軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第245話:週末の楽しみと、リクエスト

「あー、マジで今週末が楽しみすぎる……!」

月曜日のお昼休み。

いつものように中庭の隅にあるベンチに五人で集まってお弁当を広げていると、大輝が唐突に空を見上げて大きな声を出した。

「土曜日に朝陽からLINEきてから、俺の頭の中はずっと焼肉のことでいっぱいなんだよ。」

「私もすっごく楽しみ!」

「うん。誘ってくれて本当にありがとうね、二人とも」

佐藤さんと寺田さんも、お弁当を食べながら満面の笑みを向けてくれる。

「この前遊園地で色々気を使ってもらったお礼も兼ねてだからな。うち、大きめのホットプレートあるから、それでガッツリやろう」

「最高すぎるだろ!」

「で、具体的な日程なんだけどさ。今週の金曜の放課後、そのまま俺の家に来る感じでどうだ?」

俺が提案すると、なぜか大輝が少しだけ渋い顔をした。陽菜と寺田さんも顔を見合わせている。

「どうかしたか? 予定あるなら来週でも——」

「いや、予定はないんだけどさ。制服のまま焼肉やったら、匂いがガッツリ染み付くじゃん? 絶対親に怒られるんだよなぁ」

「あ……確かに。しばらくこの制服着なきゃいけないし、ファブリーズでも限界あるかも……」

佐藤さんの言葉に、俺と凛はハッとした。

「あ、そっか……ごめん、そこまで頭回ってなかった」

「いやいや、謝ることじゃないって! だからさ、土曜日の夕方からにするのはどう? それなら私服で行けるし、匂いも気にしなくていいから」

寺田さんの提案に、俺と凛は大きく頷いた。

「だな。じゃあ、土曜日の十七時に俺の家へ集合ってことで」

日程が決まり、俺は続けて本題を切り出した。

「せっかくだから、何か食べたいもののリクエストあるか? 遠慮なく言ってくれ」

「リクエストかぁ……」

大輝たちは少し考える素振りを見せた後、寺田さんが代表するように口を開いた。

「瀬戸くん、気持ちはすごく嬉しいんだけど、全部お任せしちゃうと二人の負担になっちゃうでしょ? 場所を提供してくれるだけでも十分ありがたいからさ」

「そうそう! だから、飲む用のジュースとか、あと自分たちが食べたいお菓子とか食後のデザートは、各自で買って持っていくよ!」

「俺も飲みたい物は自分で持参する! だから朝陽たちは気にしないでくれ」

ただでさえ招かれる側なのに、負担を減らそうとしてくれるその気遣いが、たまらなく嬉しかった。

本当に、いい奴らだ。

「……お前ら、大人だな。ありがと。でも、メインの肉だけは俺に用意させてくれ。一応、特製のタレに漬け込んで準備しておくから」

「マジで!? やった!!」

大輝がガッツポーズをする。

「肉以外で、ご飯ものとかシメとか、自分たちで用意しにくいもので何かリクエストあるか?」

「俺は無限に食える白飯!! どんぶりで!!」

「はいはい、わかったから。寺田さんと佐藤さんは?」

「うーん……瀬戸くんの手作りなら何でも嬉しいけど、強いて言うなら、お肉の合間につまめるピリ辛のナムルとか、さっぱりした物が欲しいかな」

「あ、私はね、シメに冷麺が食べたい!」

「よし、白飯とナムルと冷麺だな。任せとけ」

俺が力強く頷くと、凛も隣でニコニコと嬉しそうに笑っていた。

放課後。

すっかり日の短くなった夕暮れ時を、俺と凛は手を繋いでマンションへと歩いていた。

「みんな、すっごく楽しみにしてくれてたね」

「ああ。それに、飲み物とかお菓子を自分たちで持ってくるって言ってくれたのは本当に助かるよ。その分、肉の質に予算を回せるしな」

「みんな、お肉もご飯もいっぱい食べそうだからね」

「だな。大輝の胃袋を満足させるには、牛だけじゃなくて、鶏肉とか豚肉も上手く組み合わせてボリューム出さないと」

歩きながら頭の中でスーパーの特売日や相場を計算していく。

そんな俺の顔を見て、凛が繋いでいる手をギュッと握ってきた。

「お肉の買い出しとか、お料理の仕込みは朝陽くんに任せちゃうけど……私は私で、できること全力で頑張るからね!」

「お、頼もしいな」

「うんっ! 部屋の掃除でしょ、ホットプレートの準備でしょ、あとみんなのお皿とかコップも用意しないとね。 あっ、ファブリーズも多めに買っておかなきゃ!」

指折り数えながら自分のタスクを確認していく凛の横顔が、なんだかとても頼もしく見えた。

一人で全部抱え込むのではなく、こうして二人三脚で誰かをもてなす準備ができるのが、俺にとってもすごく心地よかった。

「じゃあ、掃除とセッティングは凛にお願いするよ。頼りにしてる」

「ふふん、任せなさい!」

その日の夜。

夕食とお風呂を済ませた俺は、いつものように凛の部屋で彼女のマッサージを終え、二人でローテーブルに向かい合って座っていた。

テーブルの上には、小さなメモ帳とボールペンが置かれている。

「えーっと、まずはメインのお肉だね」

「ああ。牛カルビとハラミを買ってきて、前日から俺の特製ダレに漬け込んでおく。これで肉が柔らかくなって、味もしっかり染み込むはず」

俺がメモ帳に『牛カルビ・ハラミ(タレ)』と書き込むと、凛が身を乗り出してきた。

「ねえねえ、豚肉はどうする? さっきボリューム出すって言ってたよね」

「豚バラの薄切りを買ってきて、ごま油と黒胡椒を効かせた『特製ネギ塩ダレ』を作ろうと思ってる。ホットプレートでカリッと焼いて、ネギをたっぷり乗せて食べると美味いんだよ」

「うわぁ……絶対美味しいやつだ、それ」

凛がゴクリと喉を鳴らすのを聞きながら、俺はさらにペンを走らせる。

「次は、寺田さんリクエストの箸休めだな。これは『ピリ辛もやしナムル』と、ごま油と塩昆布で和えた『たたききゅうり』にしよう。どっちもさっぱりしてるし」

「うんうん! お肉の脂がリセットされて、またお肉が食べられちゃうメニューだね」

「あとは大輝用の『特大ごはん』。やっぱり焼肉には炊きたての白飯が必須だからな。少し硬めに炊き上げるよ」

「大輝くん、喜ぶね!」

「で、最後は佐藤さんリクエストの『さっぱり冷麺』。市販の麺を使うけど、スープは鶏ガラとお酢をベースにして、俺がキンキンに冷やしたやつを作るか。トッピングはキムチとゆで卵と、千切りのきゅうりかな」

一通り書き終えたメモ帳を凛の方へ向けると、彼女はそれを見つめたまま、ほうっと感嘆の溜め息をついた。

「……充実してる。っていうか、これもう普通に焼肉屋さんのメニューだよ。絶対みんな感動するって!」

「そうか? まあ、みんなの喜ぶ顔が見たいからな。しっかり準備するよ」

俺が笑うと、凛も満面の笑みで頷き返してくれた。

「なんかこうやって、二人でメニュー決めたり準備したりするの……すごく楽しいね」

「そうだな。一緒に誰かをもてなすのって、悪くない」

「えへへ……土曜日、待ち遠しいな」

パタン、とメモ帳を閉じる。

窓の外からは秋の静かな夜の音が聞こえてくる。

俺たちは並んで座ったまま、週末の賑やかな食卓を想像して、静かに微笑み合った。