に包まれていた。
お昼休み。
定位置である中庭のベンチには、いつものように凛がやってきて、さらに大輝、寺田さん、佐藤さんという仲良しメンバーが自然と集まっていた。
5人でベンチや適当な段差に腰掛け、それぞれのお弁当を広げる。
「いやー、ついに冬休みだなー! 今年の冬はめっちゃ寒くなりそうだけど」
大輝が唐突にそんなことを言いながら、ニヤニヤと悪戯っぽい笑みを浮かべて俺と凛の方を見た。
「てか、お前ら二人はクリスマスどうすんの? どっか有名なイルミネーションとか見に行ったりするのか?」
「えっ」
大輝のストレートな質問に、凛が少しだけ肩を揺らす。
俺たちは顔を見合わせ、俺が代表して答えることにした。
「いや、人混みは疲れるし、今年は俺の家でパーティーする予定だ。骨付きのチキン焼いて、ケーキも俺が作る」
「そう! 朝陽くんの手作りケーキ、すっごく楽しみなの」
凛が少しだけ頬を染めながら、まるで「私の彼氏、すごいでしょ」とでも言いたげな、少しだけ誇らしげな笑顔を見せる。
普段、学校では『氷の令嬢』としてクールに振る舞っている彼女が、俺の手料理の話題になると途端にこんなデレた顔になるのだ。
「うわーっ、甘っ!! 何そのおうちデート! 手作りケーキとか女子力高すぎでしょ瀬戸くん!」
「リア充爆発しろ!」
大輝が頭を抱えて身悶えし、寺田さんも手を叩いて笑っている。
だが、俺もただ黙って言われっぱなしになるつもりはない。
「大輝、お前だって寺田さんと付き合ってんだから、立派なリア充だろうが!」
俺がすかさずブーメラン・ツッコミを入れると、大輝は「うぐっ」と急に言葉を詰まらせた。
隣に座る寺田さんも、急に顔を真っ赤にしてお弁当の卵焼きを凝視し始めている。
「ふふっ、二人ともお似合いだよ」
佐藤さんが温かくフォローを入れ、5人の間にドッと笑い声が弾けた。
「あ、そうだ。ねえ、クリスマスはそれぞれの予定があるとしてさ」
佐藤さんが、ふと思いついたように手を合わせる。
「年末までに、もう一回この5人で集まって忘年会しない? 年越す前に、パーっと遊びたいし!」
「おっ、大賛成! 忘年会しよーぜ!」
大輝がすぐに食いつき、寺田さんも大きく頷く。
「この間、朝陽の家でやった焼肉パーティー、めっちゃ楽しかったしな! なあ、もう一回朝陽んちで焼肉やらせてくれないか?」
「今度こそ、ちゃんとお肉代はみんなで割り勘して、高いお肉買いに行こうよ!」
寺田さんの提案に、俺と凛はもう一度顔を見合わせた。
二人きりで過ごす甘い時間も最高だけれど、こうして気心の知れた友人たちとワイワイ騒ぐ時間も、たまらなく楽しい。
「いいね。うちで良ければ、またやろうか」
「うんっ。みんなで食べるお肉も、すっごく美味しかったもんね」
俺たちが頷くと、「よっしゃー!」という大輝の歓声が中庭に響き渡った。
クリスマスは、二人きりで甘いおうちデート。
そして年末は、友人たちとワイワイ賑やかな焼肉パーティー。
冬休みの最高の予定が次々と確定していく多幸感の中、5人の笑い声に重なるように、お昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴り響いた。