軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

決闘準備

今後の交渉役をバルトロが買って出てくれたということで、屋敷に帰る前にまずは話し合いを行うことになった。

関所内部の貴賓室に集合し茶を用意してもらい、少しの休憩を挟んでから始まった話し合いはまずバルトロの言葉から始まることになった。

「恐らく彼の目的は徴税のための査察ではあったのでしょう。

ただし臨時の徴税ではなく、秋に行われる通常の徴税のためと思われます。

ウィルバートフォース領の景気の良さは自分でさえ知っている程に話題となっておりますから、一切の査察なしという訳にもいかなかったのでしょう」

「……まぁ、そうだろうな。

王都の徴税官だけの調査では見逃しもあるかもと抜き打ちの査察だったんだろうな。

……そこに臨時だのと言って自らの懐を暖める気だったの、か?

しかしそんなことをして露呈したらタダでは済まないだろうに」

俺がそう返すとバルトロは相変わらず冷静に言葉を返してくる。

「そうなっても王族がなんとかしてくれると考えていたのではないでしょうか。

自分からすると先代様の出兵自体が無理筋で大問題となってもおかしくない話……それを一度通せたのだから二度目もいけるだろうと考えるのは、まぁ俗物にはよくある話かと。

言葉を交わしていた者の印象として、そう見透かされることを恐れて言葉選びに慎重になっていたように思えました」

「なるほど……バルトロが言うのならそうなのだろうな。

それでも見抜かれたと感じたか、やり過ぎたと感じたか……あるいは両方かで撤退を決めて、しかしただ立ち去るのは悔しいからとあの捨て台詞か。

……いやしかし、それで査察はどうする気なんだ? 査察自体は必要なことだろうに……」

「そちらに関しては妨害されたと報告をするつもりだったのではないでしょうか。

徴税に関する査察への妨害はままあることですので、後のことは役人に押し付けて知らぬふりを決め込むつもりだったのでしょう」

「……なんだってそんな三流が査察をやっているんだかなぁ、国家の収入に関する大役だろうに」

「何しろ査察と言えば賄賂ですから、懐寂しい才無き者程やりたがるもの。

逆に才有る者は自ら稼げば良いだけの話で賄賂を渡す側……自然三流が集まるようになっているのです」

「なるほど……。

で、決闘に関してはどうするつもりなんだ? あの三流から得る物はあるのか?」

「……さて、その辺りは話し合いの中で探るつもりですが、ブライト様からのご希望があれば出来るだけそれに沿えるようにいたします。

ただし命を奪うことに関しては諦めていただければと思います。

代理を立てて来た場合は命を奪うことは難しくなりますし、敵が三流であるならば下手に殺すよりは生かしておいてこそ後々の利となるはず。

侮辱のツケはしっかりと払わせますので、ここは忍耐の時かと」

「……分かった。バルトロの言う通りにしよう。

俺からの希望は特にない、ただし生温い決着では困る、出来るだけ絞り上げるようにしてくれ」

「は、御意に」

そう言ってバルトロは立ち上がり、胸に手を当て軽く頭を下げる。

そうしながらも背筋はピシッと伸びていて、なんともキレイな礼となっている。

「……フィリップ、ライデル、話し合いが終わるまでバルトロについて手伝ってやってくれ。

相手がアレとなると暗殺という手に出てくる可能性もありそうだ、上手くフォローしてやってくれ。

アレス男爵も暗殺の標的になる可能性があるので注意をするように」

「りょーかい」

「お任せください」

「はい! ねじ伏せてやりますとも!」

フィリップ、ライデル、そしてアレス男爵がそう言って……とりあえず今後の方針会議は終わりとなる。

バルトロはこのまま関所に滞在し、ここからオーザドとの交渉に出向くそうでフィリップ、ライデルもそれに付き合うということで、屋敷に帰るのは俺、アレス男爵、バトラーとなる。

バルトロ達には当面の経費ということで、快適に暮らせるよう関所の予算の一部を回してやって……飛空艇の使用も許可しておく。

ということで関所に乗り付けた飛空艇はそのまま残し、俺達は鉄道を使っての帰還となる。

駅に向かい列車の貴賓室に座り……向かい合うように座ったアレス男爵に声をかける。

「場の勢いとは言え勝手に代理にしたことは申し訳なかった。

決闘に勝利した際には、相応の褒美を用意するので許して欲しい」

「お気になさらず! 伯爵は我ら下の者の待遇によく気遣ってくださいます。

十分な報酬に助力、あのように素晴らしい人材まで貸して頂いては決闘の10や20は勝って見せねば対価にすらならないでしょう。

領内に狼藉者は少なく、武力の出番が少ないことは残念であると同時に心休まることでもあり……その手腕には敬意を抱くばかりです。

いつでも遠慮することなくお声がけください」

「……ああ、分かった、その時は頼む。

しかし俺としては普通に遇しているだけのつもりだが、王都ではどんな扱いをされていたのやら……。

それでよく人材が確保出来ていたなぁ」

「いえ、確保は出来ていませんでしたな。

待遇の悪さから去る者も多く、王太子が積極的に動くようになった時には少しだけ改善したのですが……王太子は勧誘の際には高待遇を約束しますが、その後の褒美などには気が回らないお方でして、かなりの不満が溜まっているようです。

オレが功績を上げられたのは、身を立てたいという思いあって奮闘した結果なのは確かですが、それだけ賊がのさばっていたからこそ。

賊に対処せずに放置してしまうくらいには士気の低い者達がいるという証明でもあります」

「……王都周辺の治安となったら、多少の赤字になってでも面子なんかのために良くするものだろうになぁ。

しかし王太子は人材収集家のようだが、集めはするがそれからの待遇なんかには気を使っていないのか……?

そうすると高待遇を約束したなら引き抜きも可能か? 上手くいけば一気に王都の勢いを削ぐことが出来そうな気もするな……」

と、そう言って俺が頭を悩ませていると、男爵ではなくバトラーが声を返してくる。

「それも一つの手だとは思いますが、相応しい椅子がなければ待遇だけ良くても心は離れていくかと。

現状、領内は上手く回っており人材不足ということもなく、後継も問題なく育っております。

加減を誤って領内に無駄な軋轢を生まぬようにお気をつけください」

「……確かに、その通りだな。

待遇さえ良ければそれで良いという者もいるだろうが、更に上を望んだりやりがいや名誉を求めたりする者もいる……か。

……では父上の下につくことが前提ならばどうだ? 父上は支配地域を広げようとしているのだろう? であれば軍官文官、どちらも欲しくてたまらないはずだ。

王命である大陸介入において功績を上げたとなれば名誉も約束される。

王家からの報酬には期待出来ないだろうが、我が家からの報酬を手厚くすると約束したなら、それなりの人材が集まるのではないか?」

「ああ、それは悪くないですね、以前のオレも食いついたことでしょう」

「確かに悪くないですな、最初からその条件を提示しておけば覚悟ある優秀な人材が集まるかと」

俺の考えに対しアレス男爵とバトラーがそう言ってくれて……やってみる価値はありそうだ。

そうやって王都の人材を枯らし、オーザドのような連中ばかりにしてしまえば今後の動きがかなり楽になるはずだ。

軍務伯のような有能な人間全てを敵に回すなんてのはやってられないし……うん、なるべく早く手を打つとしよう。

それから俺達はどういう条件が良いかなど話し合いながら屋敷へと戻り、アレス男爵は決闘の準備のための鍛錬に、バトラーは求人広告作成のためにそれぞれ動き始める。

それを見送り屋敷に入ろうとするとドアを開けてすぐの玄関に母上の姿が。

笑みを浮かべてにこやかではあるけども、確かな殺意が感じられて思わず怯んでしまった俺は、いっそ逃げ出そうか? なんてことを考えながら母上に声をかける。

「ど、どうかしましたか? 母上」

「……あの男がやってきたと耳に入りましたが、本当なのかしら?」

「オーザド伯のことでしたら確かに、関所までやってきてはいました。

今は隣領の宿に戻っているようで……後日当家との決闘が行われることになっております」

「……そう、決闘ね、生ぬるくも思えますが、名誉をズタズタにすると言うのならそれでも構いません。

アレの夫人には大変お世話になりましたから、徹底的にやってちょうだい」

……ああ、なるほど、王都でなんかあったのか。

オーザドは王都では幅を利かせていそうだからなぁ、その夫人も同様という訳か。

王家の権力を笠に着て好き勝手をして、人質だった母上達としては苦汁を嘗めるしかなかった、と。

「……皆と話し合った方針で命は取らないことにしました。

敵中の無能は生かしてこそ意味があるという方針です。

その分だけ決闘に勝利した際にはむしり取るつもりですので、今回はそれでご容赦ください。

いずれは母上達の分まで馳走してやるつもりです」

「よろしい、そうやって説明をしてくれるのはお前の良い所です。

お父様は何も言わずにただ頷くか首を振るばかりでしたから……あれの真似だけはしないように。

……そして決闘、決闘ですか……条件を話し合い、場を整えての決闘を行うつもりなのですね?」

「えぇ、その予定です、お祖父様の紹介で当家に仕えてくれた騎士バルトロがそのための話し合いを行い、日程や条件などを調整することになっています。

こちらの代理人はアレス男爵が、あちらの代理人は不明です」

「素晴らしい、そういうことならわたくしも動く必要がありそうですね。

仲の良いお友達を集めて観戦をさせていただきましょう。

王都のご立派な貴族の晴れ舞台ですから、きっと皆も楽しんでくれるに違いありません。

ブライト、決闘の条件は任せますが、場は立派なものとするように。

貴婦人が満足できる席を用意出来ないでは困りますよ」

「……りょ、了解しました、相応しい場を用意させていただきます」

つまりは貴婦人達が満足出来る席を用意した上で、見世物にしようという訳か。

母上はそうすることで人質の頃にした嫌な思いをどうにか消化しようとしているのだろうなぁ。

……関所側にコロシアムのような場を作るか? 今からで間に合うか? 運動会みたいなイメージでどうにか席だけ豪華なものにしたらなんとかはなるか。

平民用の席も作って、そちらの差を分かりやすくしておけば母上達もより満足してくれるに違いない。

位置的に隣領も絡む話だろうからカーター子爵にも連絡をしておくか。

……いっそ共同開催みたいな形で盛り上げても良いかもしれない。

カーター子爵とオーザド伯の関係性次第では断られるかもしれないが、打診をしてみるくらいは良いはずだ。

ついでにコーデリアさんがお世話になっているエリザベス嬢へのお礼なんかも用意しておこうか。

夫婦で公的な場に顔を出すということも必要なはずだろうから、今回はその練習……お試しと思えば悪くないのかもしれない。

そう考えてみると色々なことがやれそうで、俺は母上に挨拶をした上でその場を後にし、執務室に向かう。

するとコーデリアさんはずっとそこで待ってくれていたようで……近寄って手を握った上で、ゆっくりと話しかける。

関所で何があったのか、これから何をするのか、何をしようと考えているのか。

そう話していくと心配そうにしていたコーデリアさんの表情が段々と柔らかくなって、エリザベス嬢と会えるのが嬉しいのか、笑みを浮かべてくれる。

「分かりました、あたしも出来るだけ協力します」

と、最後にはそうも言ってくれて……そうして怨敵来襲から始まった決闘話は、予想もしていなかった方向へと転がっていくのだった。