作品タイトル不明
第45話 現場トラブル発生! 規格外の納品ミスと絶望
――ギギギ、ギギギギギィィィッ!! ガァァァンッ!!
順調に稼働していた防衛要塞の心臓部。数万の魔獣を無慈悲に自動で殻剥き(処理)し続けていた巨大な『歯車』が、突如として悲鳴のような金属音を立てて火花を散らした。
直後、要塞全体が大きく跳ね上がるほどの、未曾有の大激突が内部を揺らす。
「きゃあああっ!?」
段ボールへの仕分け作業をしていた 東雲(しののめ) 霞(かすみ) が、激しい振動に足を取られ、床に投げ出された。
コントロールルームの照明が明滅し、壁一面を覆うモニター群には、真っ赤な文字のエラーが映し出された。
『エラー:一番投入口に【規定外の巨大ゴミ】が詰まりました。ラインが停止します』
「嘘……あの何でも砕く要塞のシュレッダーを止めるなんて、一体何が……っ」
霞が震える手で外部カメラの映像をメインモニターに切り替えると、そこにはアビスの天井を突き破らんばかりの『巨大な山』が鎮座していた。
全身を白銀の金属鱗に包み、四つの眼を血走らせた超巨竜。
大氾濫(スタンピード) の元凶たる特Sランク魔獣――『エンシェント・アダマンタイト・ドラゴン』。
あろうことかその巨竜は、要塞の 素材投入口(ベルトコンベア) に巨大な顎を無理やり突っ込み、内側から防壁のギアを力任せに噛み砕こうとしていたのだ。
「あ、アダマンタイト・ドラゴン……!? 人類が確認した中で最高硬度の金属を身に纏った、生ける天災……!」
霞の顔から、一瞬にして血の気が引いた。
エリート研究員である彼女は、その魔獣がどれほど非常識な存在であるかを誰よりも理解していた。
アダマンタイトは、魔法を完全に弾き、物理的な衝撃を吸収する絶対の盾だ。歴史上、このドラゴンが現れた際は小国が三つ地図から消え去ったという記録すらある。国中の魔導師が束になって最上位の核魔法を撃ち込んでも、あの鱗には傷一つつけられない。
「親方ァッ! ダメです! ペダルが重すぎて、これ以上ジェネレーターが回りません!!」
別室の動力エリアでは、特務部隊の屈強な筋肉たちが、悲鳴を上げながら必死にエアロバイクのペダルを踏み込んでいた。
しかし、巨竜の顎の力によってギアが完全にロックされ、ペダルはコンクリートで固められたようにピクリとも動かない。彼らの太ももは限界を超えてパンパンに膨れ上がり、今にも破裂しそうだった。
「終わりよ……! あれは生物じゃない、動く災害よ! 要塞ごと噛み潰される……!」
絶望に崩れ落ちる霞。無敵の要塞が破られ、今度こそ本当に人類が終わる。誰もがそう確信した。
『うわああああ! マジでヤバいのが来た!』
『画面越しでも威圧感で吐きそう……』
『終わった。おっさんのDIYでも、あれは流石に無理だろ!』
『どう見ても人類終了のお知らせじゃねえか! ルミナちゃん逃げてぇぇぇ!!』
事態の深刻さは、ルミナのドローンを通じて世界中へ配信されている。視聴者たちも完全にお通夜状態となり、コメント欄は悲鳴と絶望で埋め尽くされていた。
世界中が張り詰めた絶望に包まれる中。
それを切り裂いたのは、地を這うような低い、怒気を孕んだ声だった。
「――おい。ラインを止めたのはどいつだ」
全員の視線が、コントロールパネルの前に立つケントに集中した。
ケントは黄色いヘルメットの鍔を深く下げ、バチバチと火花を吹くメインギアのモニターを、般若のような形相で見つめていた。
「事前の 仕様書(レーダー) にない『規格外のサイズ』の資材を、無断でラインに流した奴は誰だって聞いてるんだよ……!」
「け、ケントさん!? 何を言ってるの、相手は特Sランクの天災よ! 早く逃げないと……!」
「そんなのは関係ない! 現場のスケジュールにない大型納品は、ただの『営業妨害』なんだよ!!」
ドンッ! とケントが怒りに任せてコンソールを殴りつけた。
「営業妨害じゃなくて国家存亡の危機なのよッ! なんであんな神話級の化け物相手に、クレーム処理みたいなテンションで怒れるのよこのおっさんは!?」
霞の涙目のツッコミが響き渡る。
彼にとって、この巨竜は世界の脅威などでは断じてない。順調に進んでいた現場のラインを物理的に詰まらせた、最悪の『納品ミス』でしかないのだ。
ブラック企業時代、終わりの見えない理不尽な仕様変更や、前触れもなく持ち込まれる納期無視の追加発注。ケントの脳裏に、当時のトラウマと激しい怒りがフラッシュバックする。
自分の管理する現場で、あんな無計画な納品のせいでスケジュールが遅れることなど、一級建築士のプライドが絶対に許さなかった。
「いいか、エリート君。俺たち現場のプロにとって、シュレッダーが詰まった時のトラブル 対応(アドリブ) は一つしかない。機械のパワーが足りずにゴミが詰まったって言うなら……」
怒れる鬼の現場監督が、ツールベルトから鈍く光る愛用の金槌を引き抜く。
「そのデカブツごと叩き壊すためのツールを、今ここで作るまでだ!!」