軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第47話 本日の業務、終了! と逆トランスフォーム

「ちょっと待って! アビスの最下層で、なんてモノを建てる気よぉぉぉぉっ!?」

特Sランクの天災・エンシェント・アダマンタイト・ドラゴンを、ただの『杭打ち機』で一撃のもとに解体した直後。

コントロールルーム内に、 東雲(しののめ) 霞(かすみ) の悲鳴が響き渡った。

彼女の目の前にある木製タブレット端末には、巨大なパイプ群、広大な露天風呂、さらには遊園地のアトラクションのような施設までが一体となった、常軌を逸した『複合娯楽施設』の青写真(図面)が映し出されている。

「お前なぁ、エリートのくせに想像力がないな。特Sランクの絶対に溶けない魔法の素材が手に入ったんだぞ? こいつをパイプにして地面の底からマグマの熱を引っ張ってくれば、タダで一生お湯が沸く最高の温泉リゾートが作れる。完璧な現場の知恵だろうが」

「理屈はおかしくないけど、場所と常識が完全におかしいのよ!! ここは人類最悪の魔境よ!?」

ゼェゼェと肩で息をする霞。

だが、ケントは全く意に介さず、ふとコントロールルームの 窓(モニター) から外を見上げた。

分厚い瘴気の雲が晴れ、アビスの天井の亀裂から、一筋の美しい朝陽が差し込んできている。数万規模の魔獣が押し寄せた絶望の夜が、終わりを告げようとしていた。

「……ふむ。ちょうどいい時間だな」

ケントは被っていた黄色いヘルメットを脱ぎ、腕時計をポンポンと叩いた。

「よし、朝の8時だ。これにて本日の夜勤(スタンピード鎮圧)、終了とする! お疲れ様でした!」

ケントが高らかに定時退社を宣言し、コンソールの『メイン電源オフ』の大きなボタンを力強く押し込んだ。

――プシュゥゥゥゥ……。

要塞全体から、空気が抜けるような重低音が響き渡る。

次の瞬間、霞と特務部隊の男たちは、信じられない光景を目撃することになる。

ガコンッ、パタパタパタ……!

数万の魔獣を粉砕してきた巨大な歯車がスライドし、壁面の内部へとシームレスに格納されていく。

外界からのあらゆる魔法を弾いた超重装甲の防壁が、まるでダンボール箱が折り畳まれるようにパタパタと規則正しく変形し、地下区画へと沈んでいく。

大砲も、全自動殻剥き機も、巨大な杭打ち機も、すべてが完璧なパズルのような『 逆変形(トランスフォーム) 』によって、一瞬にして姿を消した。

そして数秒後。

重厚な鋼鉄の要塞があった場所には、木漏れ日が差し込む『のどかな木造ログハウス』と、青々と野菜が実る『家庭菜園』だけが、ポツンと残されていた。

「…………え?」

朝の爽やかな風が、ポカンと口を開けた霞の頬を撫でる。

さっきまで特Sランクのドラゴンの脳天をブチ抜いていた殺伐とした兵器群が、嘘のように消え去った。ログハウスのテラスには、ルミナとコア公が座るロッキングチェアが、キィ、キィと平和な音を立てて揺れている。

『は? 要塞どこいった???』

『トランスフォーマーの逆再生www』

『殺伐とした防衛戦から、一瞬でのどかなスローライフに切り替わって脳がバグる』

『大災害を「夜勤」扱いで定時退社する男』

『エリートちゃん、完全に思考停止してて草』

ルミナの配信ドローンがその光景を映し出す中、霞は震える首をギギギ……と動かし、ログハウスの「外」へと視線を向けた。

数万の魔獣が押し寄せた、血みどろの戦場。そこがどうなっているかといえば――。

「……嘘、でしょ」

戦場など、どこにもなかった。

あるのは、種類ごと、ランクごと、部位ごとに、木製パレットの上に完璧に整頓された『資材の山』である。

Aランク魔獣の毛皮。Sランク魔獣の魔石や骨。そして、超弩級の特Sランク・アダマンタイト・ドラゴンの死骸すらも、まるでホームセンターの高級木材のように綺麗にブロック状に加工され、雨避けのブルーシート(ケントのお手製)まで被せられて山積みになっていた。

『ブルーシートまで被せてあるの細かすぎて草』

『几帳面なおっさんだなぁ』

『激戦の跡地が、完全に近所のホームセンターの資材置き場じゃねえか!』

狂気の沙汰である。

人類を滅ぼす天災の痕跡が、どう見ても『これから家を建てるための、準備万端の建築予定地』にしか見えないのだ。

霞は 眩暈(めまい) を覚え、その場にフラリとよろけた。

(特Sランクの神話級モンスターが……2×4(ツーバイフォー)の木材みたいに積まれてる……。私の知ってる魔物討伐と全然違う……っ)

「夜勤明けの現場仕事は、流石に腹が減るな」

呆然とする霞と、自転車ジェネレーターを漕ぎ終えて汗だくになっている特務部隊の男たちの背中に、ケントがポンッと優しく手を置いた。

「よく働いてくれたな、エリート君たち。要塞の機械の余熱を流用して、ピザ窯を温めてあるんだ。とびきり美味いまかない(朝食)にしてやるから、手を洗ってこい」

ケントのその言葉を聞いた瞬間。

すでに何十億円もの『日払い給与』を前借りし、すっかり 親方(ケント) の忠実な現場作業員へとジョブチェンジされた筋肉たちのお腹が、恥ずかしいほど盛大に「ぐきゅるるるるっ!」と鳴り響いた。

「「「いただきます親方ァァァッ!! 手ぇ洗ってきまーす!!」」」

――絶望のスタンピードを生き延びた国家の最高戦力たちは今、一級建築士の振る舞う「圧倒的な 福利厚生(まかない) 」の前に、完全に飼い慣らされた社員の様に嬉しそうに尻尾を振っていた。