軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

98 心の底から祈るのです!

***

「オズヴァルトさま!!」

現実世界で飛び起きたシャーロットは、真っ先に守護石の首飾りを身につけた。

オズヴァルトはもう部屋にいない。ナイトドレスの上にカーディガンを羽織り、ベッドサイドに置かれた大量の指輪と耳飾りをまずはポケットに入れて、靴を履き部屋の外に駆け出した。

(宿のお外から、大きな声! 数日前と同じです……!!)

シャーロットは階段を降りながら、ポケットの指輪をどんどん嵌めてゆく。オズヴァルトが誂えてくれたばかりの守護石をすべて身に付け、転がり出る勢いで通りに出た。

そして、目の前の光景に息を呑む。

「……っ!!」

石畳の街並みは、魔術の街灯で照らされていた。

「これは……」

そこには十数人の人々が、地面に蹲って苦しんでいる。こめかみには血管が浮き出し、呻きながら脂汗を流して、自らの体を抱え込んでいるのだ。

「皆さま、魔術暴走を起こしかけて……?」

その中央に立つオズヴァルトは、複数の魔術を同時に操りながら、眉根を寄せて彼らを睨んでいた。

ひとりの男性が、まるで狼のような咆哮を上げる。

「ううう、ぐあああ……っ!!」

「……っ」

男性の魔力が、大きく膨らんで爆ぜそうな気配を感じた。

シャーロットは反射的に叫びそうになるが、オズヴァルトが瞬時に対応する。男性に向けて放った魔法陣は、この場で組み上げた即興のもののようだ。

(封印の陣……ではなく、よく似た魔術です!! あの方たちの魔力暴走による魔術の作用を、そのまま反転させて、相殺するような……)

ここには多くの男性たちが倒れているが、魔力暴走の発動には時間の差があるらしい。

オズヴァルトはその間、冷静に彼らの魔力を分析し、ここで緻密な魔法陣を組んでいる。そして暴走が起きる前に、その暴れ狂う力を削いでいるのだろう。

(あまりにも凄まじい魔術です!! さすがはオズヴァルトさま、ですが……!!)

この方法は、暴走を鎮める相手の魔力量と同じだけ、オズヴァルトの魔力を消耗する。

シャーロットの神力を封印した際、オズヴァルトの魔力はほとんど尽きかけた。

神力封印が解除された際、少しはオズヴァルトの魔力として移せているものの、いまだ万全ではない状態だ。

(お相手の魔力量が大きいほど、オズヴァルトさまの負担に。それにこれだけの人数が相手で、スピードと集中力が求められる中、繊細な即席魔術を構築し続けることは……)

だがそのとき、シャーロットは気が付いた。それと同時にオズヴァルトが、シャーロットの存在を見付けて息を呑む。

「シャーロット……!? 目覚めたら、安全な場所に逃げろと……」

「オズヴァルトさま!! このお方たちの魔力暴走は、魔術によって強制的に引き起こされたものですか!?」

シャーロットの中に思い浮かぶのは、数日前にも宿の前で起きた魔力暴走だ。あのとき現れたクライドと、無関係であるとは思えない。

オズヴァルトも、恐らくは同じ考えだろう。

「……そうだ。魔力暴走は本来、高い魔力を持った人間が、精神や身体の不調を生じさせた際に起こる。だが、ここにいる彼らは……」

「人為的な魔術による、暴走なのですね?」

「ああ。これだけの人数が同時に暴走を起こすなど、死者の多い戦場でもない限り、有り得ない」

シャーロットの問い掛けに答えながらも、オズヴァルトは新たな魔術式の構築を止めない。

そのことに心強さを感じながら、シャーロットは頷いた。

「であれば、これは、『状態異常』です……!」

「……そうか!」

シャーロットの言わんとすることに、オズヴァルトもはっとしたらしい。

「オズヴァルトさま! これより治癒魔術を開始します、ごめんなさい!!」

現在シャーロットの身の上は、『神力を封印した状態でオズヴァルトが監督する』という国王命令になっている。封印後、少しずつ回復しつつある神力を使用するのは、その王の命令に背く行為だ。

少々の治癒魔法であれば、国王が目溢ししてくれる可能性もある。それでも何かあった際、叱責と処罰を受けるのは、シャーロットの神力を管理するオズヴァルトだった。

「国王さまに知られれば、オズヴァルトさまが叱られてしまうのですが……!!」

「そんなことは構わない、問題は別だ! 魔力暴走を起こす魔術ですら初耳なんだ、それを鎮める治癒魔術など……」

「治癒魔術は、他の魔術よりも柔軟です!」

シャーロットは地面に跪くと、祈るように両手を組む。

記憶を失い、そこから少しずつ神力を取り戻してゆく中で、シャーロットだって学んできたのだ。

「大切なのは、治癒対象を救いたいと祈る心……!」

数ヶ月前、雪の街中で出会ったフェンリルや、割れたカップで怪我をした友人を治癒したときのように。

それから、シャーロットのためにすべての魔力を使ってくれたオズヴァルトを癒し、神力を彼に移したときのことだ。

(オズヴァルトさまがあんなにも懸命に、救おうとなさっている方々)

石畳に蹲って苦しむ彼らを前に、シャーロットは祈る。

(それから。……ひょっとしたら、私という存在がこの街にいる所為で、巻き込んでしまったかもしれない方々……)

彼らはきっと被害者だ。シャーロットが聖都を訪れなければ、こうして苦しめることもなかった。

(ごめんなさい。……どうか、その苦しみから救われてください……!!)

この場で最も苦しんでいる男性のことを、シャーロットは心の中で念じる。

そうして放たれた神力の光が、男性の周囲に陣を描き、まるで開いた花のような紋様を描き出した。

「暴走が、鎮まった……」

(まずは、おひとり……!)

シャーロットは息を吐き出す。神力の消耗を感じるが、オズヴァルトと力を合わせれば、全員の対処が出来そうだ。