作品タイトル不明
99 旦那さまのことが大好きです!(第2部4章・完)
「シャーロット、残りの半数を任せられるか!?」
「もちろんです!! オズヴァルトさまは魔力量の少ないお方の、魔力相殺を!!」
そうしてシャーロットとオズヴァルトは、互いのやり方でひとりずつ、魔力暴走を鎮めてゆく。
(残る人数も、あと少しです……!)
シャーロットが一雫の汗を零した、そのときだった。
「俺が少し、目を離した隙に」
「!!」
「――あなたが手を貸すのはいけませんね。ロッティ」
瞬時に現れた何者かが、シャーロットの耳元で低く囁く。
「シャーロット!」
シャーロットよりも早く気が付いたオズヴァルトが、こちらに魔術を放とうとした。けれどもシャーロットとオズヴァルトの間は、分厚い結界に阻まれる。
「くそ……っ」
「駄目です、オズヴァルトさま!!」
背後の何者かに腕を掴まれながら、シャーロットは叫んだ。
「まずは、残る方々の魔力暴走を……!!」
「……っ」
オズヴァルトがぐっと踏み留まる。シャーロットは振り返り、そこに立っていた人物をきっと見据えた。
「クライドさま……!!」
「っ、ロッティ……」
怖い顔をして睨んだつもりが、クライドは何故か嬉しそうにする。その瞳に籠る熱が、これまでと明らかに違っていた。
「どうか俺のことを、そんなに怒らないで。あなたに会いに来てほしかった、それだけなのです」
「私をおびき寄せるために、巻き込んだのですか!? ここにいる方々を、あんなに苦しめて……!」
誰かにこんなに怒ることは、シャーロットにとって慣れない感情だ。掴まれた腕をぐいぐい引っ張って、彼の拘束から逃れようとする。
「こうしなければ、俺はあなたの声も聞けない。その顔を見ることも出来ないのです。憎きオズヴァルトが、あなたを無理やりに捕らえている所為で」
「……っ」
「きっと、望まぬ結婚だったのでしょう?」
吐息を交えたクライドの言葉に、以前の自分が泣いていたのを思い出す。
(……記憶を失う前だけでなく、いまの私も。オズヴァルトさまとの結婚が恐れ多い気持ちを、拭い去ることは出来ませんでした)
けれど、たったいまクライドに告げられた言葉によって、シャーロットは思い知った。
(望まぬ結婚だったはずだと仰られても、それに頷くことは出来ません。……だって、私は)
「あなたはただ、国王の命令で嫁がされている身の上のはず。愛しいロッティ、俺はあなたを……」
「んん……っ」
シャーロットは全力で抵抗しながら、目を瞑り力いっぱいに叫んだ。
「――私は、オズヴァルトさまが大好きです!!」
「!!」
その言葉に、クライドの言葉がぴたりと止まる。
「心の底から、誰よりも!! 小さな頃からずうっといままで、オズヴァルトさまのことが好きで仕方がありません!!」
「……ロッティ……?」
「元のおうちが何処であろうと、もはや関係ないのです! 迷子なんかになりません、私はいつだって絶対に、オズヴァルトさまのおうちに帰るのですから……!!」
大きな声で叫ぶ言葉は、結界の向こうのオズヴァルトにも聞こえているはずだ。恥ずかしさを感じる余裕もなく、シャーロットはクライドに告げる。
「愛する旦那さまのお役に立ちたいので、離してください……!!」
「――――……」
拒絶の言葉を告げた瞬間、クライドの手から力が抜ける。
それと同時に、背後で硝子の割れるような音がした。オズヴァルトの力強い手が、シャーロットを掴んで引き寄せる。
「待たせた、シャーロット」
「オズヴァルトさま……!!」
それはとても強い力だが、シャーロットは心から安堵した。クライドに掴まれたときとは真逆の、大きな喜びが胸に満ちる。
「君が何処に連れ去られても、俺が必ず迎えに行く」
「っ、はい……!!」
そのことを当たり前に信じながら、シャーロットはオズヴァルトにしがみついた。
魔力暴走を起こしかけた男性たちは、全員が鎮められて気絶している。
これほどの緻密な魔術を使い続け、その上で分厚い結界すら砕いたオズヴァルトの力に、シャーロットは感激で震える思いだった。
一方で目の前のクライドは、目元を押さえながら一歩後ずさる。
「……うそだ」
掠れ切ったその声は、恐らく独白だったのだろう。
「ロッティはまだ、思い出していないだけなんだ。……大丈夫、すぐにまた、俺を見てあんな風に笑ってくれる」
「……?」
「俺を癒し、案じてくれるはず。だが……そうですね」
クライドはゆっくりと自分の手のひらを見詰めた。
「あなたを迎えるのに、特別な身だしなみを整えないままなんて、有り得ませんでした」
その手が僅かに震えている。どうして彼がそれほどまでに落胆しているのか分からず、シャーロットは戸惑った。
「……また来ますね。ロッティ」
クライドは、耳慣れない愛称でシャーロットを呼び続ける。
「国も、依頼も、関係ありません。俺は今度こそ、あなたを……」
「待て!」
「オズヴァルトさま……!」
追おうとしたオズヴァルトの腕にしがみつき、それを止める。
「このまま戦闘が続くと、知らない方々を巻き込んでしまうかもしれません……!」
「……っ」
シャーロットにとっては最大の心配もある。オズヴァルトの身に危険が及ぶこと、それこそを何よりも避けたかった。
「くそ……」
転移によってクライドの消えた空間を、オズヴァルトが忌々しそうに睨む。
荒々しい夜は、こうして過ぎていったのだった。
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第2部最終章へ続く