軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

見世物決闘

決闘の場は関所前に用意されることになった。

周囲の木々を切り開き、運動場くらいの空間を作って、そこに決闘のための場を用意したら周囲に観客席を並べていく。

テントのような屋根付きで使用人のための小さな椅子や待機所も用意した。

飲食を用意するための簡単な炊事場も作って……平民席も用意、完全なお祭りモードだ。

前世でも騎馬トーナメントやら何やら、こういう見世物は多かったようだし、こちらの世界でも好まれるはず……と思っていたのだけど、思っていた以上の大盛況、バルトロがまとめあげて来た決闘当日には、全ての席が埋まっての大盛況となった。

開催はカーター子爵との共催で、正式な決闘でもあるので地方法院に許可を取った上で紋章院にも連絡済み。

完全にオーザドの逃げ場を奪う形での開催となった。

開催までの数日、オーザドはオーザドなりに抵抗をしていたようだった。

どうにか開催を避けられないかとか、アレス男爵を懐柔出来ないかとか、法院などを買収出来ないか……などなど、結果としてこうして開催しているので、その全ては失敗となったようだ。

どうにか腕の良い代理人を見つけることには成功したようだが、それでもアレス男爵には劣る相手で、結果は見えている決闘となったが、それでも見物人は期待感を放ち続けている。

席に向かいながらまだかまだかとソワソワとし、平民用の売店には行列、賭けなんかも始まっているようでとにかく賑やかだ。

賭けに関しては……正直思う所はあるが、普段厳しく引き締めているので今日くらいは許してやるとしよう。

平民の中には楽器片手に歌う者あれば踊る者もいて、本当に好き勝手やってるなぁ。

貴族席では穏やかな空気が流れていて……主に母上の知り合いがその席を埋めている。

もちろん母上の姿もあって、コーデリアさん、姉上、プルミア、アーサー達の姿もある。

こんな所に猟犬を連れてくるのはどうかと思うが、アーサー達はコーデリアさんがいると大人しくなって側を離れようとはしないので、問題はないのだろう。

そして今日の主役であるアレス男爵は既に準備完了、改良が進められている鎧を着用し、会場中央にある決闘場……円形の柵に囲われた土肌剥き出しの場で仁王立ちをしている。

そして貴族席にはアレス男爵の家族の姿もあって……男爵用に作られ、決闘用に派手に飾られた鎧を、仁王立ちになることで精一杯にアピールしているようだ。

頭部分はパレードメットと言ったら良いのか、羽飾りがついていて男爵家の紋章入りマントに胸部装甲には我が家の紋章。

どうせ攻撃を受けることもないだろうからと、金メッキなんかもされていて、とにかく派手で煌めいていて……それが好評なのか、結構な見物人の視線を集めている。

決闘相手であるオーザド及び代理人は未だに不在、開催までは残り一時間……このままバックレるとは思えないのだが、どうするつもりなんだろうなぁ。

と、そんなことを考えていると観客席からざわめきが広がり、鎧姿の騎士を連れたオーザド……と、スーツ姿の老人が何人か会場へとやってくる。

シルクハットを載せた禿げ上がった頭に白いもさもさヒゲでモーニングスーツ。

全員が全く同じ格好という訳ではないが、大体そんな感じの老人達の集団は、地方法院の裁判官達で、いずれも貴族ではあるが領地を持たない名誉貴族で、オーザドのドヤ顔を見るに彼らを味方につけたつもりなのだろう。

そんな風に会場にやってきて、普通ならばまずは決闘前の挨拶をするはずなのだがオーザドは仰々しい仕草で両手を振り上げて声を張り上げる。

「どうですか、この乱痴気騒ぎ、風紀を乱しているにも程がある!

こんな有り様を貴族として放置するなど、許されないことでしょう!」

それを受けて裁判官の一人、彼らのリーダー的な存在であるマーカス卿はヒゲを撫でながら声を上げる。

「確かに騒がしいですな、ウィルバートフォース伯は変わった統治をなさる。

……が、統治方法は領主それぞれの判断、私共が口を出すことではありませんな」

すると周囲の裁判官達もその通りと続き、なんともとぼけた顔をする。

「ば、馬鹿なことを……!

あのウィルバートフォースはこちらに難癖をつけて決闘だのと言い出し、挙げ句この騒ぎ……地方法院として裁くべき案件かと考えます!

マーカス卿、異例ではありますがこの場での判断を下すべきかと……!」

とぼけている老人達に尚も食い下がるオーザド。

……仮にも王都の貴族なんだろうになぁ、悪意渦巻く宮廷政治を乗り切ってきた人物にしては空気が読めていないと言うか、何と言うか……。

「この決闘についての私共としての判断は既になされていますよ。

地方法院として正式な決闘であることを認め、決着の際には事前に定めた条件通りの裁定が行われます。

私共が今日この場にいるのはそれを見守るためであり、それ以外の理由ではありませんな」

マーカス卿と呼ばれたおとぼけ老人は尚もそんなことを言って、朗らかな笑みを浮かべていたりする。

それを見て唖然とするオーザド。

……恐らくだがオーザドは彼らに賄賂を贈ったのだろう、それもかなりの額を。

それを受け取ってもらえたことで味方になってもらえたと、そう考えているようだが……賄賂程度で揺るぐ法院ではない。

賄賂が全く無駄とは言わない、彼らの心情を動かす程度のことは出来るだろう、だが法を無視するだとか法を変えるとかになると全くの別次元の話だ。

そもそもとして俺も彼らに賄賂を贈っているからなぁ……オーザドが動かした心情は更に動いて、かなり中立寄りになっているに違いない。

俺個人としては賄賂という行為には思う所がある……が、だからと言って慣例を無視しすぎる訳にもいかない。

心付け、あるいはお布施のようなもの。それを渡すのが当たり前となっているのなら仕方ない、ある程度は必要経費みたいなものだ。

そして当たり前だからこそ彼らは賄賂慣れをしている、してしまっている。

慣れきった当たり前のこと程度で法を無視したり無茶な判決を出したりなんてことをするはずがないのだ。

そもそもとして連中は歴戦の狸親父達だ、ある意味ではお祖父様より厄介な連中だ、それを都合よく利用しようだなんて、オーザド如きに出来るはずがない。

「ば、馬鹿な! あの小僧のことは気に食わないと、そう言っていたではないですか!

貴方がたの主義にも反していて癇に障る小僧だと……!

それが何故……!!」

そう言ってオーザドはわなわなと震えて今にも地団駄を踏みそうな程に力んでいて、そんなオーザドを見てジジイ共はホッホホッホと笑い声を上げている。

確かに彼らと俺の主義は相容れない。

ひどく単純化して分類するなら彼らは古き良きにこだわり続ける伝統主義で、俺は新しいことにばかり手を出す改革主義。

特に困ってないのなら全部今まで通りで良いじゃない、というのが彼ら。

困ったことになる前にどんどん新しいことをやって良い方向に向かうよう挑戦していこう、というのが俺。

では彼らにとって俺が排除したくなる程に目障りか? と言うとそんなことはない。

殺したい程憎いとか没落させたいとか、彼らはそんなこと微塵も思っていない。

むしろ俺には元気いっぱい、今まで以上に暴れ回って改革を進めて欲しいと考えているはずだ。今回のこともよくやったと絶賛してくれているに違いない、人前でなければハグを求めて来たかもしれないくらいに親しみも覚えてくれているはずだ。

そのくらい彼らは俺のことが大好きだ、ハグどころか熱烈なキスをしてくれるくらいに好意を持ってくれているかもしれない。

何故か? その答えはとてもシンプルだ、俺みたいな若造がいたほうが儲かるから、これに尽きる。

新しいことをやるには……改革には揉め事が付き物だ、俺が何かする度にどうしたってある程度の反発はあるものだ。場合によっては細々とした……大きな影響のない法解釈の変更なんてものも必要になってくる。

領内だけのことなら俺に裁判権があり、俺が勝手に判断をしたら良い話なのだが、領を越えた話や様々な権力に触れるとなると地方法院の仕事で……そういう揉め事が発生した時こそ彼らにとっての稼ぎ時。

地方法院としての仕事が発生し、関係者達からの賄賂が集まり、上手く裁けば感謝の追加賄賂もあるかもしれず、接待なんかも受けられて濡れ手に粟の大儲け。

そんな仕事が何度も何度も、俺が動く度に発生する可能性がある。

そして俺も今の所は彼らの譲れない分野である伝統とか文化とか歴史とか、そういったことには手出しをしないように自重しているので、好感度は上がることはあっても下がることはないと、そういうことになっている。

今回の決闘騒ぎでも彼らはそれなりに儲けたはずで、その上こんな見世物を楽しめるのだから今回も好感度がうんと上がったんだろうなぁ。

……いずれ王族討伐だとか議会成立だとかを始めれば彼らと決定的に対立することになるのかもしれないが、今のところは彼らとはとても良い付き合いを維持出来ている。

「さぁさぁ、オーザド伯、新聞の取材も来ているようですから、ここは見せ所ですぞ。

生意気な若造にビシッと、勝利を前にしての素敵な詩でも披露しては如何ですかな」

と、おとぼけマーカスがそう言うと、オーザドは顔面蒼白となって言葉も出てこないのだろう、口をパクパクとさせる。

そのままオーザドは何も言えなくなってしまったので、仕方なく俺が声を張り上げる。

「決闘だ!

今日の決闘は事前の取り決め通り、敗者が勝者に賠償と謝罪を行う! 賠償の額は勝者が決める! 限度はない!

代理人を認めるが、それ以外の介入や仲介は認めない! お互い伯爵同士、堂々たる正面からのぶつかり合いで決着を!」

多少仰々しいと言うか、芝居がかったノリでもって声を張り上げると大歓声が巻き起こり、コーデリアさんなんかは凄い勢いで拍手をしていたりする。

オーザドは相変わらず動かないままだが、相手の騎士は覚悟を決めたのだろう、すっと前に進み出てくる。

鎧は量産型だが質自体は悪くない、その上で多少の改良もしているようで、恐らくはオーザドの家が保管しているものを持ってきたのだろう。

後はそれを使う人物次第だが……仮にドルイド族であったとしても万全のアレス男爵が負けるとは思えなかった。

俺の声を受けてか観客に紛れていた教会から派遣された灰髪オールバック、頬をコケさせた長身の神父服の男性……セリーナ司教様の部下である顔見知りの中年男性が進み出てきて、彼が今日の見届人を務めてくれる。

実は審問官で結構怖い立場の人だったりするのだが、まぁうん、深くは気にしないでおこう。

そんな彼の合図があって後方に下がることになった俺は、アレス男爵の側を通り声をかける。

「決着を急がないように、見物人をある程度楽しませてやってくれ」

すると男爵は頷いてくれて……仰々しい仕草で槍を構えて、戦闘準備完了だとアピールをする。

それを受けて観客は大歓声の大盛り上がり。

アレス男爵は元々王都で働いていたこともあってここら辺の機微は理解してくれているらしい。

そして相手の騎士もそれに応じて歓声が上がり……オーザドはマーカス卿が連れてきた若い使用人に引きずられて退場、柵の内側には騎士二人と見届人だけとなる。

「……決闘開始!!」

そして見届人が声を上げると両者が動き出し、まずは槍で打ち合う。

両者力が入っているようで凄まじい衝撃音が響き渡り、鍔迫り合いのようなものが始まる。

騎士鎧と槍での鍔迫り合いは、刀のそれとは違って常に動き回りながら行われる。

槍を押し付け合いながら上下左右に激しく動かし、移動をしての立ち位置の入れ替えも行われ……その中で動きが乱れたり隙を見せたりしたなら、体当たりなり槍での一撃が待っている。

一撃と言っても突きとは限らない、ただ打ち据えるという場合もあり、それでも十分なダメージが入る。

使い手次第ではあるものの、鎧には攻撃を補助する機構もあるためその衝撃力はかなりのもので、防御も回避もしないで二度三度と打たれれば鎧に相応のダメージが入る。

そんな鍔迫り合いを制したのはアレス男爵、お互い槍を動かし合う中で相手の槍を上手い具合に誘導して地面に叩きつけて先端を足で踏み、相手の動きを封じた上で脳天を打ち据える。

後はそのまま打ち据え続ければ勝利……だったのだろうが、俺の言葉に従ってアレス男爵は足を上げて相手を解放し、一旦距離を取って仕切り直す。

すると観客は両腕を振り上げての大声を張り上げ、騎士道精神を見せたと思ったのか婦人達からは黄色い声や拍手が上がる。

そこからもう一度鍔迫り合いに行くかと思ったが男爵はあえて隙のある大振るいの横薙ぎを放つ。

避けるか防ぐか、あえて受けて反撃のチャンスとするか、突きならまだしも槍での横薙ぎでは致命傷にならないのであえて相手に一手譲った形となって、相手の答えは受けての反撃。

脇腹で受けて両手でしっかり槍を構えての突きを放つ、がアレス男爵はそれを体を少しひねるだけで回避してみせる。

そして槍をぶん回しての反対側からの横薙ぎ、相手はもう一度受けて突きを放つ。

だが避けられてしまう、次に男爵は上から相手の左肩を打ち、次に右肩を打ち、相手はその都度突きを放って反撃をするが、命中しない。

完全に経験の差が出ている、打たれた際に鎧内部に響き渡る音と痛みに耐えながらどこを攻撃してくるのか、男爵が完全に読み切っている。

痛みに揺るがず真っ直ぐ体の中央を貫いたのなら回避も間に合わないはずだが、男爵の攻撃を受けてそれが出来るのはドルイド族くらいのものなのだろう。

そんな打ち合いは観客としては大盛り上がり、鎧の性能なんてほぼ関係のない野蛮と言えば野蛮など突き合いだが、攻撃の度に激しく音がなって火花が散って絵として状況が分かりやすいことが盛り上がりに繋がっているようだ。

マーカス卿を始めとした法院の方々も……使用人を使い走りにでもしたのか、買い食いしながら楽しんでやがる。

一応貴族だろうに下品とされる串焼きを楽しんでいて、しっかり牛肉を食べてる辺りは貴族だなぁ。

普段は牛肉なんて並ぶ訳がないのだけども今日は特別、皆に楽しんでもらうために俺の予算で牛肉料理を出させていて、法院の方々はそれとワインを楽しみながらなんとも朗らかな笑みを浮かべてらっしゃる。

やれやれと視線を戻すとアレス男爵は、段々と決着へと場の流れを誘導している。

相手を打ち据える際の力をどんどん強めていって……相手の鎧の各所にはヒビが入っている。

まだまだ致命的なダメージではないが、確実に蓄積はしていて、いずれは破綻してしまうことだろう。

しかしそれでも相手の騎士は情けない所は見せまいと、踏ん張って気合を入れてしっかりと男爵との打ち合いを演じる。

心の何処かで負けると分かってはいるが、だからといって手を抜くことは出来ないと踏ん張っている。

そして……男爵の慈悲か油断か、相手に余裕があるタイミングでアレス男爵が大振りをしてしまって胴体ががら空きとなり、そこに相手の全力の突き攻撃が見事に命中する。

タイミングも狙いも完璧、魔法石の起動はしていないようだがあれだけの力を込めたならかなりのダメージがあったはず……だが、アレス男爵も鎧も崩れることなく堂々と立っていて、そして大きく振り上げた男爵の槍が、凄まじい勢いでもって相手の脳天……ではなく腕に振り下ろされる。

明らかに脳天を狙えた、兜を割ることが出来た……だがそれをやれば相手の命を奪いかねないと思ったのだろう、腕を打ち据えて腕から致命的な音がし、鎧が砕けて骨が折れたか、その腕から力が失われ相手の槍が地面に転がる。

「勝者、ウィルバートフォース伯爵ブライト様!!」

見届人の宣言が会場に響き渡り、そこから更に彼は言葉を続けていたのだが、それは観客の大歓声にかき消され……しばらくの間、会場は会話が不可能な程の凄まじい音に包みこまれるのだった。