軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

44. 真顔で『愛している』と百万回言ってくれそうな男

幸せそうな二人を目にし、後方に控えていた騎士の一人がふらりと一歩後ずさった。

剣を構えた王国騎士達は、魔獣が去ったことも忘れ、石のように固まっている。

《……おい》

このあとどうなるのかと前のめりになって見つめていたヴェリアルも、さすがにロイドへ声をかける。

推定年齢三歳、初対面の幼女に騎士の誓いをした男は今、よく分からないスイッチが入ってしまったらしい。

なんということ。衆人環視の中、ロイドのキスは終わらない。

「待ッ……ロイド、人が見て――!?」

はたと我に返ったレティシアが、目元を真っ赤に染めて身を引こうとした。

恥じらいながら涙を浮かべ、しっとりと濡れた瞳で見上げてしまったのが、――余計にまずかったらしい。

ロイドの目が一瞬だけ揺れ、捕食者のものに変わる。

「知るか」

「知るかじゃなく、――、んぅ」

大きな手で後頭部を固定され、有無を言わさず、再び唇が塞がれた。

「ん……、んぅ……ッ」

優しく触れるだけだったキスが、次第に深く、なまめかしくなっていく。

息継ぎのタイミングが分からなくなり、レティシアの指が、ロイドの外套をぎゅっと掴んだ。

なんかもう、四半刻以上も、こうしている気がする。

それくらい長く感じた。

「……は」

やっと唇が離れた。

息を切らし、はぁはぁと肩で息をするレティシアをロイドが見下ろしている。

その瞳が、いつの間にか薄暗い熱を帯びてくる。

さすがのヴェリアルも慌てて、二人の回りをクルクル飛び回った。……子猫姿で。

《おっ、おいお前等、いい加減にしろ。時と場所を考えろ》

「わ、私のせいじゃない……んんッ」

ヴェリアルが念話を飛ばす。

当然ながらロイドにも聞こえている。

聖獣様からの忠告はしっかり聞こえているはずなのに、ロイドは無視を決め込んでいる。

そしてまた、始まってしまった。

《……おい》

ロイドはもう一度、無視をした。

《ロイド》

三度目。今度もまた、無視をした。

ヴェリアルは盛大にため息をついて、それ以上何も言わなかった。

魔獣の血が飛び散った戦場のど真ん中。

誰もが恐れる冷血将軍が、人目も憚らず敵国の魔法帝に、終わらないキスをしている。

前代未聞の事態に、騎士達は剣を構えたまま、身動ぐことすらできないでいた。

見てはいけないと分かっている。

分かっているのに、――目が、離せない。

「あの冷血将軍が……これは現実か?」

「分からん」

誰も動かなかった。誰も止めなかった。

止められる雰囲気では、――なかった。

「レティシア様ァァァァ! この置き手紙はどういう――」

――ただ一人、この男を除いて。

魔法陣ではなく全速力で空を駆けてきた男の声が、ぴたりと止まった。

青空の下。レティシアが、敵国の将軍に抱きしめられている。

そしてあろうことかその男は、レティシアに愛を誓い、耳元で睦言をささやき、繰り返し、繰り返し、まるで愛を誓い合った恋人のように、図々しくもキスを――。

「……は?」

ディーンが、宙で固まった。

「はあああああああ!?」

矢に射られた野生の鳥のように、ぼとりと地に落ちていく。

「師団長――ッ!」

後ろから追いかけてきたクロニクルが、降下しながら後を追う。

勿論二人の姿はクロニクルからもバッチリ見えている。

戦ったら厄介そうな冷血将軍は、こちらを意にも介さず、全力でレティシアを口説き続けている。

その姿も、勿論、――ばっちり見えている。

「うわ」

降下しながら、クロニクルはロイドとぱちんと目が合った。

これ、もしレティシア様が拒否していたら、どうなってたんですかね……?

挑発するように向けられる視線が、レティシアが自分のものだと主張する。

これはさすがに……。

血涙を流しながら砂を握りしめるディーンの隣に、クロニクルはふわりと降り立った。

「……ご愁傷様です」

この状況でこれほど適した言葉は、他にない。

小さく抵抗しつつも結局は受け入れるレティシアを、ロイドはまだまだ離さない。

キスは終わらず、そして愛の言葉も終わらない。

タガが外れると、全力愛が駄々洩れになるらしい、恋に不慣れな『冷血将軍』。

人生初、溺愛の止め方が分からず、火力強めで攻めてくる。

そして昼夜問わず、真顔で『愛している』と百万回言ってくれそうな男――。

《頼むから終わらせてくれ》とヴェリアルが念話で訴えたが、レティシアは抵抗できる状態ではなく、最早まったく意味がない。

ディーンはついに白目を剥き……そのままはたりと、気を失った。

「…………ご愁傷様です」

クロニクルは、もう一度だけそう言った。