軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第181話:ぎこちない朝と、親友へのプレゼント

ジューッという卵の焼ける音が、静かなキッチンに響く。

体育祭の翌日である土曜日の朝。

いくら疲れているとはいえ、長年の習慣でいつもの時間に目が覚めてしまった俺は、二人分の朝食を作っていた。

「……おはよう、朝陽くん」

フライパンを揺すっていると、背後からパタパタとスリッパの音が近づいてきて、俺の背中に『コツン』と柔らかい頭が押し当てられた。

「おっ、おはよう。凛」

俺の背中に額をぐりぐりと押し付けたまま、凛は俺の腰のあたりに両腕を回し、ぎゅっと抱きついてきた。

昨夜の『ガンガンいく』という宣言通り、朝から全開の甘えっぷりだ。

「んへへ……朝陽くんの匂い、落ち着く……」

「お、おい、火ぃ使ってるから危ないぞ。もう少しでご飯できるから、座って待ってろ」

「はーい」

俺が少し慌てて言うと、凛は素直に体を離してダイニングテーブルへと向かった。

振り向くと、凛も少し頬を赤くして照れくさそうに笑っている。

お互いに、昨日の告白と返事のことを思い出しているのだ。

「両思い」という事実を意識しすぎて、どこかぎこちない。

だけど、そのぎこちなさがたまらなく心地よくて、むず痒いような幸せな空気が部屋を満たしていた。

「いただきまーす」

「おう、冷めないうちに食えよ」

向かい合って朝食を食べながら、凛がふと思い出したように口を開いた。

「私、今日は一日お仕事頑張るね」

「仕事って、イラストのやつか? 最近あんまりやってなかったよな」

俺が尋ねると、凛は卵焼きを飲み込んでから頷いた。

「うん。テスト期間とか体育祭の準備があったから、担当の人にお願いして、仕事の量を少し減らしてもらってたの。納期もだいぶ余裕を持たせてもらってて」

「なるほどな。でも、仕事自体がなくなったわけじゃないからな」

「そうなの。延ばしてもらった分の締め切りが近づいてるから、日曜日の分もまとめて今日中に終わらせちゃおうと思って」

真面目な顔で言う凛に、俺は感心した。

「そっか。無理しない程度にな。俺にできることがあったら何でも言ってくれ」

「ありがとう! ……あ、そうだ。それでね、日曜日を空けたい理由がもう一つあって」

「ん?」

凛は少し身を乗り出し、期待に満ちた瞳で俺を見た。

「来週の金曜日、陽菜の誕生日なんだ。いつもすごくお世話になってるし、たくさん話も聞いてもらってるから、お礼に誕生日プレゼントをあげたくて」

「ああ、それは絶対に恩返ししないとな。あいつがいなかったら、俺たち今頃どうなってたか分かんないし」

大輝や紗季の件も含め、陽菜には数え切れないほど助けられている。

「うん! だから……もしよかったら、明日の日曜日、一緒にプレゼント買いに行かない?」

「俺も? ……まあ、俺もあいつには世話になってるし、一緒に選ぶくらいならいいけど」

「ほんと!? やったぁ!」

凛がパァッと顔を輝かせる。

友達の誕生日プレゼントを買いに行く。

目的はそれだが、これは紛れもなく、俺たちが両思いだとわかってから初めての外出だ。

その事実にお互い気づいているのか、凛は嬉しそうに目を細め、俺は味噌汁をすするフリをして熱くなった顔を隠した。

朝食後、凛は自分の部屋である202号室にこもり、液タブに向かって作業を始めた。

明日の日曜日を完全に空けるため、ものすごい集中力で筆を走らせている。

俺はその間、彼女が作業しやすいようにコーヒーを淹れて持っていったり、洗濯や風呂掃除などの家事を完璧にこなしたりと、裏方のアシストに徹した。

サポーター契約は終わったが、彼女を支えたいという気持ちは今まで以上に強い。

そして夕方。

「……お、終わったぁぁ……」

リビングのソファに、力尽きたスライムのようにぐったりと倒れ込む凛の姿があった。

「お疲れ。予定通り終わったのか?」

「うん……なんとか。でも、ずっと画面見てたから、目がしょぼしょぼする……」

涙目で目をこする凛を見て、俺は手早くフェイスタオルを水で濡らし、電子レンジで温めた。

「ほら、これ目に当てとけ。少しは楽になるだろ」

「あ、あったかーい……極楽……」

ソファに仰向けになった凛のまぶたにホットタオルを乗せてやると、彼女はふにゃぁとだらしない声を漏らした。

「そのまま少し休んでろ。今のうちに晩飯作っちまうから」

「はーい……朝陽くん、大好き……」

「……っ、ばか、変なとこでサラッと言うな」

俺は照れ隠しに軽く悪態をつきながら、早足でキッチンへと逃げ込んだ。

美味しい夕食を二人で食べ、順番にお風呂に入り終えた後のリラックスタイム。

いつものように、リビングのラグの上でマッサージとストレッチの時間だ。

「んっ……そこ、痛気持ちいい……」

俺が凛のふくらはぎを揉みほぐしていると、彼女の細い足首の感触や、お風呂上がりのシャンプーの香りがやけに鼻をつく。

やっていることは昨日までと同じなのに、「両思い」という自覚があるだけで、肌が触れ合うたびに心臓がうるさいくらいに鳴ってしまう。凛の顔も、どこか赤く火照っているように見えた。

ストレッチを一通り終えると、凛がむくりと起き上がり、「ちょっと待ってて」と言いパタパタと自室へ走っていった。

「そういえば、明日何着ていこう!?」

数分後、両手に何着かの服を抱えて戻ってきた彼女を前に、急遽リビングでファッションショーが始まった。

「ねえ、これとこれ、どっちがいいと思う?」

「うーん……明日は結構歩くかもしれないし、こっちのニットの方が季節的にも合ってて可愛いんじゃないか?」

「そっか! じゃあこっちにする! ……えへへ、朝陽くんに可愛いって言われちゃった」

「あ、いや……普通に似合うと思っただけだからな!」

嬉しそうに服を胸に当てる凛を見ていると、俺も急に自分の服装が気になってきた。

(俺も、隣を歩いてて恥ずかしくない格好しないとな……)

明日の期待と緊張で、胸がそわそわと落ち着かない。

「じゃあ、明日楽しみにしてるね」

「ああ。陽菜が喜びそうなやつ、一緒に探そうな」

寝る前。いつものように、俺は凛の頭にそっと手を乗せ、優しくポンポンと撫でてやった。

「……んっ。おやすみ、朝陽くん」

「おやすみ、凛」

柔らかく微笑み合う。

少しぎこちなくて、でも充実した土曜日が終わり、俺たちは明日への期待を胸に、それぞれのベッドへと向かった。