作品タイトル不明
第64話:超高速・気送管(エアシューター)とゲストの退場
「ぎゃあああああああああっ!! 死ぬぅぅぅ! 完全に音速超えてるぅぅぅッ!!」
ケントの容赦ないスイッチオンにより、アビス最下層から透明なチューブを通って「射出」されたサバイバル配信者・ 泥水(どろみず) ススルは、特製カプセルの中で顔の肉を風圧でブルブルと震わせながら絶叫していた。
ケントが作った「巨大な風の魔石で下から空気を吹き上げる」という極めて理不尽で暴力的な『全自動・人間大砲』。
しかし、一級建築士の頭脳がパズル感覚で導き出した風の通り道は完璧で、カプセルは一切ブレることなく、滑るように排気ダクトを駆け上がっていく。
そして数分後。
ズボオォォォォォォォッ!!!
なんとも間抜けで暴力的な空気の炸裂音と共に、ススルを乗せたカプセルが、ついにアビスの入り口(地上)へとポンッと勢いよく吐き出された。
「ひぃぃぃっ! じ、地面が迫ってくるぅぅッ!!」
ドバアァァァンッ!!
カプセルは地上の岩肌に激突した。
その瞬間、ケントがカプセルの外側にグルグル巻きにした『特Sランク・スライムの肉厚クッション』が完璧に衝撃を吸収した。
――だが、吸収しすぎた凄まじい反発力によって、カプセルは巨大なスーパーボールのように「ビターン! ボヨォォォン!」と狂ったように跳ね回り始めたのだ。
「ぐえええええッ!? い、痛くはないけどぉ! 酔う! 三半規管がぶっ壊れるぅぅ! 吐くゥゥゥッ!!」
ビターン! ボヨォン! ボヨォン……コロコロ……。
あちこちの岩や木にバウンドしまくったカプセルは、数分間のピンボール状態を経て、ようやく安全地帯の中継基地のど真ん中でピタリと停止した。
プシュウゥゥ……。
ハッチが開き、ススルが生まれたての小鹿のようにプルプルと震えながら這い出してくる。
「……おえぇぇ……っ。い、生きてる……? 本当にカスリ傷一つない……っ!」
ススルは自分の手足がちゃんとついていることを確認し、涙と鼻水まみれの手で端末を見た。
画面には、一生遊んで暮らせる額のスーパーチャットと、同接300万人の熱狂が残されている。彼は地上の安全な空気を胸いっぱいに吸い込み、大地に突っ伏して大号泣した。
「親方ァァッ! ありがとうございますぅぅ! 俺、これからは地上の安全な超高級タワマンから、毎日ルミナちゃんの配信にツッコミを入れる『実況勢』として生きていきますぅぅ!」
『泥水くん、星から無事に帰還ww』
『親方の人間大砲、ネット通販のお急ぎ便より早い』
『スーパーボール着地でゲロ吐きそうになってて草』
『さようならススル、君のスパチャ(数十億円)は忘れない』
こうして、たった1日で上がり(大成功)を迎えた不憫なサバイバル配信者は、今後のキャラ渋滞を完璧に回避する形で、最高に幸せな退場(レギュラー落ち)を果たしたのである。
***
一方、その頃。アビス最下層。
はるか上空のチューブを見上げながら、ケントはいつものふにゃりとしたマイルドな笑顔でフルーツ牛乳を飲んでいた。
「ふむ……。空気圧の抜け方も 着地(バウンド) の音も完璧だったな。無事に家に着いたようだ」
ケントは心地よい温泉の湯気と静寂に包まれた現場を見渡す。
真新しいDIYフォークリフト(元・数千億円のパワードスーツ)に乗って遊園地の基礎工事を始めた元・エリート兵士たちは、満面の笑顔で泥だらけになって汗を流していた。
「親方ァ! ここにコンクリ流し込みますね!」
「おおーい! そっちの木材運んでくれ! 今日もご安全に!」
国家の誇る最高戦力たちが、すっかり『気のいい土木作業員』へと 洗脳(ジョブチェンジ) されている。
しかし、連日の過酷な軍事訓練から急に平和な土木作業へと切り替わったためか、男たちは少し肩や腰が張っているようにも見えた。
「夜勤明けの温泉で癒やされたとはいえ、慣れない現場作業じゃ体にガタがくるな」
ケントはおもむろに愛用の工具箱を開き、再び『魔導インパクトレンチ』と木材、そして余っているSランク魔獣の魔石を引っ張り出した。
「さて、うるさい客も安全に帰ったし……次は現場の福利厚生として、労働者(筋肉)たちのために『究極の 疲労回復設備(マッサージチェア) 』でも作るか」
「「「親方ァァッ!! 一生ついていきますゥゥゥッ!!」」」
新たな福利厚生の気配を察知した筋肉たちが、フォークリフトの上から歓喜の雄叫びを上げる。
ただの巨大なマッサージチェアで済むはずがない。一級建築士の狂気とチート素材が組み合わさった次なるDIYが、どんな理不尽な快楽を生み出すのか。
ケントの常識外れなスローライフは、国家の軍隊をも完全に飲み込み、次なる極楽フェーズへと進んでいくのだった。