作品タイトル不明
第62話:フィンランド式サウナの洗礼と完全降伏
極上のAランク牛丼で胃袋を完全に掌握されたエリート兵士たちと、サバイバル配信者『泥水ススル』。
彼らが次に案内されたのは、ケントが特Sランク魔獣の骨と上質な木材でパズルのように組み上げた、フィンランド式ログハウスサウナであった。
「さあ、入れ。過酷な 労働(サバイバル) で強張った筋肉をほぐすには、温冷交代浴が一番だ」
ふにゃりとマイルドに笑うケントに促され、おずおずとサウナ室へ足を踏み入れた男たちは、思わず目を見開いた。
「な、なんだこの空間は……! 息苦しさが全くないぞ!」
「普通、サウナといえば肌を刺すような熱気と、息を吸うのも辛いほどの息苦しさがあるはずなのに……むしろ、森の奥深くで深呼吸しているみたいッス!」
驚愕する兵士たちを前に、ケントは腰に手を当て、フルーツ牛乳を飲みながら呑気に種明かしを始めた。彼の視界には、チートスキルによってサウナ室内の空気の流れが完璧な立体図として見えている。
「いいか筋肉たち。ただの安いサウナは空気が詰まって息苦しくて、肌がピリピリ痛むだろ? だから俺は、木が自然に呼吸できるようにパズルみたいに『絶妙な隙間』を空けて組んだんだ。一級建築士の頭の中には、空気の流れがミリ単位で計算されてるからな。あとは風の通り道を整えてやれば、嫌な息苦しさが消えて最高の熱波だけが室内をぐるぐる回る。現場の知恵ってやつさ」
「木材の隙間と風の通り道だけで、究極のサウナを作ったの!? ただの木組みに見えて、部屋全体が精密な換気システムになってるって言うのッ!?」
すっかり手ぬぐいを頭に乗せてくつろいでいる 東雲(しののめ) 霞(かすみ) が、またしても常識外れのDIYにツッコミを入れる。
「御託はいい。……極上の 熱波(ロウリュ) 、いくぞ」
ジュワァァァァァッ!!
ケントが熱された魔石にアロマ水をかけると、心地よい熱波が室内を包み込む。
「「「うおおおおッ!!」」」
男たちの体から、軍隊での過酷なストレスや泥水生活の疲労が、玉のような汗となって滝のように流れ落ちていった。
「おう新入りども! 親方のロウリュは最高だろうが! しっかり汗かいて現場の疲れを抜けよ!」
すでに何百億円ものボーナスで完全に買収され、すっかり「現場の先輩」風を吹かせている特務部隊の筋肉たちが、新入りのパワードスーツ部隊に嬉しそうにマウントを取っている。もはや国家の軍隊としての威厳など微塵もない。
***
「限界まで温まったな。次はあっちの水風呂だ」
サウナから出た男たちが案内されたのは、キンキンに冷やした、水温9度の『水風呂』。
「冷たッ!? 死ぬゥ!?」
「だが……なんだか膜に包まれたように、冷たさが気持ちよさに変わっていく……ッ! 悪魔的だ……っ!」
そして彼らが水風呂から上がり、露天風呂の脇に並べられた外気浴用のインフィニティチェアに身を沈めた、その時だった。
「……あ、あひぃぃ……」
「とろける……俺の、国家への忠誠心が……極上の快楽に溶けていくゥゥ……っ」
エリート兵士たちが次々と、だらしなく口を開けた『アヘ顔』になり、完全に昇天(トランス状態)し始めたのだ。
ケントがマイルドな笑顔で頷く。
「これがサウナの真髄『ととのい』だ。アツアツに茹で上がった後にキンキンに冷やすと、頭がバカになって最高にフワフワするだろ? 過酷な現場仕事やドロドロのサバイバルで張り詰めた体を、一気にふにゃふにゃの空っぽにリセットする『魔法の儀式』さ」
『うおおおお! 国家の最終兵器がアヘ顔で昇天してるwww』
『もう軍隊に戻れない体になっちゃったね……』
『親方の自律神経ハッキング恐るべし』
『これが平和(物理)か』
『隊長さん、口から魂抜けてるぞww』
特等席のビーズクッションから、ルミナのドローンが完全に腑抜けとなった最強部隊の情けない姿を世界中に配信し、同接300万人のリスナーに極上のカタルシスと大爆笑を届けていた。
そんな中、インフィニティチェアに深く腰掛け、完全に「ととのい」の境地に達したサバイバル配信者の泥水ススルも、回らないろれつでアクションカメラに向かって熱狂的に実況を続けていた。
「み、みんぐぁ……ここば、天国でぶ……! 俺、さっきまでアビスの上層で死にかけながら泥水すすってたのに、最下層に落っこちたら、港区の高級スパより最高なサウナに入ってます……っ! いがぐつい軍人の人たちも、みんな腑抜けになってアヘ顔晒してまぶ……!」
ススルの涙目での実況に、コメント欄には『ススルくん、完全に脳を破壊されてて草』『もう地上に帰りたくないだろこれww』と、さらなる爆笑の弾幕が流れる。
***
「ふぅ……いい汗かいたな」
ケントは、完全に牙を抜かれてぐったりしている男たちを見て、満足げにタオルで顔を拭った。
その直後だった。
サウナと水風呂の洗礼を終え、真新しい湯浴み着に着替えたパワードスーツ部隊の『隊長』が、フラフラと立ち上がり……ケントの目の前で、一切の迷いなく美しい土下座を決めたのだ。
「隊長ッ!? 何をしてるんスか!」
慌てる部下たちをよそに、隊長は額を地面に擦り付け、涙ながらに絶叫した。
「親方ァァッ!! 基地に帰っても、俺たちには味のしないメシと上官のパワハラしか待っていません! どうか! 俺たちもこの極楽の現場で働かせてくださいッ!!」
「た、隊長……! じゃあ俺たちも!」
「親方ァ! 俺たちを今日から日雇い労働者にしてくださいッ!!」
部下たちも次々とインフィニティチェアから転げ落ち、ケントの前に美しい土下座の列を作り上げる。
国家の誇り高き最強の男たちが、圧倒的な福利厚生(ホワイト待遇)の前に完全降伏し、喜んでブラックな軍隊から「優秀な現場作業員」へとジョブチェンジした瞬間であった。