軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第246話:買い出しデートと、少しの劣等感

「えーっと、牛カルビとハラミでしょ。あと、豚バラ肉もだね」

土曜日の午前十時。

俺と凛は、マンションから少し歩いたところにある大きめのスーパーへ買い出しに来ていた。

俺がショッピングカートを押し、凛がスマホのメモ帳を見ながら先導する。

「わぁ、このお肉、サシが入ってて美味しそう! これにしよっか?」

「そうだな。でも、カルビばっかりだと胃もたれするかもしれないから、タレにしっかり漬け込む用に、こっちの赤身の多いハラミもバランス良く買っておこう」

「なるほど! さすが朝陽くん」

二人で相談しながら、次々とパックをカゴに入れていく。

野菜や冷麺の材料なども揃え、カゴはあっという間に山盛りになった。

レジへ向かい、店員さんがスキャンした合計金額は、約一万円。

俺が財布を取り出して全額払おうとすると、凛がスッと自分の財布を出してきた。

「あっ、私も半分出すよ!」

「いや、俺が言い出したことだし、ここは俺が出すよ」

「ううん、一緒にみんなをおもてなしするんだから、ここはちゃんと半分こで出し合おうよ! その方がお互い気兼ねなく楽しめるでしょ?」

凛が真っ直ぐな目でそう言うので、俺は少し考えてから「わかった。じゃあ、半分頼むな」と頷き、彼女の提案を受け入れた。

確かに、後腐れなく楽しむためにはそれが一番いい。

二人で五千円ずつを出し合い、お会計を済ませる。

エコバッグに食材を詰めながら、俺はふと、凛がしまったばかりの財布を見つめていた。

(凛はこうやって、自分でしっかり働いてお金を稼いでるんだよな……)

凛がさっき出した五千円は、彼女が『イラストレーター』としての仕事で、自分の力で稼いだお金だ。

一方、俺が払った五千円は、叔母さん夫婦から毎月振り込まれる生活費(仕送り)を節約して貯めたもの。

もちろん、大切に貯めたお金には違いない。

でも、彼女のように自分で稼いだお金ではないという事実に、俺はほんの少しだけ、男としての劣等感を覚えていた。

(……いつか、ちゃんと自分の力で稼いだお金で、凛にプレゼントを買ったり、こういう時にスパッと全額出してやれるようになりたいな)

そんな思いを胸の奥にそっとしまい込み、俺はエコバッグを持ち上げた。

スーパーを出ると、入り口付近にある出店から、ソースの焦げる香ばしい匂いが漂ってきた。

「わっ、たこ焼きの出店が出てる!」

「お昼、これ買って帰るか。準備もあるし、すぐ食べられるものがいいだろ」

「賛成ー!」

二人で熱々のたこ焼きを二舟買って、マンションへと帰宅した。

パックを開けると、湯気とともにカツオ節がゆらゆらと踊っている。

「はふっ、あふっ……ん〜! とろとろで美味しい!」

「熱いから気をつけて食べろよ」

はふはふとたこ焼きを頬張る凛を見ながら、俺は気になっていたことを尋ねた。

「そういえば、イラストの仕事の納期は大丈夫だったか? 」

「うん、もちろんばっちりだよ!」

凛は竹串を持ったまま、えへへと得意げに笑った。

「今日、思いっきり楽しむためにね、今週は学校から帰ってきてから夕飯までの間に、超集中して作業終わらせたんだから! だから今日は100%パーティーモードだよ!」

夜は俺と一緒に過ごすため、夕方の限られた時間で仕事を前倒ししてくれていたのだ。

自分の提案したパーティーのために、見えないところで努力してスケジュールを空けてくれていた凛。

「そっか。……無理させて悪かったな。ありがとう」

「ふふっ、全然! みんなで食べる焼肉、すっごく楽しみだもん」

嬉しそうに笑う彼女の頭を、俺は愛おしさを込めて優しく撫でた。

「よし、それじゃあ仕込みを始めるか」

午後になり、エプロンを締めた俺はキッチンに立った。

隣では凛もエプロン姿でやる気満々だ。

「私は何をすればいい?」

「じゃあ、もやしのヒゲ根を取るのと、きゅうりをめん棒で叩いて割ってくれるか? 俺は肉のタレを作るから」

「了解!」

二人並んでキッチンに立ち、作業を分担する。

俺はボウルに醤油、酒、みりんを合わせ、そこにすりおろしたリンゴと生姜を加える。

最後に、ニンニクのチューブを手に取った。

「よし、ニンニクはこれくらいにしておくか」

「あれ? ニンニク、ちょっと少なめ?」

「ああ。今日は陽菜と寺田さんも来るだろ? 女の子だし、ニンニクが強すぎると匂いを気にして食べづらいかもしれないからな。風味付け程度に抑えておくよ」

俺が言うと、凛はパッと目を輝かせて俺を見た。

「……そういう細やかな気遣いができるところ、本当に尊敬しちゃうな」

「大げさだぞ。せっかく来てもらうんだから、美味しく食べてもらいたいだけだ」

凛からのストレートな褒め言葉に少し照れくさくなりながら、俺はごま油と白ごまを振って特製の『揉みダレ』を完成させた。

ジップロックに牛カルビとハラミを入れ、タレを注いでしっかりと手で揉み込み、冷蔵庫で寝かせる。

「きゅうり、叩き終わったよー!」

「サンキュ。じゃあそれ、ごま油と塩昆布で和えておいてくれ。味見もよろしく」

「ん〜っ! さっぱりしててすっごく美味しい! 」

「こら、夜までお腹とっておくんだぞ」

キッチンにはタレやごま油の香ばしい匂いが漂い、並んで料理をするこの時間がたまらなく幸せだった。

時刻は十六時半。

凛がリビングの準備に取り掛かった。

「テーブル拭いたし、ホットプレートも真ん中にセットできた!」

凛がテキパキと動き回り、取り皿、お箸、コップを均等に並べていく。

玄関には、消臭スプレーのボトルも目立つところにスタンバイされた。

「よし! これで完璧! いつでもいらっしゃい!」

「お疲れ様。凛が手伝ってくれたおかげで、スムーズに準備できたよ」

「ううん、朝陽くんこそお料理お疲れ様! ああ、もう早くお肉焼きたいな……」

凛が待ちきれない様子でホットプレートを見つめていると、時計の針がいよいよ十七時を指そうとした。

『ピンポーーン!』

賑やかなチャイムの音が、部屋に響き渡る。

「あっ、みんな来た!」

「おう。行こうか」

俺たちは顔を見合わせて笑顔で頷き、ドアの向こうで待つ大切な仲間たちを迎えに、二人で玄関へと向かった。