軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

Ep.3 謁見〜アルバ公爵side

アンネたちと別れた後、登城準備を済ませてすぐに馬車で王城へ向かった。

「アルバ公爵閣下。お待ちしておりました」

城内へ入ると謁見申請が受理されており、国王の侍従に恭しく出迎えられた。

————果たして国王は、己の息子の愚かな言動を把握しているのか……。

いや、していなかったとしたら……ただの阿呆だな。

二人の子は元妻には似ず、私と同じ色を持ち、アルバ公爵家の嫡子として立派に育ってくれた。

そんな我が娘————アンネリーゼは筆頭公爵家の令嬢という身分と優秀さを買われ、八歳の頃に王家より王太子の婚約者として指名された。

王家の威光などなくとも我が家は十分に力を持っている。

アンネが嫌ならば断ろうと思っていたが、本人が「家の名誉にはなるでしょうから」と受け入れた為、仕方なく承諾した。

そんなアンネが心配で、息子のライナルトは学園在学中に官吏試験を受け、卒業後に王城務めを始めたが、僅か三年で宰相補佐にまで登り詰めた。

王太子妃教育は高位貴族の教育よりも遥かに厳しい。

だがアンネは泣き言一つ口にすることなく、通常よりも早く修めてみせた。

————そのアンネと、あの阿婆擦れの娘を天秤に掛けるなど……あの 王太子(小僧) は随分といい度胸をしている。

近衛騎士たちが並び立つ執務室の前へ到着すると、入室の許可と共に中へ足を踏み入れた。

「ヴァレン・フォン・アルバが国王陛下に拝謁致します。突然の謁見の申し出をお受け下さり、感謝申し上げます。」

「……頭を上げよ——して、急な謁見の申し出の理由は何だ?」

……まだ知らないのか?

いや、王太子には影が付いているはずだ————。

体勢を戻し、事実だけを淡々と告げる。

「……実は本日、学園の卒業パーティーに出席したはずの娘が早々に帰宅致しまして——その理由が、王太子殿下より『婚約破棄』を宣告されたとのことでした」

執務椅子に座る国王を冷えた瞳で見据えると、その目元が微かにピクッと動いた。

————やはり知っていたか。

「……先ほど、影から報告があった。アンネリーゼ嬢には申し訳ないことをした」

「大勢の衆人の前で、我が家とは無関係の令嬢を娘の『義妹』と呼び、それを『虐げた』などと——事実無根も甚だしい理由だったようです」

自分の息子が誰と懇意にしているかくらいは把握しているだろう。

更に、それが我が家と遺恨のある相手であることも————。

「……すまない。あれにはよく言い聞かせていたのだが……」

「言い聞かせたとしても、理解していなければ意味がありません。王太子殿下は娘に対し、ここ一年ほど婚約者としての義務も果たさず、今日に至ってはその娘と揃いの衣装で会場へ入場したそうです。殿下が我が娘を不服と申すなら、喜んで我が家より破棄させて頂きます」

王太子が引き起こした予定外の出来事に、国王の顔はかなり渋い。

だが、そんなことは知ったことではない。

己の馬鹿息子を躾け切れなかった、王家の失態だ。

「仕方あるまい……あれの有責にて『婚約破棄』としよう……。アンネリーゼ嬢には慰謝料を支払う」

「それは結構です。ただどちらに非があったのか、それを明確にして頂ければ……その代わりと言っては何ですが、殿下のご意向を叶えてやって下さい。我が娘を『傷物』にしてまで望んだ娘です。さぞ娘よりも素晴らしい王太子妃となるでしょうから」

このままいけば、王太子は確実に廃嫡となるだろう————。

だがそれで済ませるなど、私からすれば甘過ぎる。

王太子には、あの小娘と共に責任を取ってもらう。

自らの心のままに動いた結果がどうなるのか————身をもって知ればいい。

国王は私の思惑に気付いただろうが、『否』とは言えない。言わせるつもりもない。

「——それともう一つ。傷付いた娘の療養の為に、アルバは社交界と国政より身を引きます」

既に決定事項だと言わんばかりに告げると、国王は驚きで目を見開いた後、苦虫を噛み潰すような表情へと変わった。

「……そこまでするか……」

「そこまで——王太子殿下はアルバを愚弄したのです。よりにもよって、我が家にとって因縁のある娘を我が娘の『義妹』と名乗らせた。私はあの娘を『アルバ』の籍に入れた覚えは一切ございません」

怒りを押し殺した声は低く、執務室の中に静かに響いた。

それに威圧されたのか、侍従が顔色を青ざめさせ、極度の緊張状態にあるのが分かる。

国王は目を閉じ、眉間に皺を寄せながら沈黙した。

少しは待ってやったが、話す様子もない。

「……では、私はこれにて失礼させて頂きます」

国王の感傷になど付き合ってはいられない。

そんな暇があれば、アンネの傍にいるに決まっている。

返答を聞く前に恭しく一礼すると、私はさっさとその場を辞した。

「父上」

来た道を戻り、馬車寄せへ向かっていると、ライナルトがやって来た。

「ライナルト——何故ここに?」

「宰相補佐の職を辞してきました。アンネが王太子妃にならないのであれば、不要な肩書きですので」

共に馬車へ向かいながら、息子は人好きのする笑みを浮かべ、大したことでもないかのように軽く答えた。

「お前は優秀だから、引き留められたのではないのか?」

「確かに引き留められはしましたが、私がアンネの為に務めていたことは宰相閣下もご存知ですから。閣下はまだ卒業パーティーの件を存じ上げていなかったので、ついでにご報告しておきました」

「今頃、陛下の執務室へ押し掛けているかもしれませんね」と、あっさり言ってのけた。

……それは、さぞかし宰相も頭を抱えていることだろうな。

愚か者の尻拭いをしなければならない宰相を少しだけ気の毒に思いながらも、本気で心配しているわけではない。

馬車に乗り込み、王城の表門を出た所でライナルトに問い掛けた。

「……出掛ける前に命じた通り、連絡は送ったか?」

「ええ、登城前に。……恐らく今頃、アンネも何か手を打っているでしょうね」

アンネも賢い。あえて何をしたかは聞かずとも、そのうち分かるだろう。

「……アンネにも伝えた通り屋敷へ戻り次第、準備を整えてから領地へ向かう。王都にいても構わんが、どうせ騒がしくなるからな」

「分かりました」

王都にいれば、愚か者たちが泣き付きにやって来るだろうが

————今更泣き付いて来たところで、遅い。