軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第289話:体形維持と、彼氏の密かなる決意

俺のあぐらの中にすっぽりと収まり、コーラを飲んで満足げに映画の続きを見ている凛。

彼女の頭を顎の下あたりに感じながら、俺の頭の中にはふと、ある純粋な疑問が浮かんでいた。

よくよく考えてみれば。

今日の夕食の『豚バラと白菜のミルフィーユ鍋』も、凛は俺と同じか、それ以上の量をペロリと平らげていた。

休日の昼間も、俺が作った飯テロみたいなカロリーの高いご飯をしっかり食べているし、こうして深夜にお菓子やジュースだって口にする。

付き合い始めてからというもの、学校が終われば俺の部屋でご飯を食べ、休日はこうして(寝る時以外は)ほぼ一日中一緒に過ごしている。

つまり、彼女の生活サイクルは俺に筒抜けなのだ。

そして俺の知る限り、凛がどこかでハードなランニングをしたり、ジムに通って筋トレをしているような形跡は一切ない。

(……なのに、なんでこんなに細いんだ……?)

俺の視線は、無意識のうちに腕の中にいる彼女の身体へと向かっていた。

もこもこのルームウェアを着ていてもわかる、華奢な肩幅。

少し動くたびに浮き出る、細い首筋から鎖骨へのライン。

そして、俺があぐらをかいた足の間にすっぽりと収まってしまう、細いウエスト。

女の子の身体をマジマジと観察するなんて下心丸出しで最低だとわかってはいるのだが、オカンとしての純粋な謎が勝ってしまい、俺の視線はどうしても彼女の身体の輪郭をなぞるように彷徨ってしまった。

「…………」

その時だった。

映画の画面を追っていたはずの凛が、ふいにモゾモゾと身を捩り、耳を真っ赤にしてこちらを振り返った。

「……あ、朝陽くん。さっきから、どこ見てるの……?」

潤んだ瞳で上目遣いに睨まれ、ルームウェアの襟元をギュッと両手で隠すようにされる。

「っ!? いや! ちが、違うぞ! 変な意味じゃなくてだな!」

ハッとして我に返った俺は、慌てて視線を明後日の方向へと逸らし、しどろもどろになりながら弁明した。

「そ、その……お前、俺の作る飯をあんなにモリモリ食って、こんな時間にジュースとかお菓子も食べてるのに……全然太らないよな、って思って。運動してる様子もないし、どうやって体型維持してんのか、純粋に疑問だったというか……」

「あ……そういうこと」

俺の必死の言い訳を聞いて、凛は警戒を解いたようにホッと肩の力を抜いた。

そして、少しだけ得意げな、いたずらっぽい笑みを浮かべる。

「ふふん。女の子にはね、色々とあるんだよ」

「いろいろってなんだよ。俺の知らないとこで腹筋とかやってんのか?」

「ううん。実はね、毎日朝陽くんにやってもらってるストレッチとマッサージ……あれが、体型維持にすっごく効いてるみたいなの」

「マジで? あの程度でか?」

「うん。血流が良くなって代謝が上がるから、太りにくい体質になるんだって。私も最近ネットで調べて知ったんだけどね。だから……朝陽くんのおかげだよ?」

そう言って、凛は俺のあぐらの中で身を捩り、俺の首に腕を回して「ぎゅっ」と甘えるように抱きついてきた。

「それにね、あとは体質もあるかもしれないけど……イラスト描く時って、頭をすっごく使うでしょ? だから、脳みそでいっぱいカロリー消費してるのかも! だからいっつもお腹空くんだよねー」

「なるほどな。あの集中力なら、確かにカロリー消費しそうだ」

言い得て妙というか、夕方に見た仕事部屋での彼女の姿を思い出すと、すんなりと納得できた。

謎が解けてスッキリした俺は安心して、俺の首に抱きついている彼女の細い背中に腕を回し、軽く抱きしめ返した。

テレビの画面からは、相変わらずアクション映画の派手な爆発音や銃撃戦の音が響いている。

けれど、今の俺の耳には、腕の中にいる彼女の穏やかな呼吸音と、カモミールの優しい香りしか入ってこない。

「……きゅるるぅ」

静かな感動と決意に浸っていた俺の耳に、信じられないほど間の抜けた音が届いた。

「…………」

「…………あはは。朝陽くん、お腹の音、鳴ってるよ?」

俺の腕の中で、凛が顔を真っ赤にして誤魔化すように笑った。

「お前が俺の分のグミとコーラ奪うからだろ。……お腹空いたのか?」

「うん……なんか、しょっぱくて温かいものが食べたいかも」

つい数秒前、「腹筋を割る」と固く誓ったばかりの俺の決意。

しかし、上目遣いで「お腹空いた」と訴えかけてくる愛しの彼女を前にして、俺の血が騒がないわけがなかった。

「……仕方ない。なんか、簡単な夜食でも作るか」

「わぁい! 朝陽くんの夜食、大好き!」

あぐらの中に彼女を抱えながら交わす、なんてことのない平和な雑談。

誰にも邪魔されない深夜の部屋で、こうして他愛のない言葉を交わしている時間が、たまらなく好きだ。

(……まあ、筋トレは明日からでいいか)

俺は彼女の柔らかい髪に頬を寄せながら、静かに、でも確かな幸福感に包まれていた。

お泊まり二日目の夜は、スリリングな映画の内容とは裏腹に、どこまでも甘く、平和に更けていくのだった。