軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

184話 アンデッドの氾濫

街も開拓村も、冒険者もそうでない者も、動きは早かった。

ゴブリン氾濫の記憶が新しいところにアンデッドの氾濫がギルドから告知されたのだ。

「アンデッドはまだクワモ高原の向こう側だ。焦る必要はない。今回は国の西側から迫ってくる。広大な範囲だ。国のどこに逃げても変わらん。王都も街も村も篭って戦う事になる。俺たちもこの街を守るぞ」

「「「おおー!」」」

7割がたの冒険者達はダンジョンから戻ってきた。残りはまだダンジョンフロアを回っている最中だそうだ。

俺は冒険者の引き上げの運び屋をゴルダから頼まれていたが、夕方にダンジョンに飛ぶ予定なので、それまでに出来ることをしておく。

店の皆にアンデッド氾濫の話をした。

実はこの家には地下に部屋がある。大きめの倉庫が3つと小さな倉庫が8つだ。

普段からもしもの為の防災グッズをそのうちのひとつに運び込んであった。

アンデッドが街に近づいて来たとき篭れるように今から準備をする。必要な物をどんどんと運び込んでいった。

小さな倉庫のうちのひとつをトイレにした。中を仕切りでいくつかに分けてトイレの個室を4つ作った。

もちろんスライムは設置済みだ。スライムさんありがとう、お世話になります。

大きめの倉庫の壁の棚に布団を運び入れて3段ベッドのようにした。

棚ベッドは子供らに人気だ。大人には少し狭かったので、大人は床に板を置いてその上に布団を敷いた。

それからあっちゃんの寝床の近くの細かい棚にはスクロールを重ねて置いた。何かあった時のための『ヒール』のスクロールだ。

ユイちゃんにあっちゃんの事をお願いした。

教会のシスター曰く、出産まであとひと月くらいらしいが、人によって前後するので準備は怠らないようにと言われた。

あっちゃんはベビー用品の準備をしているようだった。

よりによってこんな時に魔物の氾濫とは!魔物ももう少し遠慮しろって感じだ。

弁当屋は休業にしたが、台所ではフル回転で皆が動いていた。

兎に角作れるだけ作ってあっちゃんや山さんのアイテムボックスに入れていく。

俺は女神像でブランクスクロールを作り続けた。

倉庫の女神像の方はいつも以上に混雑していた。街にアンデッドが攻め込んで来た事を考えた人々は大事な物を女神に預け始めたのだ。

行列も凄いが進みも速い、凄いなぁと横目で見ながらブランクスを作り続けた。

ある程度枚数が出来ると今度はリビングで魔法を詰めていく。MPが半分を切ると青ポとメディテでMP回復だ。

教会から来ているバイトの子らに聞くと、教会も例の地下室に篭る準備をしているらしい。

今回は街やスラムの幼い子供とお年寄りも一緒に篭るそうだ。

バイトを休みにしようかと聞いたら、ギリギリまで働けると言ってくれたので、いざとなったらうちの地下に一緒に隠れられるように手筈を整えておいた。

うちの地下室には開拓村の子供と老人も引き受けている。

小さい倉庫をふたつ開拓村用にした。(トイレは共同だ)

大人達はギリギリまで畑を守り、いざとなったら街へテレポートして神殿へ入れてもらう手筈になっているそうだ。

俺、山さん、キック、ナオリンは今回もゴルダ達と前線で戦う事になるそうだ。出来れば遠くから銀矢で射る、というのが理想だ。

キック達が子供と老人を連れて到着した。

カンカンカンカン、カンカンカンカン

地下まで鐘の音が聞こえた。

しかも、この音、ゴブリンの氾濫の時と似た音だ。

「カオさん、これっていよいよ始まる合図じゃないですか?」

近くにいたユースケが俺の腕を掴んだ。たぶん、そうだろう。

「あとは頼む、俺らは暫く戻ってこれないと思う」

「ええ、連絡は密にください」

「カオさん! 気をつけて! 山さんも!」

俺が地下から上がっていくと階段近くであっちゃんやヨッシーとすれ違った。

「カオるん、気をつけてな、こっちは任せろ」

「カオっち無茶しないでね! マルたんが泣くからね! 山さん、カオっちをお願いします」

「ああ、そっちも頼む」

「みんなー! 地下へ降りろー、あっちゃん先に子供らと行ってて、俺は火の始末と戸締り見てくる」

ヨッシーが走っていった。

「アリサ、行くよ! ほら、ロム達も早く早く!」

皆が地下へと降りて行く。

最後は家を見回ったヨッシーとバズッドさんだ。今回はバズッドさんの家族も地下倉庫のひとつに避難してもらっている。

バズッドさんも地下に降りてもらい、いざという時に先頭で戦ってもらう予定だ。

ペルペルは大部屋のマルクと一緒に待機だ。クラとエンカは交代で裏庭と地下の廊下で警備だ。

アンデッドが街に侵入した時点でクラとエンカも地下に入れて完全に扉を閉める予定だ。

ちなみにライト魔法を使える者が多いのでやまと屋の地下は昼間より明るい。

余談だが、事務室から持ってきた厚紙で作ったトランプ擬き(もどき)が地下で流行った。

ババ抜き、7並べ、大貧民など。開拓村やバズッドさんの家族も入れて皆で楽しんだそうだ。

俺、山さん、キック、ナオリンの4人でギルドに向かった。

「おう、来たか」

「あの鐘、アンデッドはどんな感じだ?」

「ああ、とうとう見えてきた。クワモ高原を越えたヤツが数匹」

クワモ高原はこの街から真西にある。結構広大な高原で、ここから南にある死霊の森の西側まで続いている。

冒険者はその死霊森の西側からこの街の西側までをいくつかに分けて配置しているそうだ。

「王都からも上級冒険者が来るそうだ。国の最北西は王都の騎士団や冒険者、稀人が抑えたそうだ」

「ん? じゃあ氾濫は治まりそうなのか?」

「いや、残念ながら抑えているだけだそうだ。だが一定数は減らせているので西側の他の街に冒険者を送り始めたそうだ。ここは一番遠いからな。到着まで俺らで抑えるぞ」

「お、おう」

ゴルダ達と馬車に乗りクワモ高原が見える場所へ到着した。

そこには弓を構えた冒険者達がいた。

なるほど、100メートルほど先の草むらから骨が出てくるのが見えた。

冒険者のひとりが弓で射る。当たった!骨が倒れた、と思った横からまた骨が現れた。

クワモ高原はここより低い地なので、登ってくるまで敵が見えづらい。

他の冒険者が骨を射るが、違う場所からもどんどんと上がってくる。

これ…矢が足りなくならないか?あそこまで拾いには行けない。

手持ちの銀矢は5万を切っている。アンデッドを普通の矢で倒すとなると時間がかかる。

とりあえず銀矢を1000本ずつ、それぞれのグループの後ろに置いて行く。

死霊の森側まで走っていくと時間がかかるので、ゴルダに馬を出して貰った。

俺は乗馬が得意では無いので山さんに矢を配りに行ってもらった。

アンデッド、今のところはスケルトンがあちら側の最前線か。

結構な数が出てくるようになった。スパルトイも混ざり始める。矢で倒すのが間に合わずこちらまで来たものは銀剣で倒している。

俺は SLS(シルバーロングソード) だ。確か9あたりまでOEしたはずなのでスケやスパはサクッと一撃だが、分かっていてもつい腰が退けてしまう。魔法で燃やすにはバラけすぎていて非効率だ。

「皆んな慣れてるなぁ」

俺がボソリと呟いたのをゴルダは聞き逃さなかったようだ。

「最近死霊の森のアンデッド退治をやっていたからな」

なるほど、偶然とは言えラッキーだったな。

スケ、スパにグールが混ざり始めたが、ここは何とか持ち堪えているようだ。

押されかけた時に王都から冒険者が到着した。

「遅くなった! ここを押さえればいいのか!」

「おう、すまんが頼む」

「まだまだ来るぞ! 俺たちが一番だ」

押されかけてた前線が少しずつ戻って行く。

「カオ、悪いが死霊の森の前線を見てきてくれ」

ここは大丈夫と判断したゴルダから指示が出た。

「わかった」

そう言って走り出した。

西を向いていたから、死霊の森の前線はこのまま左へ行けばいいのか?

まぁ、走ってたら前線に出ているどっかのグループに会うだろう。

走った。

…………。

あれ?ちょっと、みんなどこ。

右を見ても左を見ても、誰もいない。前見てもアンデッドもいない。

ちょっと待て、止まろうか。

ええと、西を向いてて左が南で、走り出したら南が前で、あ、スマホのコンパス。

あれ?俺東向いてる?いやいや兎に角、南?西に行くのか?

『やまさああああああん、助けて、迷子になった!』

『ちょっ、カオくん』

念話で助けを求めた。

『カオくん、今どこ?』

『山さん、迷子にその質問ダメ』

あっちゃんが突然念話に入ってきた。俺、慌ててグループ念話しちゃったのか。

『カオっち、近くに何が見える?』

『デコボコの草原、誰もいない』

『走り始めて何分?』

『……たぶん10分くらい?』

『10分程度なら戻った方が早い。カオっち最初の場所ブクマしてるでしょ?』

『してる、してます!』

『山さんはどこにいるの?』

『僕は死霊の森の最前線、カオくんは街から真西の最前線にいた』

『よし、死霊の森まで迎えに行ってもらうより戻らせた方が早いな。カオっちテレポートでさっきの場所に戻って』

『わかった! ありがとな』

いやぁ、何もない草原って迷子になりやすいな。(何かあっても迷子になる事は棚上げ)

-------時間はほんの少し遡る-------(ゴルダ視点)

クワモ高原から大量のアンデッドが上がってきた。

王都から数人の冒険者が来てくれたが間に合わないくらいの量が湧き出していた。

街の冒険者はA〜Cランクが20人、王都から来た冒険者は同じくAランクが5人。

草原から出て砂ぼこりを上げつつ迫り来るアンデッドは200〜300はいそうだ。

「遅くなった!」

「月サバ! 王都のSランクのパーティ、月の砂漠だ!」

王都の冒険者が叫んだ方を振り返るといかにもSランクという装備に身を包んだ冒険者が6人いた。

しかしSランクとは言え6人、目の前のアンデッドは数百だ、どう考えても無理だろう。

「行くよ! カンタ、アース頂戴! タウさん突っ込んでいい?」

「止めても行くでしょ、アネさんはw カンさん私にもアースください」

「俺もね」

「俺もー」

「僕も」

「エリアアースシールド!」

Sランク冒険者らの足元が光り全身を包んだ途端に、全員がアンデッドに向かって走り出した。

さすがはSランクと言うべきか。あのアンデッドの大群の中に入り、どんどんとアンデッドを倒している。

「俺たちも外れてきたヤツをやるぞ!」

「「「「おう!」」」」

しかしアンデッドはクワモ高原から(実際はその向こう側の山脈から)どんどんと湧いてくる。Sランク冒険者達の消耗も激しいようだ。

「ヤッバァい、そろそろポット切れるー。あっちで結構使ったから残り僅かだったぁ」

「あ、アネッサさん、これ使ってください」

「サンキューゆうごー」

「俺も最後の1本だ」

「パラとアネはナイトだからな、ポットガブ飲みだよな」

「俺あと3本ー」

「僕らもエルフとは言え前衛剣エルフですからねぇ、ポット必須職ですね」

「レモンちゃん連れてくればよかったー」

「いや、レモンちゃんにコレは可哀想でしょw彼女まだ45だっけ」

戦いながらのあの会話、ずいぶん余裕があるように見えるがポーションの減りも早いようだ。

彼らが減らしても減らしてもアンデッドは湧き出てくる。

どうする、前線を下げるべきか。下げても逃げ場はないぞ。あっという間に街へ到達、街が飲み込まれる。

進退極まったか、と思った時背後からカオの声が聞こえた。

「えええええ! 何これ、何でこんなにいるんだよ!」