軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第288話:特等席と、小動物への餌付けタイム

凛の部屋でのイラストお披露目会と、日課のストレッチ&マッサージを終えた俺たちは、再び俺の部屋へと戻ってきた。

時刻はすでに深夜に差し掛かろうとしている。

「さて、それじゃあ昨日の続きというか、今日も映画でも見るか」

「うんっ! 今日はね、私が選んだやつ!」

凛が意気揚々と選んだのは、洋画のアクション映画だった。

ただのアクションではなく、暗闇から急に敵が飛び出してきたり、突然の爆発音があったりと、いわゆる『びっくり要素』が強めのスリリングな作品だ。

部屋のメイン照明を落とし、間接照明だけの薄暗い空間を作る。

ローテーブルの上には、俺が買っておいたぶどう味のグミやスナック菓子、凛用の100パーセントりんごジュース、そして俺用のコーラをセットした。

「よし、再生するぞ」

俺がリモコンのボタンを押し、ソファに腰を下ろす。

凛も俺のすぐ隣にチョコンと座り、画面の中で繰り広げられる銃撃戦を食い入るように見つめ始めた。

最初は、肩が触れ合うか触れ合わないかくらいの距離で、並んでソファに座っていたのだ。

しかし、映画が始まって15分ほど経った頃。

「……ん」

凛が不意に立ち上がり、俺のパジャマの袖をツンツンと引っ張った。

「ん? どうした? トイレか?」

「ううん。……朝陽くん、下」

凛はそう言って、ソファの足元、毛足の長いフカフカのラグマットを指差した。

「下に座るのか? まあ、いいけど」

言われるがままにソファから降りて、ラグマットの上にあぐらをかいて座る。

すると、凛はクルリと俺に背を向け、そのまま後ずさりするようにして、俺の開いた両足の間に『すぽっ』と収まった。

そして、俺の胸に自分の背中をピタリとくっつけ、完全に体重を預けて寄りかかってきたのだ。

「……お前なぁ」

「えへへ。ここ、すっごく落ち着く」

俺のあぐらの中という、彼女サイズの特等席。

(なるほど、これがやりたかったのか……)と呆れつつも、自分からすり寄ってくる小動物のような可愛さに、俺は文句を言う気すら起きなかった。

「……まあ、お前が楽ならいいけど。寒くないか?」

「うん。朝陽くんがあったかいから、全然寒くないよ」

俺の胸に後頭部をぐりぐりと押し付けてポジションを微調整した凛は、満足そうに映画の画面へと視線を戻した。

こうして、俺のあぐらの中に凛がすっぽりと収まり、俺が後ろから彼女を包み込むような体勢での映画鑑賞がスタートした。

劇中では、主人公が薄暗い廃工場に潜入しているシーンが流れている。

BGMが消え、静寂が張り詰めた、その直後。

『――バーーンッ!!』

突然、画面の端から敵が飛び出し、大音量の銃声が響き渡った。

「ひぅっ!?」

俺の腕の中で、凛の小さな体が「ビクッ!」と大きく跳ねた。

とっさに俺の腕をギュッと掴み、さらに背中を俺の胸へと押し付けてくる。

「おいおい、大丈夫か? 自分で選んだ映画だろ」

「だ、だってぇ……急に大きな音が出るんだもん……」

「怖かったら見るのやめるか?」

「ううん、見る! 続き気になるもん」

強がりながらも、怖いシーンが来るたびにビクッとして俺にしがみついてくる。

その度にパジャマ越しに伝わってくる彼女の体温と、ふわりと香るカモミールの匂いに、俺の内心の庇護欲はめちゃくちゃに刺激されていた。

映画が中盤に差し掛かった頃。

俺はテーブルの上の袋に手を伸ばし、ぶどう味のグミを一つ摘んで自分の口に放り込んだ。

甘酸っぱいぶどうの香りが口の中に広がる。

クチャ、と咀嚼音を立てた瞬間。

くるり。

あぐらの中にいる凛が、映画の画面からスッと視線を外し、振り返って俺の顔を見上げてきた。

「……ん? どうした?」

俺が尋ねても、凛は無言のまま。

ただ、俺の口元と、俺の手の中にあるグミの袋を『じーっ……』と見つめている。

「……もしかして、食うか?」

「…………(こくり)」

小さな子供のように無言で頷く彼女に苦笑しながら、俺は袋から紫色のグミを一つ摘み出した。

「ほら、あーん」

俺がグミを口元に運んでやると、凛は「あむっ」と小さく口を開けてそれを受け取った。

俺の指先に、彼女の柔らかい唇がかすかに触れる。

「んふっ……美味しい」

「お前、自分の分のお菓子もあるだろ。」

「だって、朝陽くんが食べてるのを見ると、なんだか特別美味しそうに見えるんだもん」

もきゅもきゅと幸せそうにグミを咀嚼する姿は、完全に餌付けされている小動物そのものだ。

さらにしばらくして、今度は喉が渇いた俺が、グラスに入ったコーラを飲んだ時だった。

炭酸の刺激で喉を潤し、グラスをテーブルにコトッと置く。

くるり。

またしても、腕の中の凛が振り返った。

そして今度は、テーブルの上のコーラのグラスと、俺の顔を交互に『じーっ……』と見つめてくる。

「……凜さん、自分のりんごジュース、まだたっぷり残ってる」

「…………(じーっ)」

一切の反論も言い訳もせず、ただただ上目遣いで訴えかけてくる。

この無言のおねだりに抗える人間がいるのだろうか。いや、いない。

「……ちょっとだけだぞ。」

「わぁいっ」

俺がグラスを口元まで運んでやると、凛は嬉しそうに両手で俺の手を包み込み、グラスの縁から直接コーラを飲んだ。

ゴクッ、と小さな喉が鳴る。

さっき俺が口をつけたのと、全く同じ場所から。

いわゆる間接キスというやつだが、このゼロ距離の体勢で今更そんなことを意識して赤面するほど、俺の心臓もやわではなくなっていた。

「んっ……ぷはぁ。しゅわしゅわするぅ」

「ほら、こぼすなよ。口の周り拭け」

「えへへ、ありがと」

満足そうに笑って再び俺の胸に寄りかかる彼女を見下ろしながら、俺はふと、なんだか巣で口を開けて待つ雛鳥に、せっせとご飯を運ぶ親鳥にでもなったような気分になった。

こんなに無防備に俺に懐いて、俺の手からご飯を食べてくれる彼女が、たまらなく愛おしい。

アクション映画の爆発音が響く中、俺は凛を包み込むようにそっと腕を回し、ただひたすらに温かい多幸感に浸っていた。