軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第182話:特別になったお買い物。

「お待たせ、朝陽くん!」

日曜日の午前。玄関で靴を履き終えた俺が振り返ると、そこには昨夜の『ファッションショー』で決めた秋服を着た凛が立っていた。

落ち着いたブラウンのニットに、少し長めのチェックのスカート。

すっかり涼しくなってきた今の季節にぴったりで、落ち着いた雰囲気が彼女によく似合っている。

「おう。……やっぱり、似合ってるな」

「えへへ、ありがとう」

素直に褒めると、凛は嬉しそうにはにかみ、自分の左手首をトンと叩いて見せた。

そこには、以前五人で遊びに出かけた時に「お揃いにしたい」と言って凛が買ってくれた、細身のレザーブレスレットが着けられている。

「朝陽くんも、ちゃんと着けてる?」

「当たり前だろ」

俺は自分の左手首を少し持ち上げて見せた、色違いのお揃いのブレスレット。

二人で出かける時の、ちょっとしたおまじないのようなものだ。

「じゃあ、行こっか!」

「ああ。佐藤さんが喜びそうなやつ、絶対見つけないとな」

気合いを入れ直し、俺たちは並んでアパートを出発した。

目的の大型ショッピングモールに到着すると、日曜ということもあって家族連れや学生のグループでかなりの賑わいを見せていた。

「ねえねえ、朝陽くん。あそこのお店、この前テレビでやってたところだよ!」

「お、おお。そうだな」

休日のショッピングモール。

それはつまり、同じ学校の生徒に遭遇する確率が非常に高いということだ。

今までなら「誰かに見られたらマズイ」と、不自然なくらい距離を空けて歩いていた。

だが今日の凛は、そんなこと全く気にしていない様子で、俺のすぐ隣を歩いている。

時折、嬉しそうに俺の袖を引っ張ったりもする。

彼女の中では「両想い」という事実があるから、もう誰に見られてもいいと思っているのだろう。

だが、俺は違った。

周囲をキョロキョロと見回し、同じ高校の制服や見覚えのある顔がないか、無意識のうちに警戒してしまっている。

(……もしここでクラスの奴に見られたら、なんて言われるか……)

俺はまだ、自分に自信がない。

「冬月凛の隣に立っても恥ずかしくない男」になるために、今まさに努力を始めようとしている段階なのだ。

もし今、堂々と彼女の隣を歩けるくらいの自信があるなら、昨日の夜、あんな風に保留にしたりせず、俺からちゃんと「付き合ってくれ」と言えていたはずだ。

「朝陽くん? どうしたの、キョロキョロして」

「あ、いや、なんでもない! ちょっと人が多いなと思ってさ」

不思議そうに小首を傾げる凛に、俺は誤魔化すように笑ってみせた。

情けないけれど、これが今の俺の現在地だ。

でも、だからといって彼女から離れるつもりはない。

俺は少しだけ背筋を伸ばし、そわそわする気持ちを必死に抑え込みながら彼女の歩幅に合わせた。

俺たちが向かったのは、モール内にある女性向けのオシャレな生活雑貨を取り扱うショップだった。

「陽菜のプレゼント、何がいいかなぁ」

「佐藤さん、普段から結構周りのこと見て動いてるし、実用的なものがいいんじゃないか? 持ち歩けるやつとか」

「うん、そうだね。でも、可愛くないと怒られそう」

店内にはアロマグッズやコスメ、可愛い文房具などが所狭しと並んでいて、男の俺からすると少し場違い感がある。

だが、俺たちの恩人である佐藤さんのためのプレゼント選びとなれば、妥協はできない。

「こういう入浴剤のセットとかはどうだ? 疲れ取れそうだし」

「うーん、陽菜、お風呂はカラスの行水タイプだからなぁ……」

「そうなのか。じゃあ、パスだな」

二人でああでもない、こうでもないと話し合いながら店内を見て回る。

友達の誕生日プレゼントを、こうやって二人で真剣に選んでいるこの時間は、付き合っているわけではないけれど、確かに昨日までの俺たちにはなかった特別な空気感があった。

「あ!」

しばらく店内をうろうろしていた凛が、ある棚の前でポンと手を叩いた。

「どうした?」

「朝陽くん、これ! この前、5人で遊びに来た時のこと覚えてる?」

「5人……あぁ、大輝と寺田さんと佐藤さんと来た時か」

凛が指差したのは、秋限定の金木犀の香りがする『ハンドクリームとリップバームのセット』だった。パッケージも落ち着いたオレンジ色で、大人っぽくて可愛らしい。

「あの時、陽菜が『これ気になってるんだよねー、でも自分用にはちょっと贅沢かな』って言って、買うのを見送ってたやつだ!」

「マジか。お前、よくそんな細かいこと覚えてたな」

俺が感心して言うと、凛は「えへへ」と得意げに胸を張った。

「友達のことだもん、ちゃんと見てるよ。それに、これからどんどん乾燥する季節になるし、学校でも使えるから実用的でしょ?」

「いいと思う。俺じゃ絶対思いつかなかった。よし、それにしようか」

俺たちはそのセットをレジへ持っていき、店員さんに「誕生日プレゼント用で」と可愛くラッピングしてもらった。

紙袋を受け取った凛は、ミッションを達成してホッと息をついた。

「よかったぁ、いいのが見つかって」

「ああ。佐藤さん、絶対喜ぶぞ」

「うんっ! ……あ、なんか安心したらお腹すいてきちゃった」

凛がお腹を押さえて照れ笑いをする。時計を見ると、ちょうどお昼時になっていた。

「じゃあ、フードコートで昼飯にするか」

「賛成!」

無事にプレゼントを買えた安堵感と、俺のお腹の音にごまかされながら、俺たちは少しだけ肩を近づけて、賑わうフードコートへと向かった。