作品タイトル不明
第63話:装甲パーツの再利用と、一生分のスーパーチャット
「親方ァァッ!! どうか! 俺たちもこの現場で働かせてくださいッ!!」
美しい土下座を決めたパワードスーツ部隊の隊長に、ケントはフルーツ牛乳を飲みながら、ふにゃりと笑顔を向けた。
「ああ、歓迎するよ。……ちょうど、遊園地の資材運びに『重機』が欲しかったところだからな」
ケントの視線は、ミキサーの分別(洗濯)によって吐き出された、パワードスーツの部品の山に向けられていた。
彼の視界には、チートスキルによって装甲パーツのジョイント部分がパズルのように完璧な立体図として見えている。
「いいか筋肉たち。このパワードスーツの部品、そのまま『高機動フォークリフト』に使えるぞ」
ケントは愛用の『魔導インパクトレンチ』を取り出し、呑気に口笛を吹きながら超速でパーツを組み上げていく。
ギュイィィィンッ! ガガガガッ!!
強烈な回転音が響き、機体の太いボルトが次々と限界まで締め付けられていく。
「こいつの手足のパーツをパズルみたいに『車の形』に組み替えるだけだ。あとは魔石(電池)を繋げば、フロントに取り付けた巨大なツメで数十トンの石材でも軽々と持ち上げられる。前が重くてひっくり返らないように、余った分厚い装甲を『後ろの重り』としてカチッとハメ込めば、絶対に転ばないフォークリフトの完成だ。現場の知恵ってやつさ」
「数千億円の軍事機密兵器を、ただのパズル感覚でフォークリフトに改造しちゃったわよッ!? しかも後ろに重りを乗せるだけで転倒防止(安全第一)まで完璧って、どんだけホワイトな現場なの!」
頭に手ぬぐいを乗せた 東雲(しののめ) 霞(かすみ) が、腰に手を当てて呆れ果てたツッコミを入れる。
「おおお! 流石は親方ッス! 俺たち、もう人殺しの道具には乗りたくありません! 平和な資材運搬、最高ッス!」
「安全帯よし! 積載量よし! ご安全に!」
元・国家最強部隊のエリート兵士たちは、満面の笑みと歓喜の涙を流しながらDIYフォークリフトの運転席に乗り込み、遊園地の基礎工事現場へと意気揚々とすっ飛んでいった。
『国家の最終兵器(フォークリフト仕様)』
『最強部隊が完全に土木作業員になってて草』
『親方、軍事技術の平和利用がすぎるwww』
『SDGs(サバイバル・ダンジョン・現場・スローライフ)』
特等席のクッションでピザを頬張るコア公や、ルミナのドローンが、そのあまりにも平和な現場風景を世界中へ配信し続けている。
その凄まじい熱狂の裏で――。
「……え? は?」
サバイバル系不憫配信者『 泥水(どろみず) ススル』は、自分のアクションカメラと連動している配信用の端末画面を見て、完全にフリーズしていた。
泥水ばかりすすっていた彼の普段の同接はせいぜい数千人。しかし今は、ルミナの配信との相乗効果、そして「国家の最終兵器の敗北と転職」という歴史的瞬間の独占中継により、同接が300万人を突破していたのだ。
さらに彼の目に飛び込んできたのは、滝のように流れる『スーパーチャット(投げ銭)』の嵐だった。
『泥水くん生きててよかった! 1万円!』
『最高の飯テロと究極のホワイト企業を見せてくれてありがとう! 5万円!』
『アラブの石油王から1万ドル! 親方によろしく!』
「な、なんだこれ……スパチャの総額が、数億……いや、数十億円!? 俺の、一生分の収入……!!」
ススルはガクガクと震え、端末を取り落としそうになった。
サバイバルという名の過酷な泥水生活から一転、彼はたった1日で「上がり(大成功)」を迎えてしまったのだ。
「お、親方ァァァ!!」
ススルは、マイルドな笑顔でお茶を飲んでいるケントにすがりついた。
「俺、もう泥水すすらなくていいんスね! これから先、もう働かなくても港区のタワマンで生きていけます! 俺、地上に帰りますぅぅ!」
大号泣しながら帰還を宣言するススル。その目には、明るい未来への希望の涙が溢れていた。
「ん? おう。よかったな。気をつけて帰れよ」
ケントは湯呑みをコトリと置き、極上のマイルドな笑顔で、背後に完成していた『巨大な透明のチューブ』を指差した。
「ちょうどいいところに、以前、俺が地上までぶち抜いた『空調の排気ダクト(先遣隊を凍らせた冷風の抜け穴)』に相乗りさせる形で、新しい『地上への帰り道』を作ったところだ」
「……え? 帰り、道? っていうか親方、いつの間にアビス最下層から地殻を貫通する穴なんて開けたんスか……!?」
「ん? ああ、サウナを作った時、熱気がこもると息苦しいからな。愛用のドリルに『特Sランクの延長ビット(魔獣の骨)』を繋いで、天井に向かって数秒ほどガガガッ! とやっただけだ。風呂場に換気扇の穴を開けるようなもんだろ」
「換気扇のノリで大陸の地殻を貫通させるなァァァッ!!」
「チューブの底に『風の魔石』を仕込んで、下からものすごい勢いで空気を吹き上げるんだ。そこにカプセルをスポンッと入れれば、注射器のピストンみたいに、一切の労力を使わずに地上まで『ポンッ』と押し出してくれる。……安心しろ、カプセルの外側には『特Sランク・スライムの肉厚クッション』をグルグル巻きにしてある。地上に落ちてもスーパーボールみたいにビターン!と跳ね回るだけで、絶対にペチャンコにはならない」
ケントが呑気に解説する中、ススルが呆然と見上げた先には、どう見ても「人間をそのまま大砲のように空気圧で地上へぶっ放す」ようにしか見えない、恐ろしく長大な透明チューブの入り口がパカリと口を開けていた。
「いや待って親方!? それどう見ても人間大砲じゃねえかァァァッ! スライム巻いてあっても、地上でスーパーボールみたいにバウンドしたら絶対全身打撲でゲロ吐くやつゥゥゥッ!!」
「ご安全にな!」
「ぎゃあああああああああっ!!」
ケントがぽちっとスイッチを押した瞬間。
ススルの悲鳴と共に、彼を乗せたカプセルは凄まじい風圧によって、アビス最下層から地上へ向けて超音速でポンッと「射出」されていった。
平和で暴力的な超高速帰還。
一生分のスパチャを手に入れた不憫な配信者の明日は、果たしてどっちだ――!