軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第51話:特Sランク素材のプラント化と無自覚な威嚇

「うおおおおッ! 防衛省式・超高速塹壕掘りィィッ!」

「姿勢を低く保て! 配管の勾配(水勾配)をミリ単位で維持するんだ!」

アビス最下層に、かつて国家の最高戦力と呼ばれた男たちの野太い声が響き渡る。彼らは今、全身に限界まで魔力オーラを纏う『身体強化』の奥義を惜しげもなく発動し――ただひたすらに、温泉用の配管を通すための溝トレンチを掘っていた。

『国家の最高戦力が泥だらけで草』

『税金の正しい使い道(物理)』

ルミナのドローンカメラがその異様な光景を映し出す中、首にタオルを巻いたケントは画面に向かってマイルドな営業スマイルを向けた。

「こいつらは今、最前線で立派にインフラを背負っているんだ。素晴らしいぞ筋肉たち! 水は高いところから低いところへ流れる。この基本の1/100勾配が、美しい配管インフラの命だからな!」

「「「オゥッ! 親方の期待に応えろぉぉッ!!」」」

『おっさんに洗脳されすぎだろwww』

『もうこいつら一生地上に帰らない気がする』

国家を守るための戦闘技術が、完璧な土木作業へと昇華されていく。

その横で、ヘルメット姿の東雲霞が、光波測距儀レーザーレベルを覗き込みながら図面にチェックを入れていた。

「配管ルートの掘削、全行程完了! 勾配の誤差はプラスマイナス0.5ミリ以内……完璧ね」

霞の報告を受け、ケントは満足げに頷くと、再びドローンのカメラ目線になって巨大な爆炎竜の心臓を指差した。

「よし、これより本命の『無限ボイラー式・全自動温泉システム』の組み上げに入る! 要するに、特Sランクの爆炎竜の心臓に雷の魔石(電池)を繋いで、永遠に火を噴く『超巨大なヤカン』にするんだ」

ケントは夜勤明けの四十肩を軽く回し、愛用の金槌を振りかぶりながらドヤ顔でニヤリと笑う。

「そこからプシューッ!と勢いよく吹き出した蒸気で風車タービンを回して『電気』を作り、ヤカンの中に残ったお湯をそのまま大浴場に注ぎ込んで『温泉』にする。一つのバケモノのパーツで、電気と風呂の二度美味しい思いをする現場の知恵ってやつさ。これで施主からクレームが来ることもねぇだろ!」

『アビス最下層でヤバすぎるDIY教室が始まった件』

『特Sランク素材=ただのボイラー。ドラゴンの尊厳破壊ww』

『D.I.Yのスケールが国家のインフラ事業なんよ』

「特Sランクの心臓でプラントを作る!? ……っていうか、古代竜の心臓をただのヤカン(ボイラー)扱いしてるの!?」

そのあまりにも理不尽で直感的な設計ロジックに、霞はワナワナと震えながら叫んだ。

「狂ってる……っ、魔導工学の常識じゃ考えられないのに! ドラゴンの心臓をヤカンにして、雷の魔石を電池代わりにして永遠にお湯を沸かし続けるなんて……! パーツをパズルのように組み合わせただけで、電気とお風呂が無限に湧き続ける『永久機関』が成立してるじゃないッ!!」

『エリート研究員、また脳を破壊されてる』

『魔導工学ファンタジーvs プラント工学ガチファイッ!』

『でもしっかり手にはスパナ握ってて草。すっかり現場の女じゃん』

霞は「信じられない」と口では否定しながらも、その手は歓喜に震え、愛用のスパナをガッチリと握りしめていた。技術者として、この完璧なシステムが稼働する瞬間を見たくてたまらないのだ。

「エリート君、現場じゃ納期と安全が全てだ。よーし、部品は揃ったな!」

ケントはドローンに向かってウィンクを飛ばし、必要な部材が揃った事を確認すると、同時にチートスキル【超速クラフト】を発動させた。

ケントが魔導インパクトハンマーを振るう。

ガァァァァンッ!!

圧倒的な衝撃波と共に、ミスリルやアダマンタイトの素材群が一瞬にして概念的に組み上がり、巨大で美しいコージェネ・プラントが完成した。

「メインバルブ、開けェ!」

特務部隊の男たちが、巨大なバルブを一斉に回す。

ゴオォォォォォッ!!

地下水脈から引き上げられた水が爆炎竜の心臓に触れ、莫大なエネルギーを持った蒸気へと変換される。気水分離器を経由した高圧蒸気が、古代竜の骨を削り出した巨大タービンを猛烈な勢いで回転させた。

キュィィィィィン……バチバチバチッ!!

その瞬間、暗く澱んでいたアビス最下層に、煌びやかな光が灯った。

ログハウス、巨大な大浴場棟、そして遊園地の建設予定地。ケントが敷設したケーブルを通じて、施設全体に圧倒的で安定した電力が供給されたのだ。温泉の湯口からは、ドバドバと42度の完璧なお湯が溢れ出している。

『うおおおおお! 最下層がラスベガスみたいに光ったww』

『すげえええ! 電気と温泉が同時に湧き出たぞ!』

『D.I.YのDは、大電力のD』

『一級建築士、ついに電力インフラまで掌握』

『もうここが日本の首都でいいよ』

特等席の極上ビーズクッションに埋もれながら、ルミナの配信ドローンは光り輝くリゾートの光景を映し出し、同接100万人の視聴者を熱狂させていた。

「よし、大成功だな! これで夜間の作業も捗るし、暗闇での労災リスクも減るってもんだ」

ケントはドローンのレンズに向けて、現場監督として完璧なインフラの完成に満足げな笑みを浮かべた。

――しかし。

彼らは知る由もなかった。

「た、大変です!!」

地上、日本ダンジョン管理庁・特別対策室。

オペレーターの悲鳴のような声が、重苦しい会議室に響き渡る。

「最下層にて、異常な魔力エネルギーの波形を観測!! 以前のスタンピードを遥かに凌ぐ、規格外の出力です!!」

「なんだと!? 奴め……我々の動きを察知したか!」

防衛省トップは顔面を蒼白にし、血の滲むような声で叫んだ。

「これは大量破壊兵器のチャージ音だ! 奴は日本を、いや世界を消し飛ばす気だぞ! 奪還部隊よ、急げ! 一秒でも早くテロリスト(ケント)の凶行を食い止めるのだぁぁぁッ!!」

地下で完璧な温泉プラントが産声を上げたそのエネルギー波形は、地上では「世界を滅ぼす兵器の起動」として、最悪の形で誤認されていた。

極限のすれ違いは、いよいよ引き返せない領域へと突入していく――。