軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第49話 極楽リゾートの基礎工事と、新たなる青写真

「そーれ! エンヤコラ!」

「親方ァ! 第3区画の掘削、終わりやした!」

「よし、そこの土台はしっかり固めとけよ! 基礎が歪むとパイプラインに負荷がかかるからな!」

アビスの最下層。澄み切った朝の空気の中、信じられない光景が広がっていた。

つい数時間前まで、国の威信を背負って死地に赴いたはずの『防衛省・特務監査部隊』の屈強なエリートたちが、頭にタオルを巻き、泥だらけになって満面の笑みでスコップを振るっているのだ。

「いい汗かいた後の、ケント親方のまかない飯は最高だぜ!」

「防衛省の辞令なんて破り捨てて正解だったな! 俺たちは一生この現場についていくぞ!」

完全に『優秀な土木作業員』へとジョブチェンジを果たした国家最高戦力たち。

彼らがせっせと掘り進めているのは、ケントが提示した次なる狂気の青写真――『無限ボイラー式・全自動温泉システム』の基礎となる広大な溝であった。

『防衛省の特務部隊が、ただの穴掘り職人になっとるww』

『国が数十億かけて育成したエリートを、ピザ一枚で買収する男』

『でもみんないい笑顔で草。完全にブラック職場からホワイト現場への転職じゃん』

ルミナの配信ドローンがその平和すぎる土木作業風景を映し出す中、日本ダンジョン管理庁の主任研究員である 東雲霞(しののめかすみ) は、ケントの広げた設計図タブレットを食い入るように見つめ、ブツブツと何やら呟いていた。

「……ありえない。特Sランクの巨竜の心臓を『巨大なポンプ』にして、地下水脈からお湯を吸い上げる……!? アダマンタイトの血管を絶対に壊れないパイプにして……しかも、雷の魔石でビリビリ電気ショックを与えて、心臓を永遠に動かし続ける気なの……っ!?」

霞の瞳に、エリート研究員としてのプライドと、技術オタクとしての知的好奇心が入り混じった狂気が宿る。

「魔導工学の常識じゃ考えられないのに、パーツをパズルのように組み合わせただけで、お湯が無限に湧き続ける『永久機関』が成立してる……! なんで!? なんでこんな神話級のオーバーテクノロジーが、ただの『風呂沸かし』のためだけに作られてるのよぉぉっ!?」

最後にはたまらずタメ口になって叫んでしまった霞に、ケントは呆れたように肩をすくめた。

「エリート君、技術者ならわかるだろ。風呂ってのはな、配管工事とお湯の巡りを極める『現場の集大成』なんだよ。特Sランクの最強ボイラー(心臓)が手に入ったんだ、最高の露天風呂を作るのは、一級建築士として当然の義務だ」

「だから! その常識が狂ってるって言ってるんです……ッ!」

涙目で抗議する霞だったが、その手にはしっかりとケントから渡された『配管用のスパナ』が握りしめられていた。

技術者として、この常識外れの完璧なシステムが実際に稼働する瞬間を、どうしても見てみたい。エリートとしての矜持は、未知のDIY技術ロマンの前に完全に屈服していたのである。

「ケントさーん! 温泉できたら、私とコア公ちゃんで一番風呂に入ってもいいですかー?」

「吾輩、広い風呂で泳ぐことを所望するぞ!」

ログハウスのテラスから、ルミナとコア公が無邪気に手を振る。

彼女たちの背後には、ケントがすでに【超速クラフト】で一瞬にして組み上げた、Sランク魔獣の骨格を柱とした巨大で美しい木造の『大浴場棟』がそびえ立っていた。

「ああ、任せとけ。サウナと水風呂も完璧な温度設定にしてやる」

ケントは笑って手を振り返すと、被っていた黄色いヘルメットの顎紐をキュッと締め直した。

そして、スコップを構える特務部隊と、スパナを握りしめる霞に向かって、パンッ!と大きく柏手を打つ。

「よし! アビス最下層・極楽リゾート化計画、基礎工事を本格的にスタートする! 筋肉ども、エリート君! ケガのないよう、周囲の安全確認を徹底しろよ!」

「「「オゥッ!! 親方、今日もご安全に!!」」」

「は、はいっ! ご安全に……って、なんで私もすっかり作業員扱いなのよぉっ!」

霞の涙目のツッコミと、屈強な男たちの野太い掛け声が、澄み切ったアビスの空に響き渡る。

人類を滅ぼすはずだった 大氾濫(スタンピード) は、一人の狂った現場監督によって『最高の建材の仕入れ』へと書き換えられた。

だが、彼らはまだ知らない。

――この配信を見て完全にパニックに陥った日本政府とダンジョン管理庁が、「謎のテロリスト(ケント)」を討伐すべく、前代未聞の『超大規模・地上奪還部隊』の編成を今まさに決定したということを。

「まずは露天風呂とサウナ! その次は……あの巨大な空き地に、全自動の 遊園地(テーマパーク) でも建てるか!」

新たな図面を片手に不敵に笑う一級建築士。

彼の次なる「狂気のDIY」が、討伐部隊の常識をさらに粉砕するのは、もう少しだけ先のお話である。