軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

思惑

――――王都から離れて、長閑な教会で 王妃

ウィルバートフォース伯からの手紙が届いた頃にはもう王妃に出来ることはなかった。

自らが主導権を握り、中心となって行うはずのことを先んじられた挙句、徹底的なまでに状況が決していて、最早介入する余地すらない。

新聞が話を広めて、民がそれに乗り、扇動家が煽って教会がとどめを刺し、後はどう仕上げるかという状況となっていた。

ここで口出し手出しをするなんてのは往生際が悪い上に優雅とも言い難く、ましてや王妃のすることでもなく……王妃に出来ることは軍務伯と協力して王や忠臣達を王城から引き離すことだけだった。

教会の怒りはかなりのものだと軍務伯と共に王に嘘を吹き込み、王都ではなく郊外の教会にて代表者と会う必要があると言って連れ出し、教会に到着したなら私兵でもって包囲、王が決して脱出出来ないように状況を作り上げて、事が終わるのを見守る……と、それだけだった。

王には教会側の代表者の到着が遅れていると嘘をつき続け、とにかくそこに縛り付け続ける。

……ウィルバートフォース伯は手紙を送ってきたことからも、その内容からも言葉と道理の通じる人物であることは分かっている。

こちらから積極的に邪魔しなければこちらにまで手出ししようとはしないはずだ。

……王太子はもう駄目だ。やり過ぎた。

それにトドメを刺させてやるだけでその怒りが収まるのなら安いものだと考えることも出来る。

王都で起き始めている末期的な状況……受け入れることのできない数の労働者が集まって、街を食い漁り汚し、崩壊させているという状況も、もしかしたら伯の一撃が解決してくれるかもしれない。

攻撃による混乱と騒乱、それによる被害……労働者の3割でも死んでくれたなら、後はどうとでも解決出来ると、王妃はそう考えていた。

場合によってはそれを理由に伯に賠償を迫ることだって出来るはずと……軍務伯はそうは考えておらず、王妃のその考えを諌めてきていたが、それでも王妃はそう考えていた。

一方で軍務伯は遷都を考えているようだった。

今の東ではなく西へ、ウィルバートフォース領の近くへ。

時流は変わった、新時代が始まった、伝統と文化と歴史を守るために……世界と渡り合っていくために、今ここで切り替えが必要だと考えているようだ。

そのためウィルバートフォース伯との距離を縮めようと画策しているようで、軍務伯は軍務伯で王太子を差し出すための画策をしているようだ。

以前の状況ならば軍務伯如きがそんな真似をと憤ったはずの王妃だったが、今となってはそれも致し方ないとしか思えず……どうしてこうなってしまったと、今更ながらの後悔があった。

もっと早く気付いていれば、もっと早く動いていれば……。

しかし気付ける機会はいくらでもあった。王太子の変化、行動の激化、周囲の変化、ウィルバートフォース家からの強い非難に抗議の手紙。

特にウィルバートフォース伯の家族が王都を離れた時には、何がどうしてそうなったのかを察することが出来なくとも探るべきだった。

ウィルバートフォース伯の母親とは仲が良いと思っていた、心置きなく話し合える仲だと思っていた。

しかし王都を離れてからは一切の交流が断たれていて、和解が出来るはずと期待していた繋がりがいつの間にか消え去っていた。

その繋がりを維持出来ていれば、もっと仲を深めていれば……。

何かが違えばこうはならなかったはずなのにと、そんなことを考えながら王妃は、教会の中に用意された自室であれこれと思考を巡らせ……今後王政をどう立て直していくかを、あれこれと考えていくのだった。

――――一方その頃、リュード軍務伯

なるようになったかなと、リュードはそんなことを思う。

自分に出来る最善は尽くした、王家への礼儀も尽くした、しかし王家が応えてはくれなかった、結果終わりの時が来た。

彼は王太子を殺すだろう、そしてそのまま勢いを増していくことだろう。

彼が何を望むのか、どんな社会を求めているのかは以前に聞いた、国民による国家を作るために不要な王家や貴族を次々殺し始めたとしても驚きはしない。

そもそも彼の殺意は王太子にだけ向いている訳ではない、王族全てに向いている、それらを支える者達にも向いている。

きっと彼は止まらない、そのために地力を貯めてきた、機会を窺っていた、大義名分を求めていた。

そして王太子はご丁寧なことにそれら全てを与えてしまった。

しかも彼はまだまだ若い、自分達のような老人にはどうしようも出来ない程に若く、未来がある。

未来がある者には様々な選択肢を選ぶことが出来るが、先のない老人にはそれが出来ない。本当に少ない道を選ぶことしか出来ない。

そうなると若さには若さで対抗するしかないのだが、王家側がその若さを失いつつある。

王太子以外にも若者はいないでもないが、今の状況を乗りこなせる才覚を持った者は皆無となっている。

そもそもいるのなら、さっさとそちらを立太子させていた訳で……もうこの王家は終わりだろう。

国家のためには王家すらも切り捨てる必要がある……次はどの王朝を立てるべきか。

いっそウィルバートフォース家に王家の誰かを嫁がせたい所だが、ロブル国の姫に勝てる器の女がいただろうか?

……いっそ子だろうか、二人の子に嫁がせるべきだろうか?

そう考えてリュードは小さく笑い……教会の一室、自習室と呼ばれる狭い部屋の粗末な椅子に背を預けた彼は、そのための企みをあれこれとし始めるのだった。

――――自らの家で ジョナサン・ウィルクス

古びた木造アパートの二階、自らが大家として運営している貸家の一室で、煽動家ジョナサン・ウィルクスはなんともいい気分に浸っていた。

負け犬の家とまで揶揄されたボロボロのアパートも、住居不足となった今では立派な財産な上に、目の前の貧相なテーブルには金貨と紙幣の山。

しかも仕事が成功した際には、町長などの役職への就任も約束されている。

依頼主が上手いのは、その約束でもってウィルクスの持っている虚栄心を良い具合に刺激してくることだった。

財産でも女でもなく名誉、人に命令できる立場、安寧の日々を約束してくれている。

これでは依頼主を攻撃することも出来ない、そうして依頼主が失脚してしまえば、その約束が果たされなくなってしまうからだ。

ウィルクスに扇動をさせたことを弱みにそちらにも扇動をかけてやることを考えたりもしたが……町長などになってより良い立場からの扇動の方が楽しそうで、その魅力に打ち勝つことが出来ない。

「まぁ、今回は勝ち馬に乗っておくのが良いんでしょうねぇ」

思わずそんな独り言をつぶやき、全力でニヤつき、それから窓へと視線をやる。

そろそろ自分の仕掛けた策が動き始めるはず、王家による監視が厳しく自分で動くことは出来ないが、仲間を動員することは出来ている。

「見たかったですねぇ、大騒ぎ……王城もそれはもうひどい騒ぎになるんでしょうねぇ。

ああ、その中心にいたかったなぁ、皆に恨まれ愛されたかったなぁ……まぁ、それは町長になってから楽しみますかねぇ」

更に独り言。

と、その時、窓の向こうにいくつもの煙が立ち上る。

「お、おぉ……予想以上の数と勢いですねぇ、アレは勝ち目なさそうですねぇ、敵に回さなくて良かったなぁ」

そう言いながら立ち上がって窓に張り付いたウィルクスは、これから起きるであろう騒動を想像して、これでもかとその胸を躍らせるのだった。

――――とある猟場で ブライト

旗艦の新造は間に合うはずもなく、代理の旗艦で出撃した俺達は王都近くにある猟場にて飛空艇を停泊させていた。

この猟場の持ち主はお祖父様の知人のコーウェル侯爵、そろそろ70歳になるという御老体ながら好奇心旺盛な御仁で、今回は飛空艇にどうしても搭乗してみたいという侯爵のためにやってきた……ということになっている。

実際には王都襲撃のための臨時拠点となっていて、森の中に切り開かれた平原には侯爵が用意してくれた物資などが山積みにされ、人員までが用意されていて、人払いまでしてくれているという、至れり尽くせりの拠点となっている。

「これが飛空艇かね、いやはや……空の旅が出来る時代になったとは驚きだねぇ」

そんな猟場には旧式の鎧姿の青年を数人控えさせた、腰の曲がった御老体の姿があり……なんとも立派な軍服に宝石付きの杖、杖にも負けない長さの白ひげと白髪という、いかにもなお姿をしていらっしゃる。

若い頃は大層な色男で知られたらしく、シワだらけとなっても整った顔は中々のもので……そんな御老体の視線はキラキラと輝きながら飛空艇へと注がれている。

「今回の協力のお礼に、新造艦一隻をお贈りする予定です。

またこちらで操縦者を育てられるよう、しばらくの間、人員もお貸しします。

こちらで目をつけている観光地や航路についても詳しい説明をその者達にさせますので、事が終わりましたらお好きなように空の旅をお楽しみください」

そんな御老体に俺がそう声をかけると、その顔をくしゃりとさせた御老体はうんうんと頷いてから、言葉を返してくる。

「これがアレの孫とは驚かされるねぇ、出来孫も良い所だよ。

よくぞ今まで耐えて、そしてよく起ってくれた、我欲に飲まれず立派なことだ。

……もう老い先短い身で、その若さを浴びれたことと、空の旅で世界を巡るという楽しみを得られたことは何よりの僥倖だ。

今回の事態が落ち着くまではこの辺りを好きに使ってくれて構わないよ。

……それで、あちらで鎧を着込んでいるのがドルイド族かな?

いやはや……なんと言ったら良いのか、でっかいねぇ。

……それとあの金属のものは、金属のロープなのかな?」

「はい、あちらがドルイド族の騎士達で、彼らの鎧に固定しているのがワイヤロープというものです。

金属を編み込んで作ったもので、ドルイド族達をも軽々持ち上げることが出来ます」

「……持ち上げるということは、やはり飛空艇かい?」

「はい。最初は飛空艇からの降下を考えていたのですが、彼らの体重を考えるとその際に発生する衝撃が問題で、ロープの耐久力はもちろんのこと、彼らへのダメージも懸念されました。

……そこで飛空艇から降下をするのではなく、ワイヤロープでもって吊り下げた状態で運搬、戦場にて切り離しを行い、戦闘後は再度固定をし吊り下げたままの撤退をする予定です。

ロープで吊り下げた状態はとても無防備で本来ならそんなこと出来るはずがないのですが、効果的な対空兵器がない現状なら、それも許されると考えています」

「なるほど……対空、対空か。

そうだねぇ、対空は難しいだろうねぇ、そうなるとやはり飛空艇には飛空艇かな。

例の火船を防いだという突撃、あれを効果的に行う飛空艇があると良いのかもしれないねぇ。

そういう戦いもいつか見てみたいものだね、空の戦い……ワクワクするね」

そう言ってから侯爵は控える青年に合図を出し、その場に見学のための場を用意させ始める。

椅子を並べテーブルを用意し、パラソルを立てて、レンガ竈を組んで火起こしを始めて。

恐らくは狩猟をする時はいつでもそうやって場を整えているのだろう、手慣れた様子であっという間に準備が完了する。

それから優雅に椅子に腰を下ろした侯爵は完全な見学ムードに入り、それと同時に飛空艇で待機しているフィリップが、こちらに向けて手を振ってくる。

……どうやら王都でジェミィ達が行動を開始したようだ。

コプラン国の生き残りとしての報復テロ。

字面は最悪だが、実際にテロ行為をする訳ではなく、狼煙を上げたり騒いだり、王城の騎士達を引きつけるための陽動作戦だ。

同時に王都の各地で報復テロが行われていると騒ぎを起こさせて、ジェミィの仲間達にテロ被害者を演じさせて、本当にテロが起きているように演出はするが、それ以上のことはしない。

あくまで目的は王太子だけ、王城への急襲、これが本筋だ。

その本筋のために俺も準備をしてきた、新型の鎧に博士が作り上げた銃、エドラン殿下からも戦闘術と言うか、暗殺術のような指導を受けた。

準備万端……競争相手であるエドラン殿下も準備万端、フィリップの隣に立って忍び装束を思わせるような黒い服にマスクをしてこちらに手を振っている。

あとは俺が飛空艇に乗り込むだけの様子で、俺は改めての挨拶を侯爵にしてからその場を後にし、飛空艇へと足を向けるのだった。