軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第54話:絶対零度の空調設備と降下部隊の悲劇

「早く! 吾輩、もう限界じゃぁぁっ!」

「ケントさん……っ、私も、もう干からびちゃいますぅ……っ」

アビス最下層。本格フィンランド式サウナの熱波ですっかり茹でダコ状態になったコア公とルミナが、ケントのズボンの裾を涙目で引っ張っていた。

「はっはっは! よしよし、ルミナちゃんもコア公も少し待ってろ。今から極上の水風呂を作るからな!」

ケントは黄色いヘルメットを被り直し、巨大な『氷属性の魔石』と、先ほど取り出した凶悪な造形の『魔導コンプレッサー(圧縮機)』を広げた。

「いいか筋肉たち! サウナの後の水風呂は、ただ冷たいだけじゃダメだ。脳髄までシャキッとする『シングル(一桁温度)』を常にキープする必要がある。そのために、このクーリングタワー(冷却塔)を組み上げるぞ!」

ケントはタブレットに、エアコンの室外機のような簡単な図を描いた。

「仕組みは簡単だ。この『氷の魔石』をデカい鉄の筒に入れて、上からギューッと力ずくで押しつぶす! 狭い所に閉じ込められた冷たい空気を、一気に水風呂の底から『プハァッ!』と解放してやれば、魔法みたいに一瞬で水がキンキンに冷たくなるんだよ!」

「なによその子供の泥遊びみたいな理屈は!」

ヘルメット姿の 東雲霞(しののめかすみ) が、スパナを握りしめたままワナワナと震える。

「神話級の氷の魔石を、ただの『保冷剤』みたいに筒に詰めて押し潰すだけ!? なんでそんな乱暴なパズル遊びで、魔法使いでも作れない『絶対零度の冷却装置』ができあがってるのよッ!」

「その通り! さあ、文句言ってないで手を動かすぞ!」

ガァァァァンッ!!

ケントが魔導インパクトハンマーを振るう。【超速クラフト】の恩恵を受けたその一撃は、光の粒子を舞い散らせ、大浴場の脇に『巨大な 冷却塔(クーリングタワー) 』を一瞬にして組み上げた。

「よし、稼働!」

ゴォォォォォォォッ!!

機械が起動した瞬間、水風呂の温度がみるみるうちに下がり、一瞬にしてキンキンに冷えた『9度』の極上水風呂が完成した。

「うおおおおッ! 水風呂! 水風呂ォォォッ!!」

特務部隊の筋肉たちが、歓喜の雄叫びを上げながら次々と水風呂へダイブしていく。

『うおおおお! ガチで一桁の水風呂できたww』

『サウナー歓喜の極上設備』

『神話の魔石をただの保冷剤扱いする男』

『コア公ちゃん、そのまま飛び込んだら心臓止まるぞww』

ルミナのドローンが、歓喜の声を上げて水風呂に足を浸すコア公と、気持ちよさそうに息を吐くルミナの姿を映し出し、コメント欄は今日も大盛況だ。

***

だが、地下が極上の「ととのい」空間に包まれていたその頃。

アビスの中層を、日本の最新鋭『奪還部隊・先遣隊』が慎重に降下していた。彼らは一着100億円を下らない最新の軍事用パワードスーツに身を包み、テロリスト(ケント)の潜む最下層へ向けて警戒を強めている。

「よし、中層を突破する。各機、魔法防壁を最大出力に! 相手は未知のテロリストだ、どんな兵器が飛んでくるか分からんぞ!」

隊長が通信を入れた、まさにその時だった。

ゴォォォォォォォォォォォォォッ!!!

突如として、はるか下方の最下層から、凄まじい勢いの『絶対零度の猛吹雪』が吹き荒れてきたのだ。

それはケントが作った冷却塔から上空に向けて排出された、ただの「冷風の排気」であった。しかし、氷の魔石を強引に圧縮・解放したその排気は、もはや戦略級の氷雪魔法に匹敵する威力を誇っていた。

「な、なんだこの異常な冷気はァァッ!?」

「た、隊長! パワードスーツの関節駆動部が……完全に凍結、しまし、た……ッ!」

「バカな!? 一着100億円の最新防壁が、一瞬で紙くずみたいに機能停止だと!? 奴ら、どれほど強大な氷結兵器を……ッ!」

先遣隊のエリートたちは、見えない敵の超兵器(※ただの室外機)の前に、なす術もなくパニックに陥った。

『ヒィィッ! 計器類がすべてダウン! 完全に凍りついてます!』

『くそっ、テロリストめ! 我々が降下してくるルートを完璧に先読みして、こんな絶対零度のトラップを仕掛けていたというのか!』

『隊長……俺、まだ実家のローンが残ってるのに……っ!』

『ただのクーリングタワーの排気』を、最悪の迎撃兵器だと勘違いした先遣隊。彼らは一撃も交えることなく、空中で次々とスーツを安いアイスクリームのように凍らせ、機能停止に陥っていく。

国家の最新鋭部隊は、あえなく『空調設備の室外機』によって全滅させられてしまったのだ。

***

「うむ、水風呂の温度は完璧じゃ! 人間、でかしたぞ!」

「す、涼しいですぅ……生き返りましたぁ……」

最下層では、コア公とルミナちゃんがキンキンに冷えた水風呂で極上の表情を浮かべていた。霞と特務部隊の筋肉たちも「親方、最高ッス!」と親指を立てている。

「よしよし。排気用のダクトも、真上の誰もいない空間に向けて設置したから、冷風の通りも完璧だな。現場の環境よし!」

ケントは巨大な冷却塔から上空へ向けて勢いよく吹き出す猛吹雪を見上げ、現場監督として満足げに頷いた。

その足元に。

スコォォォォンッ! カランカランッ……。

完全にカッチカチに凍りついた、見慣れぬ最新鋭の『軍事用偵察ドローン(先遣隊の持ち物)』が、間抜けな音を立てて落下してきた。

「……ん? なんだこの凍った機械は。まったく、最近は上層からの不法投棄が酷すぎるぞ。人の現場にゴミを捨てるような奴は、絶対に許さんからな」

ケントが怪訝な顔で首を傾げ、見当違いの怒りを燃やす中。今日もアビス最下層の極楽インフラは、外の脅威など一切気にすることなく、絶好調で稼働し続けているのだった。