軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第44話 神話級の工具と、止まった生産ライン

「ふぅ……少しラインの処理が追いついてないな。防壁の 粉砕機(クラッシャー) を抜けてきた硬いデカブツは、俺が直接『手作業(手バラシ)』で解体するか」

防衛要塞の内部。ベルトコンベアの上を次々と流れてくる魔獣たちを見下ろしながら、ケントはツールベルトから愛用の工具を取り出した。

鈍い銀色に輝く、円盤状の刃を持った機械。一級建築士であるケントのお手製『魔導ディスクグラインダー』だ。

「ちょっと待って! そのグラインダーの刃……さっき粉砕したSランク魔獣『キラー・マンティス』の鎌じゃないの!?」

コンテナへの仕分け作業をさせられていた 東雲霞(しののめかすみ) が、目をひん剥いて叫ぶ。

「ああ。マンティスの鎌は『絶対切断』の属性を持ってるからな。刃の素材としては一級品だ」

「それだけじゃないわ! ジェネレーターに繋がってないのに、どうして動いてるのよ!?」

「ん? ああ、こいつは『コードレス』なんだ。マンティスの素材自体に込められた『風刃の魔力』をそのまま動力モーターに直結させてる。トリガーを引くだけで、素材の魔力が尽きるまで無限に刃が高速回転し続ける仕組みだ。エコで良いだろ?」

チュイィィィンッ!!

ケントがトリガーを引くと、けたたましい駆動音と共に、不可視の真空刃を纏ったグラインダーが唸りを上げた。

そのまま、コンベアを流れてきたAランク魔獣『ロック・タートル』の分厚い岩の甲羅に刃を押し当てる。

「よし、構造の継ぎ目はここだな」

――スパーンッ!

火花一つ散らない。まるで熱したナイフでバターを切るように、大砲の直撃すら弾くはずの岩の甲羅が、抵抗ゼロで真っ二つに切断された。

スキル【超速クラフト】が、対象に最適な専用工具を得たことで、その加工速度と精度を極限まで引き上げているのだ。

「……ありえない。Sランク魔獣の固有魔力をバッテリー代わりにして自律駆動する無限切断武器なんて、管理庁が束になっても作れない『 神話級(ミシック) 』のアーティファクトよ……!」

「武器じゃない、ただの『充電不要のグラインダー』だ」

絶望的な表情で頭を抱える国賓級エリートをよそに、ケントは涼しい顔でライン作業を続ける。

次に流れてきたのは、全身が鋼鉄の鱗に覆われた巨大な竜型の魔獣だった。グラインダーの刃すら届かないほどの極厚の装甲だ。

「チッ、こいつは 外壁(スケール) が厚すぎるな。なら、ジョイント(関節)を直接砕いてバラすか」

ケントが次にツールベルトから取り出したのは、巨大な杭のような無骨な機械――『魔導インパクトハンマー』だった。道路工事などでコンクリートをガガガガッ!と粉砕する、あの破壊用工具である。

「そ、そのハンマーの先端……まさか『タイタン・ボア』の牙!?」

「正解だ。ボアの牙に宿ってる『大地の粉砕』と『突進』の魔力ベクトルを、打撃シリンダーに直結させてある。こいつも素材の魔力で勝手に動く優れものだ」

ケントが鋼鉄竜の関節部にインパクトハンマーを押し当て、トリガーを引く。

――ドガガガガガガガガッ!!!

局地的な大地震のようなSランク級の衝撃波が、寸分の狂いもなく竜の関節の一点へと叩き込まれる。どんなに外殻が硬くても、結合部を物理的な振動で破壊されれば構造は維持できない。

鋼鉄の竜は一瞬にしてバラバラに崩れ落ち、ただの『高級な金属資材』へと成り下がった。

『おっさんのDIY工具がチートすぎるww』

『魔物本人の魔力で魔物を解体するの、リサイクル精神が高すぎるだろ』

『エリートちゃんの常識が音を立てて崩れていくの草』

配信画面が爆笑のコメントで埋め尽くされる中、霞は完全に諦めたような目でコンベアから流れてくる『神話級のゴミ』を仕分けていた。

ライン作業は極めて順調。このままいけば、数万のスタンピードもあと数時間で完全に『更地(解体完了)』になるはずだった。

「よしよし。今日は大漁だな。エリート君たちもだいぶライン作業に慣れてきたじゃないか」

ケントはヘルメットを押し上げ、満足げにコーヒーを啜った。霞も「もうどうにでもなれ」といった表情で、次々と運ばれてくる魔石を箱に詰めている。この異常な 平和(コメディ) が、最後まで続くと思われた。

――しかし。

ピーーーッ!! ピーーーッ!!

突如、要塞内にレッドアラートが鳴り響き、順調に稼働していた*第2防壁の『全自動・素材殻剥き機』が、ギギギギッ!と嫌な金属音を立てて完全に停止したのだ。

「えっ……ラインが止まった!?」

霞が悲鳴を上げる。

外部モニターを確認した特務部隊の男たちが、血の気を引かせて叫んだ。

「ひ、被害報告! 第1防壁の処理口が物理的に大破! 敵の……敵の質量が大きすぎます!」

モニターに映っていたのは、アビスの天井に届くほど巨大な、山のような体躯を持つ大氾濫の元凶――特Sランク魔獣『エンシェント・アダマンタイト・ドラゴン』の姿だった。

全身を最高硬度の金属で覆われたその巨竜が、要塞の処理口ベルトコンベアに無理やり頭を突っ込み、物理的にラインを詰まらせていたのだ。

「ああ……終わりだわ。あんな超規格外のバケモノ、この要塞の粉砕機でも絶対に砕けない……!」

霞がへたり込み、再び死の恐怖に震えた、その時だった。

「――おい」

ケントの、地を這うような低い声がコントロール室に響いた。

「どこの馬鹿だ……シュレッダーに『規定サイズ外のゴミ』を突っ込んでラインを止めた野郎は……ッ!」

ケントは黄色いヘルメットの鍔をグッと下げ、モニターに映る特Sランクの巨竜を、『機械を詰まらせた迷惑な不燃ゴミ』を見るような般若の顔で睨みつけていた。