軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第50話:国家の決断と、現場監督の熱源確保

「――以上が、アビス最下層における未曾有の事態の全容である」

霞が関。日本ダンジョン管理庁の地下深くに位置する特別対策室は、重苦しい静寂に包まれていた。

巨大なモニターに映し出されているのは、特Sランクの魔獣を素手で解体し、国家の最高戦力である特務監査部隊を「穴掘り職人」へと洗脳(※誤解)した謎の男の姿。

「国家の威信を揺るがす、前代未聞のテロリストだ。もはや一刻の猶予もない」

防衛省トップの悲痛な声に、居並ぶ幕僚たちが重々しく頷く。

「数千億円の国家予算を完全投入し、『超大規模・地上奪還部隊』を直ちに出撃させる。目標は最下層の制圧、およびテロリストの排除! 諸君、これは人類の存亡を賭けた決死の降下作戦である!」

悲壮な覚悟が渦巻く会議室。彼らは愛する国を守るため、決して生きて帰れる保証のない死地へと赴こうとしていた。

***

一方その頃。人類の存亡を揺るがす「最恐の死地」ことダンジョン 最下層(アビス) では――。

「よし、今日もご安全に! これからスーパー銭湯と遊園地の複合施設、その中核となる『巨大給湯器』の設営に入る!」

黄色いヘルメットを被ったケントの呑気な号令が、澄み切った地下空間に響き渡っていた。

「「「オゥッ!! 親方、一生ついていきやす!!」」」

「週休二日! 残業代全額支給! 防衛省より絶対にホワイトだぜぇぇっ!!」

かつて国家の最高戦力と呼ばれた特務部隊の屈強な男たちが、歓喜の涙をボロボロと流しながらドカタタオルを首に巻き、満面の笑みでスコップを天に突き上げる。完全なる優良現場の虜となった彼らに、もはや国家への忠誠など1ミリも残っていなかった。

彼らの中心に鎮座しているのは、先日のスタンピードで討伐された特Sランク魔獣『爆炎竜』の巨大な心臓だ。未だにドクドクと脈打ち、近づくだけで肺が焼けるような凶悪な熱量を放っている。

常人なら灰になるであろう神話級の熱源を前に、ケントは首から下げたタオルで汗を拭いながらタブレットの設計図を広げた。

「いいか、相手は常に火を噴く生きたボイラーだ。そのまま地面に置いたら、熱で現場の床がドロドロに溶けちまう」

ケントはアイテムボックスから、Aランク魔獣『玄武岩ガメ』の甲羅と、大量の『ハイスライムの粘液』を無造作に取り出した。

「だから、絶対に熱を通さない『カメの甲羅』で作った箱にぶち込んで、隙間に『スライムのゼリー』を流し込む! これでバケモノの熱を完璧に閉じ込めるんだ。エリート君! 隙間を埋めるスライムの準備はいいか!?」

「で、できてます! 心臓の熱でスライムがちょうどいいクッションになって、バケモノのパワーを完全に抑え込めます!」

「よし! さすがはエリート君、手際がいいな!」

ケントに褒められ、ヘルメット姿の 東雲霞(しののめかすみ) は「ふふん、私にかかればこの程度……」とドヤ顔を浮かべた直後、ハッと我に返って持っていたスパナを床に叩きつけた。

「って、なんで私が現場監督補佐みたいになってるのよぉっ! だいたい、特Sランクの心臓なんて、国を滅ぼすレベルの超特大爆弾なのよ!? なんでただの『カメの甲羅とスライム』でパズルみたいに包んだだけで、絶対に壊れない『安全な給湯器』ができあがってるのよぉぉっ!!」

「文句を言ってないで手を動かせ。いくぞ! 【超速クラフト】、起動ッ!!」

ガキィィィンッ!!

ケントが愛用の金槌を振り下ろした瞬間、凄まじい光と共に素材が宙を舞い、凶悪な爆炎竜の心臓は、たった数秒で『ピカピカの巨大ボイラー設備』へと変貌を遂げてしまった。

ゴポポポポッ……!

配管に水が通ると、神話の熱源によって一瞬にして極上の「お湯」へと変換され、併設された足湯コーナーへとこんこんと注がれていく。

「ふぅ〜っ、極楽じゃのう! ケントの作る風呂は最高じゃ!」

「親方ー! お湯加減バッチリです! 仕事終わりのフルーツ牛乳の準備もできてますよー!」

特等席の足湯に浸かりながら、コア公が幸せそうに溶け、ルミナが呑気に配信ドローンを飛ばす。

『特Sランクの心臓=ただの湯沸かし器ww』

『国を滅ぼす爆弾を風呂の熱源にする男』

『特務部隊の筋肉たちも足湯に入ってて草。もう帰る気ゼロじゃん』

『おっさんの前では、神話もただの「便利な日用品」にすぎない』

***

「――全機、降下準備ッ!」

そんな地上の真実を知る由もない、重武装に身を包んだ奪還部隊の精鋭たちは、悲壮な面持ちで超大型の地下降下エレベーターへと乗り込んでいた。彼らの目には、人類の未来を背負い、生還を諦めた戦士の光が宿っている。

『我々が全滅しようとも、必ずあのテロリストの計画を阻止する……! 突撃ィィッ!!』

しかし、その決死の雄叫びが届くはずもない、地下の最下層。

ケントは凶悪な熱を放つ爆炎竜のボイラーに向かって、ニカッと爽やかな笑みを浮かべた。

「よし、お湯のテストは完璧だ! みんな、今日も定時退社目指して、安全第一でいくぞ!」

決して交わることのない、決死の特攻部隊と、呑気な現場監督のDIYの宴。

前代未聞のすれ違い(アンジャッシュ)が、今まさに幕を開けようとしていた――。