作品タイトル不明
対面
準備を整えた旗艦が飛ぶ、六人のドルイド騎士を吊り下げて。
ドルイド族の老騎士ルムルア率いるその六人には、専用に調整した鎧を用意していて、武器もまたそれぞれの戦い方に合ったものとなっている。
大きな刀のような鉄塊、ソードメイス、ハンマー、対鎧用ペンチ、大きな盾のような鉄板、巨大なバールのようなもの。
それらを構えて空を飛ぶ騎士の姿は王都の人々にどう見えていたのか……王都を囲む支城や堀のような役割をしている川、防壁を乗り越えて旗艦が王都上空に入る。
しかし抵抗らしい抵抗はなく旗艦はただただ進み続け……王城上空に入ったなら降下を始めて、ドルイド騎士達を中庭に送り込む。
王城は中心となる城から城壁が伸びるように広がっていて、それが円を描き中庭を取り囲んでいる。
中庭に侵入したからといって、それで王城を攻略したことにはならないが、ドルイド騎士を降下させるにはそこしかなく、巨躯のドルイド騎士が室内戦というのも不利になる可能性があるので、主戦場はこの中庭になるだろう。
まるで隕石が落ちたかと思うような振動と音が周囲に響き渡り、ドルイド騎士達が着地したのを確認したならワイヤー切り離しのボタンを押してやって、ワイヤーが切り離され、騎士達が自由になる。
迎撃の兵達はまだ中庭にはやってきておらず、一部が城壁の歩廊から驚き混じりに視線を送ってはいるが、何かをする様子はない。
そんな状況を受けてドルイド騎士達が動き出す。
それぞれの武器を構えて手近な城壁へと足を進めて、そして城や城壁の内部に入るのではなく、構えた武器を振り下ろして破壊していく。
一撃で壁が砕け、一撃で大穴が空いて、このまま放置していれば王城が崩れ落ちるとあって、悲鳴なような声でもってあいつらをどうにかしろという号令が響き渡る。
そんな中、四人の騎士達が開けた大穴に背を向けて押し付け……背負っていた大男が入れるような大きな箱、バックパックが開かれて、まず軽装鎧のアレス男爵が飛び出す。
ドルイド騎士のように俺達を吊り下げる訳にもいかず、かといって敵地に飛空艇を降下させる訳にもいかず、ロープ降下やワイヤー降下を当主である俺にさせる訳にはいかないとの大反対を受けて、急遽用意した苦肉の策のそれで一番苦しい思いをしたのは体躯が良いアレス男爵だろう。
全身鎧ではなく、腕や足、胸部など一部だけに鎧を身に着けて剣を構えて周囲を確認し、警戒。
次にエドラン殿下とフィリップが飛び出す。
エドラン殿下愛用の忍び装束のような服をフィリップもまた着用していて、更にマントを羽織り、短剣を構えながらアレス男爵に続き……最後は俺がそれを追いかける。
肩に博士作の銃をベルトで下げて、腰には鞘を下げ、アレス男爵のものよりも更に軽装の鎧をつけて、我が家の紋章入りのマントを羽織って。
俺達が城内に侵入したのを確認したならドルイド騎士達は中庭に進み出て、注意を引くための大暴れをし始め……俺達は城内の協力者が残してくれた目印を頼りに城内を駆けていく。
あれこれと考えはしたが、結局こんな感じで侵入しての暗殺という計画を採用することになった。
城内にはお祖父様が手配してくれた協力者が数人いる上に、王太子は決まった部屋に籠りがちで、特に最近は一つの部屋に固執しているとかで、作戦が立てやすかったからだ。
その上、城内に詳しいアレス男爵が味方にいる上に、潜入暗殺が得意らしいエドラン殿下も味方となっていて……フィリップもまたそういった手に長けている。
ジェミィとロックも様々な工作を仕掛けてくれているとかで、他の選択肢は存在しないに等しかった。
城内で多少の抵抗があったとしてもアレス男爵とエドラン殿下の相手ではないだろう。
実際、磨かれた石床の廊下を駆けていると目の前に二人の騎士が現れるが、エドラン殿下がすぐさま対応をしてくれる。
「せいっ!!」
と、声を上げて飛び上がり、騎士二人の背後に立ったなら、背面にある魔法石エンジンといった感じの動力部分に短剣を差し込み、破壊してしまう。
これが鎧の弱点だった。
排熱やら吸気やらの関係で現状の技術では露出せざるを得ず、仕方無しに背面に配置、背面を取らせない動きでもって弱点をどうにかしていたのだが、身軽過ぎる殿下にとっては鈍重な鎧の動きは硬直しているのと同義。
エンジンを破壊したなら殿下特製の粉末を吸気口や鎧の隙間に叩き込み、鎧の中がその粉末で満たされると騎士達は悲鳴を上げながら悶え苦しむ。
毒草や毒キノコを乾燥させた粉末とスパイスのセットらしいその粉は、一時的に苦しむことにはなるが、死ぬとか後遺症が残るとかそういった毒性はないようで、殿下なりに考えた『平和的』な騎士の制圧方の一つらしい。
いくら悶え苦しんでも鎧は動力を失っているために自由には動いてくれず、鎧を脱ぐことすらままならず、ただただ苦しむことしか出来ない。
そんな騎士を見下ろして良い笑顔をした殿下は、目印に従って先行する形で駆けていき、そして殿下が行く先から次々に悲鳴が響いてくる。
「……えげつないなぁ」
と、フィリップ。
「まぁ、殺していないのだから慈悲深くはある」
と、俺。
アレス男爵は自分がこれを食らったらと考えているのか顔色を悪くしていて……そんな状態で俺達三人は殿下の後を追いかけていく。
王太子が最近入り浸っているという部屋は、王城の地下にあるようだ。
王城地下は主に食料庫やワイン庫、井戸やらのある水仕事場などがあるそうだが、そのうちの一つ、旧宝物庫に王太子は入り浸っているらしい。
元々は宝物庫だったが、劣化や湿気の問題で使用されなくなり、以降は何が置かれる訳でもなく放置されていた部屋と言うか、空間と言うか……そんな場所だ。
宝物庫と言うだけあって、侵入しにくく扉は頑丈、籠城を決め込むには悪くない場所ではあるが、一体そこで何をしようと言うのか……色々と気になることはあるが、他には目を向けずにただただそこに向かう。
途中施錠された扉や鉄門があったが、全て殿下かフィリップが解錠するか、お祖父様が用意してくれた鍵で開くことが出来て、何の問題もなく進むことが出来る。
そして宝物庫に繋がる通路の前の扉を開いた時だった。
ランプの明かりを反射しているヒビ一つない綺麗な石壁に石床、天井もしっかり綺麗な石が使われたそこまで広くない通路で仁王立ちになっている王太子の姿が視界に入り込む。
間違いなく美男子だと言って良い。
汚れ一つない肌、完璧な顔立ち、輝く金髪に藍色の瞳。
俺も金髪ではあるが色の種類が違う、あちらは本物の金を溶かして塗りつけたかのように輝いている。
どういうヘアセットをしているのか、それが綺麗に逆立っていて、藍色の瞳もまるで色付き電球かのような不自然な輝きを放っている。
体格も良く、姿勢も悪くない、そしてスラックスとワイシャツというシンプルな格好
……の上に変なベルトをこれでもかと巻き付けている。
そのベルトには様々な品が貼り付けてある。
短剣、宝石、杖、小瓶、羽飾り、巻物、お守りのような木の板、スリングショット、手鏡、手斧などなど、数にして20か、30か……背面にもあるとなるとその倍はあるかもしれない。
「うわぁ……」
と、フィリップ。
小道具を体に張り付けるという訳の分からなさもそうだが、表情が歪んでいて折角の顔立ちが台無しとなっていることに声を上げたようだ。
本当に歪んでいる。
性格が表情に出ていると言うのか、碌でも無い人間が碌でも無いことを企んでいるといった顔で、そんな顔を睨みながら俺達はそれぞれ武器を構えて戦闘態勢を取る。
「馬鹿が! もう全部発動させてあるんだ! 現実だから出来る裏技だ! 戦闘開始をわざわざ待つ必要なんてないんだ!!」
すると王太子がなんとも良い声で訳の分からないことを言ってくる。
「これだけ狭ければ迂回することも背面を取ることも出来ないぞ! 完璧な作戦だ! このマップでしかできないハメ技だったが、こんな形で役に立つなんてな!!」
また訳が分からない。
アレス男爵はそんな訳の分からない言葉に構うよりも、さっさと倒してしまおうと考えたのか剣を振り上げて踏み込もうとし、それを受けてエドラン殿下が腕を上げて男爵の動きを制止し、それとほぼ同時に投げナイフを投擲する。
と、投げナイフが何かに当たって弾かれ、地面に落ちる。
見えない何か、王太子の前方にある何か……ガラスとかの透明度の高い物体とかではない、見えない壁のようなものがそこにあるらしい。
殿下は次々にナイフを投げて、先程使っていた粉末なども投げてみるが、その全てが見えない何かに弾かれ……粉末の舞い方や弾かれ方から、ドーム状の盾のようなものが王太子の前方1m程に展開されていることが分かってくる。
「毒なんて効くものか! デバフも異常も全部防いでいる! 自動修復に自動回復もあるし即死も無効だ!
ここまで発動出来た時点で詰みなんだよ、突破手段なんてあるものか!
あとはこちらから一方的に攻撃を繰り返せば……!」
と、そう言って王太子は足元に置いてあったらしい弓と矢筒を手に取る。
王太子にばかり注目していたが、改めて王太子の足元を見てみると無数の矢筒が転がっていて、どうやら見えない壁のあちら側から一方的な攻撃をするつもりらしい。
……しかし弓矢て。
そんなことを考えた直後、王太子が矢を放つがアレス男爵がその籠手であっさりと打ち払う。
フィリップや殿下を狙っても結果はほぼ変わらず、そのマントや短剣でもって払われて命中することはない。
数え切れないほどの矢筒だ、何度も何度も繰り返していれば一発二発は当たるかもしれないが、それで致命傷になるとも……いや、さっき王太子は毒がどうこうと言っていたな。
「矢じりに毒が塗られている可能性がある! 油断はするな!!」
そう声を上げると殿下と男爵は静かに頷いてくれて、フィリップはマントを振るいながらこちらに駆け寄ってきて小声をかけてくる。
「兄貴、おいら思い出したよ。以前やった遺跡探索で変なガラス玉を見つけたんだよ。
報告書にも書いておいたけど、拾ってあれこれいじってたら突然光って、そのあとすぐに消え去っちゃったやつ。
てっきり遺跡の仕掛けの一部かと思ってたんだけどさ……もしかしたら違うのかもしれない。
……さっきの王太子の発言からの予想だけど、何か凄い効果のある遺物だったんじゃないかな。
おいら達がそれに気付けなかっただけであの場で何かが起きていて……王太子はその効果とかを知っていて、それを上手く使ってあの変な状況を作り出してるんじゃないかな」
「……なるほど?
発動どうこうって発言はそういうことか。
王家は遺物に関する知識があって、これまでも便利に使ってきたのかもしれないな。
そして宝物庫にあったものや遺跡にあったものを集めに集めてあの有様か。
……遺物をベルトに貼り付けていつでも発動出来るようにして、だと言うのに攻撃が弓矢か。
狭い通路でわざわざ待ち構えていたことも合わせて考えると、遺物に攻撃的な品はないのかもな」
「だろうね、あったら即座に使ってるはずだし。
……でも壁を張れるだけでも十分厄介だよ、あんなことされちゃぁ手出しが出来ないし……」
「……フィリップ、その遺物は光った後に消滅したんだな?」
ふと思うことがあってそう問いかけるとフィリップはこくりと頷く。
「そうなると……恐らくだが遺物は消耗品なのだろうな。
そして効果も一時的なものなのだろう、永続的なものならいくらでも使い様があるはずで、こんな有様にはなっていないはずだ。
時間で消えるのか、攻撃を受けた回数で消えるのか、耐久力のようなものがあるのか……あるいは単純に威力の高い一撃であれば破れる壁なのかもしれない。
アレス男爵の一撃か……銃の一撃ならばあるいは貫けるかもしれない。
今から発射機構を起動させる、それまでの時間を稼いでくれるか?」
と、言葉を続けるとフィリップは頷いてくれて、マントを広げながら俺の前に立ってくれる。
そして話を聞いていたのかアレス男爵とエドラン殿下も動きを変えて、目の前にある見えない壁を突破するための攻勢を仕掛けようとし始める。
それに対し王太子は弓矢を放っているが、全く通じず……そうしてお互いに決め手にかける、なんとも言えない戦いが始まることになるのだった。