軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第48話 ダンジョン管理庁のパニックと、エリート研究員の完全降伏

その頃、地上にある東京・霞ヶ関。

日本ダンジョン管理庁の本庁舎は、かつてない 大混乱(パニック) の渦中にあった。

長官や各局のトップが集う巨大なオペレーションルームは、水を打ったように静まり返っている。

正面のメインスクリーンには、ルミナの配信映像――特Sランク『エンシェント・アダマンタイト・ドラゴン』が、巨大な鉄杭(ただの重機)によって脳天を貫かれ、一撃で絶命する瞬間がリプレイで流されていた。

「……嘘だろ。管理庁の精鋭部隊が最新鋭の重火器と最上位の攻撃魔法を全弾撃ち込んでも、傷一つつけられない天災が……ただの『工事用の杭』で……」

「しかもあの超要塞、最後はパタパタと折り畳まれて、ただの木造ログハウスに戻ったぞ!? どこのゼネコンだ、あんな魔導工学を無視したオーバーテクノロジーの軍事施設を作ったのは!」

「魔導技術開発局の 東雲(しののめ) 主任研究員と、護衛の特務監査部隊はどうなった!? もしやあの黄色いヘルメットの男に洗脳され、あの超巨大な重機で東京(地上)に攻め込んでくる気ではないのか!?」

国家のダンジョン運営を担うトップたちは完全にパニックに陥っていた。

人類を滅ぼす魔獣を、ただの土木工事で更地にする男。彼らにとって、ケントはもはや「その気になれば一日で国家を転覆できる規格外のテロリスト」にしか見えていなかった。

「至急、自衛隊への防衛出動要請の準備を! あの男と交渉……いや、場合によっては東京防衛戦になるぞ!!」

霞ヶ関が阿鼻叫喚に包まれる中。

当の『テロリスト』は今、のどかなアビスの最下層でエプロン姿になり、鼻歌交じりにピザを焼いていた。

***

「よし、いい焼け具合だ。Sランク魔獣の魔力排熱と、俺の作ったDIYピザ窯の相性は抜群だな」

ログハウスのテラス。

香ばしい小麦の匂いと、とろけるチーズの暴力的な香りが、アビスの最下層に満ちていた。

「わぁーい! ケントさんのピザだー!」

「吾輩、肉マシマシを所望するぞ! ダンジョン・コアの権限において!」

ルミナとコア公が、尻尾を振る犬のようにテーブルで待機している。

そこへ、ケントが熱々のピザと、よく冷えた手作りジンジャーエールを運んできた。

「エリート君たちも、突っ立ってないで座れ。夜勤お疲れさん」

「あ、ありがとうございます……」

東雲霞と、特務監査部隊の屈強な男たちは、完全に毒気を抜かれた顔でテラスの椅子に腰掛けた。

すでに何十億円もの『日払いボーナス(現物支給)』を受け取り、心身ともに立派な『現場の作業員』へとジョブチェンジした彼らの前に、湯気を立てる極上のピザが置かれる。

恐る恐る、特務部隊の隊長がピザを手に取り、一口かじった。

「――――ッ!?」

隊長の瞳孔がカッと見開かれた。

サクッとした生地の食感。濃厚なチーズと、自家製ベーコンの強烈な旨味が、疲労困憊の体に雷のように突き抜ける。

要塞の排熱システムを完璧に流用した均一な温度管理は、都内の三ツ星イタリアンすらあっさりと凌駕する焼き上がりを実現していた。

「う、う、うおおおおおおっ!?」

屈強な筋肉だるまが、突如として大粒の涙をポロポロとこぼし始めた。

「隊長!?」

「う、美味すぎる……! 管理庁の不味い地下食堂のメシなんて、もう食えねえ……! ズルい! 俺は……俺は今まで、何のために厳しい訓練をしてきたんだ……! 支給品のレーション(戦闘糧食)なんて犬に食わせろ!」

「おい筋肉、泣きながら食うと咽せるぞ。おかわりはいくらでもある」

ケントがジンジャーエールを注ぐと、他の隊員たちも次々とピザに食らいつき、赤ん坊のように泣き咽び始めた。

「「「親方ァ! あんたについてきて本当に良かったッ!!(号泣)」」」

「霞ヶ関の辞令なんか昨日破り捨てました! これからは金払いも飯も最高の、この現場に骨を埋めます!!」

何十億円ものボーナスに続き、最強の『まかない』でトドメを刺された国家最高戦力たちが、完全に人としての尊厳を捨てた瞬間だった。

霞もまた、チーズの伸びるピザを口に運び、あまりの美味しさにへにゃりと頬を緩ませていた。

(ああ……もうダメ。主任研究員としてのプライドとか、国家の危機とか……どうでもよくなってきたわ……。ずっとここにいたい……。それに、この人のデタラメな技術……ムカつくけど、研究者としてめちゃくちゃ惹かれる……っ)

圧倒的な『衣食住』の力と、常識外れのDIY技術。理論とデータを重んじる技術オタクとしての彼女のプライドは、跡形もなくへし折られ、同時に強烈に魅了されていた。完全なる白旗である。

『国家最高戦力、ピザ一枚で完全陥落www』

『チョロすぎるだろこいつらww』

『そりゃ何百億のボーナスと三ツ星の飯が出たら国裏切るわな』

『管理庁涙目ww』

そんな和やかな朝食の中、ケントはコーヒーを啜りながら、傍らに置かれたタブレットを起動した。

「さて。腹も膨れたことだし、明日の『現場の準備』について説明しておくか」

「へ? 明日の準備、ですか?」

霞が間の抜けた声を出すと、ケントは庭の向こう――綺麗に規格化された『特Sランク・ドラゴンの死骸(建材)』の山を指差した。

「ああ。まずは基礎工事だ。あのドラゴンの『心臓』は、とんでもないバカヂカラでお湯を押し出す『超巨大なヤカン(ポンプ)』として使える。そして最高硬度のアダマンタイトの血管は、絶対に水漏れしない『熱循環用のパイプ』だ」

ケントの目が、狂気的な一級建築士の光を帯びてギラリと光る。

「これらを組み合わせて、マグマ層の地熱と魔力を半永久的に循環させる『無限ボイラー式・全自動温泉システム』を組み上げる。筋肉ども、明日は穴掘りからだ。 割増賃金(ボーナス) のために気合入れろよ!」

魔法の神秘を全否定し、特Sランクの心臓を「ただの風呂沸かしのヤカン」として再利用する狂気のメカニカル・リサイクル計画。

「なっ……ドラゴンの心臓をヤカンに!? アダマンタイトの血管を配管パイプにするですって!? そ、そんな無茶苦茶な理論……でも、物理のパズルとしては……いける……!?」

霞はピザを咥えたまま、技術者としての知的好奇心と常識の狭間でバグを起こし、再び白目を剥いて天を仰いだ。

「もう……好きにしてください……」

――特Sランクの素材を用いた常識崩壊の極楽リゾート建設が、今、始まろうとしていた。