軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

100 恐らくバレバレだったのです!

【第2部最終章】

よく磨かれた大理石の床は、清廉な白色に輝いていた。

赤い玉座に腰を下ろしたのは、この国の王ではない。銀の髪に赤い瞳を持つその青年は、指輪に嵌めていた魔術石を眺めている。

(……あの男、ようやく通信魔法を遮断したか)

色を失った魔術石は、監視対象を完全に見失ったことを示していた。

しかしこの動きは問題ですらなく、それどころか遅すぎたほどだ。

(『素質』を持った人間にシャーロットと関わりを持たせ、幼い頃から仕込んだ甲斐がある。……さて)

青年は指輪を外すと、それを右手に握り込む。手の中から吹き上がった炎によって、指輪は真っ黒に焦げ付いて崩れた。

「素晴らしい働きを、期待しよう」

***

「――ご報告は以上です。エミール殿下」

(さすがはオズヴァルトさま、なんと分かりやすいお話でしょうか……っ!!)

オズヴァルトが一連の説明を終えるまでの間、シャーロットは彼の隣に立ち、ことあるごとに大きな相槌を打っていた。

(美しく論理的な筋道の立て方、まるで流れる水のように美しく……!! これはもはや芸術と言っても過言ではありません、オズヴァルトさまのお声も相俟って戯曲のよう!! とはいっても私、戯曲を聞いた記憶はひとつも無いのですけれど!!)

「ふうん……」

この執務室の主であるエミールは、今日も執務机に頬杖をついている。

数日前、シャーロットに囮作戦を提案したエミールにとって、クライドや日記帳から得られた情報は興味深いものだったようだ。

「色々とよく分かったよ、ふたりとも。まずは昨夜の集団魔力暴走について、よく沈静化してくれたね。オズヴァルトだけではなく、シャーロットちゃんまで頑張ってくれたなんて」

「いえ……!! 元はと言えば、私が巻き込んでしまったのです」

慌てるシャーロットの横で、オズヴァルトが少し難しい顔をしている。

「君は何一つ悪くない。シャーロット」

オズヴァルトがそう言ってくれたとしても、シャーロットはしょんぼりと俯いた。

「魔力暴走を起こされそうになった皆さまは、本当にもう回復なさっていますか……?」

「ああ。君の治癒魔術があったお陰だ」

昨夜、気絶してしまった人たちを前にして、シャーロットは必死に治癒魔術を使った。

宿に戻っても不安だったのだが、朝一番にエミールがくれた連絡によって、全員が元気に目を覚ましたと教えられている。

ひとまずほっとしたものの、申し訳ない気持ちでいっぱいだった。

「憎むべきは犯罪者だよ? シャーロットちゃん」

「ですが……」

エミールは頬杖をつき、少し首をかたむける。

「それに言い方は悪いけれど、首尾としても上々だ。クライドという男の情報が掴めただけではなく、日記帳とやらに封じられていた過去の記憶の映像まで引っ張り出せるとはね」

エミールは手近にあったペンを持つと、その先についた羽根を、手遊びのように指でなぞる。

「そこに兄上が映っていたというのも、予期せぬ収穫だったね。今の話だと、かつてのシャーロットの記憶は、映像となって断片的に展開されているようだけれど……?」

探るようなエミールのまなざしに対し、オズヴァルトは素知らぬ顔で答えた。

「仔細については、当のシャーロットにも分かりかねるようです。今回も映像魔術の展開は唐突であり、我々も内容を閲覧するだけで精一杯でした」

(オズヴァルトさまは、エミール殿下にもすべての真相をお話しされるつもりはないようです! 実際はまったく開け方が分からないのではなく、これまではオズヴァルトさまへのどきどきで日記帳が開きましたし、今回は……)

シャーロットはクライドに囮として近付き、そこで危険な目に遭った。その結果オズヴァルトに心配を掛けてしまい、めいっぱい甘やかされてしまったのである。

(今回は、どきどきの性質が、今までとは変化したと言いますか……!! 元気になるようなどきどきというよりも、切なくてきゅうっと締め付けられるような……)

とはいえオズヴァルトの思惑として、そんな分析もエミールには伏せたいのだろう。恐らくはシャーロットのためであることを感じつつ、そっと挙手をする。

「あのう、エミール殿下……!」

「なんだい? シャーロットちゃん」

オズヴァルトとエミールの邪魔にならないよう、シャーロットは急いで言葉を続けた。

「オズヴァルトさまにもご確認いただいたのですが! 私が昨晩クライドさまのポッケに入れた追跡魔術用の石は、真夜中過ぎまで機能していたそうで……!」

「うん、お手柄だよ。君の活躍で、その男の行方がある程度は追えていた」

恐らく昨夜のクライドは、真夜中から結界魔法を使い始めたのだろう。

この聖都で、『シャーロットを誘い出す』ために魔力暴走の魔術を使用する、その直前に追跡魔術を遮断したのだ。

「途中で途絶えてしまったとはいえ、このクライドの行動記録は大いに役立つ。これで拠点にしていた場所が分かれば、通信魔術で連絡を取っていた相手なんかが分析できそうだ」

つまり、これによってクライドの雇い主が確定できるかもしれないのだ。まったく無為でなかったことに安堵するものの、不安は残る。

「ですが……クライドさまは恐らく、追跡魔術に気が付いていらっしゃいましたよね?」

そう確かめると、エミールは少し目を丸くした。