軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

冷静

しっかりと準備をした上で関所に向かったのは俺、バルトロ、ライデル、フィリップ、アレス男爵、他騎士数人という組み合わせとなった。

すぐさま飛空艇で出立し、関所に降り立ち展開し……俺とバルトロ、アレス男爵だけが歩廊の上に立って来訪者と相対する。

今回はバルトロの指示に従うと決めて何もかも言う通りにしてみることにした。

他の誰かであれば不安があってそうは出来なかったが、お祖父様がわざわざ紹介してきた程の人物なら、任せてみるのも悪くないだろう。

そして歩廊の上から見下ろすのは久しぶりに見たオーザドの顔。

タキシードに近い形のスーツを着込んだ細面。

50代で薄い白髪をオールバックに固めて、ヒゲはアゴヒゲを長く伸ばしている。

当然のように先触れもなしでやって来て、細い目を更に細めていやらしい笑みを浮かべていて……いかにもこちらを見下している様子だ。

あの頃はまだまだ覚悟が決まっていなかったと言うか、現代人感覚が抜けていなかったせいで不覚を取ってしまったが……今回こそはと気合を入れて相対する。

「一体何用だ!!」

そして声を張り上げる。

それを受けてオーザドは少し怯んだ様子を見せる、どうやら以前とは全く違う様子に驚いたようだ。

しかしいい加減俺の噂があれこれと王都に届いているはずなんだが……未だに以前の印象のままというのは、どういうことなんだろうなぁ。

「わざわざ言わずとも分かっているだろう!」

そしてオーザドの返事、いや、全然分からないが……。

「その首を捧げに来たということならば神妙なことだ! 今すぐ捕縛してやるからその場に膝を突け!」

俺もオーザドもどちらも伯爵、無礼とかそういう手で責められないのはなんとも面倒だが……とにかく今は強気で問題ないだろう。

「な、何をふざけたことを!!

王兄の件を始めとした数々の不敬を忘れたとでも言うつもりか! 貴様こそ神妙に王城に登城し、謝罪をしたらどうなのだ!!」

「知ったことか!

我が家から父と兄を奪った貴様が登城をしろなどとよく言えたものだ!

道理を正すと言うのなら、まず貴様と王家が数々の無礼を詫びたらどうなんだ!

父上と兄上は立派に王命を果たして戦果を上げ続け、ついには拠点まで確保したというのに、貴様は一体ここで何をしている!

大陸に介入をと言い出した貴様はこうして暇を持て余すだけか! これまでに貴様が一体どんな功績と戦果を上げたというのだ!

我が家を前にしてそのことを恥に思うことすら出来んのか! 恥を知れ!」

「はっ……ぐっ……。

口先だけの若造がぁ……ま、まぁ、良い、今日はこんな話をしに来た訳ではないからな」

と、そう言ってオーザドは大きく息を吸い込む。

これからずっと言いたかったことを言ってやるぞと構えているというか、いかにも得意げな顔までしていて、どうやらここからが本番らしい。

「臨時徴税だ!! 王太子殿下が進める様々な政策のための予算のための徴税である!!

王家に忠誠を誓う身であれば進んで支払ってくれることと思う!

またそのための査察も行う、帳簿を含め全てをつまびらかにするが良い!」

……はぁ?

何言ってるんだ、こいつ。

そんなもんに応じなきゃいけない義務はないし、帳簿他を見せるなんて話もとんでもない。

もう面倒くさいからぶっ殺してしまうかと殺意を漲らせていると、バルトロが手を後ろで組んだ状態ですっと前に進み出て、力強く声を張る。

「自分はウィルバートフォース伯の忠臣、バルトロ・エルモです。

貴殿はオーザド伯とお見受けします。オーザド伯、質問です、その徴税と視察に応じなければならない根拠は何でありましょうか?」

「あぁ? 根拠だと? 王家がそうしろと言っているのだから貴族ならば応じるべきだろう!」

「何故です? 王家が貴族に本来すべき以上の徴税を求めたなら応じなければならないという法があるのでしょうか?

その理屈であればウィルバートフォース伯だけではなく全ての貴族が応じるべきということになりますが、オーザド伯は応じたのでしょうか?

また他の貴族がそういった徴税に応じたという話は寡聞にして知らないのですが……?

ウィルバートフォース伯だけを狙い撃ちにするというのなら、それについての根拠も説明していただきたい」

「……何故も何も王家が求めたならば応じるべきだ! そして王家はブライト! 貴様のことを指定している! 飛空艇だので貴族らしからぬ卑しき商いに励み儲けたのだから臨時税を納めるべきだとそう仰っている!

貴族としてそれにただ応じれば良いだけのことをどうしてそうややこしくしたがるのだ!」

「では証拠をご提示ください、当然ながら王家主導の臨時の徴税と査察となれば相応の命令書または文書が発されているはず、まずはそちらの確認をさせていただきます。

法院からもなんらかの書類が発せられているはずなのでそちらもお願いします」

「……こ、この私の言葉を疑うのか! 証拠を出せなどと無礼にも程がある!」

「当然疑います、無礼と言われようとも当家に引く理由はありません。

そしてお忘れなきよう、貴殿は所詮伯爵であり王家ではありません。

貴族たるもの王家の求めに応じるべきという理屈を通したのだとしても、貴殿の言葉に従う理由はないのです。

そも、公式文書や命令書の提示もなく衆人の前でこうも悪しざまに罵ること、それこそが無礼であり中傷です。

これ以上それが続くのであれば法院に訴え、貴殿と王家の過失を糾弾することになりましょう」

淡々と冷静に、しかし声はしっかりと張ってどこまでも通っていて。

騎士と言うよりも前世の軍人を思わせるバルトロの態度に俺が感心する中、オーザドはその顔色をどんどん悪くしていく。

正直なところ、オーザドの真意は未だによく分からない。

前回は恐らく本当に王家の使いとして来たのだろう、色々と揉めていた相手となる王家が、俺に工作を仕掛けることで決着を図ったのだろう。

……では今回は? 王兄の騒動があったのだから査察まではまぁ分かるとして臨時徴税は意味が分からない。

王太子が進めている政策と言うと戦車と学院とやらになるが、そのための予算が足りないのか? ……そんな訳がないだろう。

毎年王家はかなりの額の予算を手に入れていて、使い切れずに持て余しているのが常だ。

戦争中と言っても戦費は全て我が家が負担していて、それ以外に予算が必要になるようなこともないはずだ。

一応我が家への賠償のためというのがあるが……現状何の音沙汰もなく100%払う気はないだろうし、払う流れになってもあれこれと言い訳を並べ立ててバックレるのだろうし、それで予算が足りなくなるということはないだろう。

第一賠償のための臨時徴税って……外聞が悪いどころの話ではないぞ、ただでさえ下落気味の王家の評価が更に落ちて地面にめりこむぞ?

渋々賠償金を払って、払った後に回収しに来るとかならまだ分かるがなぁ。

……もしかしてオーザドは前回上手くいったのを良いことに、もう一回同じようなことをやらかそうとしたのか?

王家どうこうを盾にして前回と同じようなノリで、我が家の資産を奪い取れるとか、そんなことを思いついたのか?

奪い取った後の言い訳というか、理由付けについては査察で見つければ良い、何だったら王兄の騒動とコーデリアさんとの結婚辺りであれこれ言ってゴリ押せば良い。

……と、そんな馬鹿みたいな考えで行動を起こしたのか?

いや、まさか、そんな……。

と、俺がそんな事を考える間もバルトロによる問答が続いていく。

「何故です?」

「どうして?」

「根拠は?」

「証拠は?」

淡々と理詰めで、そう問い続ける。

そこで初めて気付いたのだが、バルトロの手には分厚いメモの束のようなものがあって、時折その内容を確認したりページをめくったりもしているようだ。

その内容は……確認のタイミングから察するに法に関するものなのだろう。

バルトロはただ問いを投げかけている訳ではない、子供のように屁理屈をこねようとしている訳ではない。

逐一法を確認し、本当にそんな法があるのか? 実際に法院に訴えた場合は、法廷闘争になった場合はどういう結果になるのか? などをしっかり確認した上でオーザドを問い詰めているようだ。

大陸生まれのバルトロにそれはかなり難しい仕事だろう、あちらとこちらでは法も教会の教えも違うのだから、簡単に出来ることではないはずだが……本人もそれを分かっていて、記憶だけでは対処しきれない部分をメモという形でいつでも確認出来るようにしているようだ。

……これは勝手な想像だがバルトロは、こんな場面を何度か経験したことがあるのだろうなぁ。

その中で対処法を学んで来て、そして今それを実践してくれている。

同じようなことをライデルに出来るかというと怪しく、仮に出来たとしてもここまで冷静かつ堂々とは出来ないはずだ、俺にだって出来ない、お祖父様なら出来るのだろうが……。

まさかこんなにも早く老臣のありがたさを痛感するとはなぁと驚いていると、誰が見ても劣勢といった感じのオーザドがついに言葉に詰まってしまう。

何かを言いたいが言葉が出てこない、バルトロに完全に丸め込まれて反論が出来ない。

そこまで難しい問いかけではないと思うのだがオーザドはとんでもない渋面だ。

……仮にもオーザドは父上をやり込めた男だ、バルトロのシンプルな問いかけに何故そこまで窮しているのか? と困惑してしまうが、もしかしたらそれがキツいのかもしれない。

父上は貴族、バルトロは平民。バルトロは貴族の機微を分かっていない。いや、分かっているのかもしれないがあえて無視している。

駆け引きとかユーモアだとか暗黙の了解が一切通じない、ただただ理詰めで攻め立てている。

オーザドはどうにか不敬だのなんだのと貴族らしい攻撃を繰り出したりもしたが、バルトロは一切動じない、ポーカーフェイスのまま「罪に問うならどうぞ」と返すだけ。

いざとなれば俺やお祖父様が庇うと知った上でなのか、とにかく揺るがず、そんなバルトロに対しオーザドは攻め手を見つけることが出来ないようだ。

普段平民にここまで詰められることはないのだろう、そして平民相手の切り札が通じないと来た。

渋面の極みに達したオーザドは、周囲へと視線を巡らせ始める。

周囲にはかなりの見物人がいて、今までの関所での騒動の中でも一番の多さだ。

普段こんなに関所を使う人間はいないはずで、オーザドが仕込んだのか? と思うような状況で、オーザドはそれだけの数の人の目の中で俺をやり込めるつもりだったようだが、見事なまでに自分がやり込められてしまったということになる。

平民にやり込められての大恥。

これに耐えられなかったらしいオーザドは、結局目的は分からないままだがそれの達成を諦めたのだろう、視線を伏せて振り返り、後方に控えている馬車の方へと歩いていく。

別れの挨拶はもちろん捨て台詞もなし、見物人がざわつく中の逃亡となり……その時、見物人の誰かがこんな声を上げる。

「逃げるのかよ」

それを受けて誰かが笑い、見物人達がオーザドを嘲笑し始める。

平民達がそうするのは危険であり無礼であり褒められた真似ではないのだが、ついさっき平民にやり込められた様子を見ているからか恐れ知らずだ。

当然俺から何か言うこともなく、静かに見守っているとオーザドが足を止めて振り返り、そして声が下した方を睨みつけてから、そちらにではなく俺に向かって声を張り上げてくる。

「蛮族を娶った人畜生が! 貴族として人としても非難されて当然だろうが!

黙って応じていればまだ見られたものの、貴族としての義務も負わず堂々と他所の目を受け入れることも出来ず、自ら見せられぬ有り様と証明したという訳だ!

王兄を殺しただけでなくこの有り様! 世間の誹りは免れんだろうな!

逆にこの私は英雄として称えられるだろうよ!」

……自棄になったか、恥に耐えられなくて爆発したか、八つ当たりしたくなったのか、オーザドが更に言葉を続けてくる。

「あぁ? なんだその顔は? 文句でもあるのか? あるのなら決闘でもなんでも仕掛けてくるが良い!

貴様のような若造にそんな―――」

「決闘だ!!」

オーザドの言葉の続きも、少しだけ慌てた様子のバルトロの対応も待つ気はなかった。

そこまで言われて黙っている方は貴族でもなければ人でも……コーデリアさんの夫でもない。

どう返したものかと悩む中で決闘というシンプルかつありがたい答えを向こうから提示してくれたのだ、それに乗らないでどうすると言うのだ。

しかもこちらにはとても良い切り札がある。

「代理人を立てる! アレス男爵! 後は任せる!」

俺がそう声を張り上げて後ろに控えていた切り札を提示するとアレス男爵の「お任せを!」という声と同時にオーザドが顔面蒼白となりふらついて倒れそうになる。

オーザドは王都暮らしの王城務めの貴族だ、当然王都で活躍していたアレス男爵のことを知っている、その武勇を知っている。

そんなアレス男爵には専用の鎧を用意していて、今回も飛空艇にしっかり積み込んである。

ドルイド族を除けば国内最強は間違いなく、それが最新型の専用鎧を身につけたなら、どんな相手であっても負けることはないだろう。

それを知っているオーザドだからこそ、ああして倒れそうになるしかないようで……その間も男爵は鎧を装備しようと飛空艇へと駆けて行ってくれる。

「代理人はいないのか! ならば自ら鎧を着るが良い!

なければ関所の兵のものを貸してやっても良いぞ! そちらから決闘と言い出したのだ、当然用意しているだろうがな!」

そう俺が言葉を続けるとオーザドが膝を地面に突く、もはや立っていることも出来ないらしい。

そんな状況となっても変わらず冷静で特に動揺した様子もないバルトロは、オーザドから返事がないのを見てか、こちらへと静かに近寄ってきて、小声で話しかけてくる。

「ブライト様、ここはどうでしょうか、オーザド伯に時間をお与えになっては。

仕切り直しという形であちらに準備をさせてやるのです。

この場でこのままオーザド伯を討っても問題はないでしょうが……特に得るものがありません。

仕切り直す代わりに先程の侮辱に相応しい条件を呑ませ、勝利の際にはオーザド伯の命ではない何か……もっと意義のあるものを得る、という形にするのです。

もちろんアレをどうしても討ちたいというのであれば止めはしません。

ですが十分な恥はかかせましたし貴族として大きな傷を負いました、これ以上の必要があるのかは疑問です。

それにあれは見るからに小物、同じような程度の貴族は王都には掃いて捨てる程いるはずで、死んだとしても王家の腹も痛みますまい。

逆に時間を与えることでこの騒動に王家を巻き込むことが出来るかもしれません、アレが泣きつく相手は王家しかいないでしょうから……」

それを受けて俺は……オーザドを殺したい気持ちはあるが一理もあると考えて、片腕を振り上げ大きく振るう。

それはフィリップとライデルに向けたもので……オーザドの後方に回り込んで、奇襲やら逃亡防止やらのために動いている二人への、それを止めるようにとの合図となっている。

それを見てバルトロは俺が提案を呑んだと判断したのだろう、こくりと頷いてからオーザドに向けて、仕切り直しの旨を伝え始める。

「―――再戦の条件に関する話し合いは後日、このバルトロがそちらに出向いて行いましょう。

どちらの宿にお泊りなのか教えていただきたい」

そして最後にそう言うとオーザドは膝を突いたまま項垂れて、自棄っぱちの大声で隣領にある高級宿の名を振り絞るように伝えてくるのだった。