軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

34. どういうつもりだ自重しろ

「レティシア様、結婚が無効なのは当たり前ですが、あのまま殺っちゃえばよかったのでは?」

「何を言ってるんだお前は、戦争でもする気か?」

「ふっ、それもやぶさかではありません。よくもレティシア様をあんな天使のように可愛い幼女に……ッ!? あの変態男に、泣きながら土下座をさせてやるつもりだったのに……」

《お前達、声が大きい。見つかったらどうするつもりだ?》

「あれだけ派手に吹き飛ばしたんだ。皆あちらに掛かりきりで、地下室にまで手がまわらない」

レティシアの答えに、それはそうだが、とヴェリアルがぶつくさ文句を言っている。

魔力が枯渇し、身動ぐことすらできなくなったディーンを魔法で浮かせ、ふわふわと運んできたレティシア。

かっこよく退場したまでは良かったが、外にいる王宮兵士に見つからないよう魔法国に帰るのは、如何なレティシアでも高難易度のミッションである。

ちょっとした距離なら転移も出来るが、おつかい程度。

であればやることは一つ……召喚の魔法陣をお借りすればいいのだ。

石造りの廊下。冷たい空気。揺れる燭台。

位置は記憶しているため、レティシアの転移魔法で地下にひとっ飛び。

その前に忘れ物をしたため、軽く寝室に寄って回収をして、――そして今。

トルティア王国、王宮の地下室に楽々到着した次第である。

「よしよし、魔法陣があるな。安心しろ、これで帰れる」

《待てレティシア。魔力を奪われてしまうぞ?》

「……そのままなら、な。回復まで、何でこんなに時間がかかったと思う?」

先ほど取りに戻った袋を得意げに見せる。

防護布で作られた拳ほどの袋の中で、じゃらりと何かが触れ合った。

《……魔石か》

「上質なものを、十個ほど。これを魔法陣に組み込んで魔力の代替にする。以前ここを通過した時に魔力を根こそぎ持っていかれたが、これですべて解決だ!」

《なるほど。でかしたレティシア!!》

「そうだろう? これで幼女にならずに済む」

言いながら、レティシアは魔法陣の向かってしゃがみ込んだ。

床に刻まれた紋様を指でなぞり、魔法式の構造を確かめる。

来た時とは逆向きの経路で、魔法国の座標を終着点に設定する。

「前回使った時のまま残っている。……改めて見ても、よく出来た魔法陣だ」

《確かにな。かなり古いもののようだ。誰が作ったんだ?》

「さぁな、相当な腕の持ち主だが、生きてはいないだろう」

感心しながら布袋の口を開き、取り出した魔石を、魔法式の要所にひとつずつ丁寧に嵌め込んでいく。

大きい物から小さい物まで、適した場所に合計七つ。

それぞれが鈍く輝き、魔法陣がじわりと光を帯び始めた。

「よし。余った分は念のため、ディーンが持っておけ」

ほら、さっき魔力奪っちゃったから。

もし失敗したら、幼児どころか消えちゃうかもしれないし。

目を剥いて暴れるディーンの口を魔法で塞ぎ、魔法陣の真ん中に突っ込んだ。

《気付かれないよう、結界を張っておくぞ?》

「お? ヴェリアル、先ほどの服といい、今回といい、随分と気が利くじゃないか」

芋虫のように丸くなっているディーンの上にヴェリアルを乗せ、さらにレティシアがそれを跨ぐようにして魔法陣に収まった。

だ、大丈夫なんでしょうね!?

レティシアを見上げながら、ディーンが涙目で訴えている。

「安心しろ。私が設計したわけではない、ゆえに失敗しても私の責任ではない」

《お、お前なんて無責任な……ッ!? しかも、せ、狭い》

動揺しきりのヴェリアルとディーンを押さえつけ、レティシアは足元の光を見下ろした。

……ちょっと自信ないけど、たぶん、大丈夫。

「うまくいけばそのまま魔法国へ。失敗すれば……まあ、その時はその時だ」

《もうお前、嫌だ》

「そうか? 私は頼りにしているが」

零れる笑みは自信に満ち、聖獣ヴェリアルを従える姿は、レティシアが間違いなく魔法帝なのだと教えてくれる。

言い争っている間に、魔法陣の光が一段と強くなった。

足元が風で巻き上がり、金の髪がふわりと揺れる。

次の瞬間、足が床を離れた。

「……行くぞ」

そういえば、クマのぬいぐるみを忘れてきてしまった。

ぬあああああ、と声に出す余裕があれば出したかった。

気付けば三人は、魔力渦巻く濁流の中にいる。

「ええと……?」

転移魔法の奔流に押し流されるのは、これで二回目。

レティシア達の全身を叩きつけるように襲うその衝撃は、対象が三倍になったからだろうか、前回の比ではない。

「魔力、足りなかった……?」

体の内側から魔力が引き剥がされ、抜けていく感覚。

これも二回目だ。

「ディーン、仮にも嫁入り前の……ん、前でいいのか? まあ無効になったから嫁入り前で大丈夫か。その私の前で、どういうつもりだ。少しは自重しろ」

「な、何を言ってるんですか! そんな余裕……ちょ、ええッ!? レティシア様だって、布が千切れて、その、えええええ!?」

《不便な人間どもめ。吾輩ほどになれば常に全裸。いついかなる時も有事に備えているから、何も問題はない》

ふと見ればディーンのローブが千切れてボロボロになっており、あらぬ場所がはみ出てしまいそうになっている。

レティシアもまた一部布が破けているが、魔力を身にまとっているため、一回目に召喚された時ほどの衝撃はなかった。

「れ、レティシア様、つかぬことを窺いますが……なんか袋、光ってないですかね……?」

「そうか? 気のせいじゃないか?」

視界の端で、先ほどティーンに預けた布袋がさらさらと砂のように崩れ、光の中に溶けていく。

なんたることだろう。気のせいじゃなかった。

預けた布袋は、魔石ごと消えた。

「ぎょえええ! レティシア様、き、消えちゃう! ボク消えちゃうじゃないですかァァァッ!」

「相変わらずうるさいなお前は」

《だまれ、愚か者めが!》

バチン、とヴェリアルにビンタされ、「ごへっ」という情けない声とともに、ディーンの首がもげそうなほど横むいた。

「安心しろ、お前の骨は拾ってやる」

「ちがっ、そうじゃなくて……ッ」

《………》

――光が、弾けた。