軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第53話 最強の防衛線(フィンランド式サウナ)

ドッゴォォォォォォンッ!!!

温泉予定地のすぐ脇に張られた『第一防衛ライン(ケントにとってはただの虫よけ・風よけの養生ネット)』に、凄まじい衝撃と共に巨大な鉄の塊の群れが突き刺さった。

もうもうと土煙が舞い上がる中、地上の日本政府が放った『奪還部隊の降下ポッド』は、特Sランク魔獣の糸で編まれたネットの異常な弾力に完全に絡め取られ、空中で無惨に宙吊りになっていた。

人類の未来を背負い、決死の覚悟で降下してきたエリート部隊の精鋭たちは、ポッドの中で逆さまになりながら、あまりの理不尽なトラップに完全にパニックに陥っていた。

『隊長! 脱出ハッチが開きません! 外のネットが強靭すぎて、高周波ブレードでも傷一つ付きませんッ!』

『馬鹿な! 最新鋭の装甲ポッドが、まるでクモの巣に掛かった虫ケラのように……ッ! これがテロリストの張った防衛結界だというのか!』

だが、アビス最下層の現場監督は、ヘルメットを押し上げながらルミナのドローン(カメラ)に向けて呑気に空を指差した。

「……見ろよあれ。どこの業者が落としたんだ? まったく、最近は上層からの隙間風が強くてかなわん。あんなデカい鉄屑が風で飛んでくるなんて、ダンジョンの安全管理はどうなってんだ」

『おっさん、あれどう見ても軍事用の降下ポッドだぞww』

『国家の最高機密が「風で飛んできた粗大ゴミ」扱いで草』

「いや親方! どう見ても風で飛んできたゴミじゃないですって! 完全に軍事用の降下ポッド……」

ツッコミを入れる東雲霞を、ケントは「細かいことは気にするな」とばかりに手で制した。

「エリート君、飛来した粗大ゴミの処理は後回しだ! それより、これだけ隙間風が強いと、せっかくの露天風呂で湯冷めしちまう。体の芯からガッツリ温まる『最強の防衛線』……本格的なフィンランド式サウナの建造を急ぐぞ!」

「サウナ!? この空から謎の部隊が降ってきている緊急事態に、サウナですかッ!?」

パニックになる霞をよそに、ケントの目はすでに『職人』のそれへと切り替わっていた。

彼はアイテムボックスから、Aランク魔獣『火山ガメ』の耐熱甲殻と、リラックス効果抜群の芳香を放つ『香炉樹』の木材を大量に取り出した。

「よく聞くんだ。三流のサウナはただ部屋を熱くするだけで、息苦しくて入ってられない。熱い空気は勝手に上に行く。だから『火山ガメの甲羅』で熱を逃がさない木箱を作って、下に穴を開けるだけだ!」

ケントはカメラに向かってドヤ顔で語りかける。

「下から入った冷たい空気が熱されて、勝手に極上の熱風になって部屋を回るんだよ。これが現場の知恵だ!」

『ただの木箱に穴開けただけで空気の循環完璧にしてて草』

『魔法使いでも作れない極上サウナを物理で錬成する男』

そのシンプルすぎる工作の発想に、霞はハッと息を呑んだ。

「ただの木箱に穴を開けただけなのに、信じられないほど完璧に熱気が巡ってる!? なんでそんな子供の工作みたいな発想で、魔法使いでも作れない極上のサウナができあがってるのよッ!」

「現場の知恵とチート素材の勝利だな!」

カァァァァンッ!!

ケントが金槌を振るうと、光の粒子と共に、美しい木目を持つ『極上のログハウス風サウナ』が一瞬にして組み上がった。

内部には火山ガメの甲殻が断熱材として敷き詰められ、中央には熱を蓄えるサウナストーンが山積みにされている。

「よし、テスト稼働だ! ストーンに水をかけてロウリュしてみろ!」

「オゥッ! 親方、いきやす!」

ケントの合図で、特務部隊の筋肉の一人がサウナストーンに柄杓でドバッと水をかける。

ジュワァァァァァッ!!

凄まじい水蒸気が発生し、香炉杉のいい匂いを伴った心地よい熱波がサウナ室から溢れ出した。

その熱波は、計算された排気口から猛烈な勢いで屋外へと吹き出し――あろうことか、上空のネットで宙吊りになっている奪還部隊のポッドを直撃した。

『な、なんだこの猛烈な熱気は!? 外部温度が急上昇しています!』

『ぐあぁぁっ! ポッドの装甲越しでも焼けるように熱い! 奴ら、捕らえた我々をポッドごと熱兵器で焼き殺す気か!』

『た、隊長……! しかもこの熱波、なぜかものすごく「いい匂い」がします……ッ! 森林浴みたいな……』

『新手の毒ガス兵器だ! 息をするな! ぐっ……でも、なんだか体がポカポカして、リラックスしてきやがった……ッ! 意識が……とぶ……』

極上のロウリュによるサウナ効果で、決死の奪還部隊の精鋭たちは、ポッドの中で次々と至福の表情を浮かべながら 気絶(ととのう) していった。

『ポッドごと燻製にされてて草』

『国を背負ったエリート兵士が、上空で強制的に「ととのい」をキメらされてるww』

『おっさんの放つ熱波ロウリュ、完全に兵器扱いじゃん』

『空の上の地獄(極楽)』

配信のコメント欄が、あまりの理被害な蹂躙劇に爆笑の渦に包まれる中。

地上(現場)では、熱波を全身に浴びたルミナが情けない声を漏らしていた。

「……ふにゃぁぁっ!?」

「な、なんですかこのいい匂い……っ。それにこの熱風、全然息苦しくないのに、一瞬で体がポカポカしてきて……ああっ、ダメです、体が溶けちゃいそう……っ」

銀色の髪をわずかに汗で濡らし、とろけたような顔でへたり込むルミナ。いつもは常識人の彼女だが、ケントの生み出す極上のリラックス空間には全く抗えない。

その横では、コア公もビクンッと体を震わせていた。

「……あ、あつっ!? なんじゃこの凄まじい熱気は! 息は苦しくないのに、吾輩の体から汗が止まらんぞ……っ!」

ぽーっと頬を赤くしたコア公は、涙目でケントのズボンの裾をギュッと引っ張った。

「人間! 吾輩が溶けてしまう! 早く、早く冷たい水風呂を用意するのじゃぁぁっ! じゃないと暴れてやるぞ!」

「わ、私も賛成ですケントさん……っ! このままじゃ干からびちゃいますぅ……っ!」

『美少女とマスコットがサウナで駄々こねてて草』

『おっさんのリラックス空間、破壊力高すぎだろww』

ジタバタと駄々をこねるポンコツマスコットと、すっかりサウナの熱気にあてられて涙目になる銀髪美少女。

「はっはっは! 慌てるなコア公、それにルミナちゃん。画面の前のサウナーの皆も分かってるよな? サウナにとって、水風呂こそが真のメインイベントだ」

ケントはカメラに向かって邪悪な――しかし一級建築士としての喜びに満ちた笑みを浮かべると、背中の工具箱から、見たこともないほど巨大で凶悪な『魔導コンプレッサー(圧縮機)』を取り出した。

「よし筋肉ども! 次の工程は、火照った体を一瞬でキンキンに冷やす最高の冷却施設の建造だ! 脳髄まで凍りつくような、極上の水風呂を作ってやるぞ!!」

「「「うおおおおッ! 水風呂! 水風呂ォォォッ!!」」」

上空のネットで日本の精鋭部隊が「ととのって」全滅していることなど完全に忘れ去り、狂気の現場監督と筋肉たちは、次なるインフラ整備へと邁進していくのだった――。