作品タイトル不明
第39話 魔導ジェラートマシンと、極上のSランク定食
「ふははははっ! 見よ、人間ども! 吾輩の完璧なるおつかいの成果を!」
ログハウスの庭先に、意気揚々とした声が響き渡った。
『魔導ベビーバギー』に乗ったコア公が、大量の淡いピンク色の果実――アビス・ピーチと、気絶したSランク魔獣『ヘルフレイム・グリズリー』をズルズルと引きずって帰還したのだ。
「おおっ! すごいじゃないかコア公! 一人でちゃんとお使いできたんだな、偉いぞ!」
「むっ!? 当然だ! 吾輩の覇気にかかれば、このような獣など……あうっ」
ドヤ顔でふんぞり返るコア公だったが、ケントが「よしよし」と頭を撫でると、妖精の小さな顔をだらしなく緩ませて目を細めてしまった。
完全に『初めてのお使いを褒められて喜ぶ子供』の顔である。
「アビス・ピーチ……! すごく甘くていい匂いがします! でもケントさん、あの巨大なクマはどうするんですか?」
ルミナが目を丸くして尋ねた。
「ああ、まずは素材の切り出しだな。任せておけ」
ケントは庭に転がった五メートルの巨獣に対し、自作の『魔導コンクリートカッター』を取り出した。本来はビル建設の現場で硬い岩盤や鉄骨を切るための土木用ツールだが、一級建築士としての精密な「解体図面」があれば、Sランク魔獣の強靭な皮もただの紙切れ同然だ。
チュイィィィンッ! と軽い音を立て、ものの数分で絶望の巨獣は、美しく整えられた「ただの霜降り肉のブロック」へと姿を変えた。
「よーし。せっかくコア公が採ってきてくれた最高のフルーツだ。ルミナちゃんの希望通り、冷たくて甘い極上のスイーツに仕立てよう」
ケントは作業用ツールベルトを締め直すと、アイテムボックスから『氷の魔石』と『風の魔石』、そして金属のシリンダーや歯車などのパーツを作業台に並べた。
「えっと、ケントさん……? お料理をするんですよね?」
「ああ。スイーツを作るには、まず『完璧な調理器具』が必要だからな。家電の設計も、建築士にとっては家づくりの中の大切な仕事だ」
ケントの【超速クラフト】が唸りを上げる。
彼が組み上げているのは、ただのミキサーではない。『氷の魔石』と『パイプ』を繋いで一瞬でマイナス温度にする箱を作り、そこに風の魔石で動く「絶対に壊れない特殊な歯車」をパズルのようにガッチリと噛み合わせていく。
「ジェラートみたいに粘り気のあるアイスを滑らかにするには、ダンプカーを引っ張るくらいの『とんでもないバカヂカラ』で練り上げる必要があるんだ。現場の知恵ってやつさ」
チュイィィィンッ! ガチャン!
ものの数分で、ケントの目の前に鈍い銀色に輝く流線型の機械が完成した。
「よし、完成! 『全自動・現場用ジェラートマシン』だ!」
『アイス作るのにダンプカー級のバカヂカラ要求すんなww』
『料理の前に工場で使うような重機を錬成する男』
『だからおっさんのDIYはオーバースペックなんだよ!ww』
ケントは手際よくアビス・ピーチの皮を剥き、細かくカットしていく。
「……あの、ケントさん。お庭の防衛を固めてからずっと外に出られなかったはずですけど、ジェラートに必要な『新鮮なミルク』なんて、どこにあったんですか?」
不思議そうに首を傾げるルミナに、ケントはアイテムボックスから一本の紙パックを取り出した。
「ああ、これか? 社畜時代、納期前に一週間会社に泊まり込む時に備えて箱買いしてた『長期保存用ロングライフ牛乳(LL牛乳)』だよ。常温で数ヶ月持つやつを、時間停止のアイテムボックスに入れてたんだ。今でも味は変わらないはずだ」
「……そんな悲しい理由で備蓄されてたミルクが、今ここで役立つなんて」
『親方……(涙)』
『限界社畜の悲しきサバイバル物資ww』
『過去のブラック労働が、アビスのスローライフを支えているという皮肉』
限界社畜の悲しき備蓄物資が、アビスの最高級フルーツと出会い、奇跡の化学反応を起こそうとしていた。
ケントは果肉とミルクを一緒にジェラートマシンへ投入し、スイッチを入れた。
ウィィィィン……!
強力な冷却機能とダンプカー級のバカヂカラによって、果肉とミルクが凍りながらも極めて滑らかに練り上げられていく。
「さて、デザートができるまでの間に、メインディッシュも焼いておくか」
ケントが振り返った先には、先ほど解体されたばかりのヘルフレイム・グリズリーの分厚い肉塊があった。
つい先ほどまで街を滅ぼす災害級の魔獣だったそれが、今はただの『極上の霜降り肉』としてまな板の上に鎮座している。
ジュワァァァァァァッ!!!
熱した極厚の鉄板に肉を乗せた瞬間、暴力的なまでの脂の弾ける音と、食欲を狂わせる香ばしい匂いが弾けた。
『あかん、完全な飯テロだ』
『Sランク魔獣の極上ステーキ……ゴクリ』
『さっきまで絶望の象徴だったグリズリーが、ただの美味しそうなお肉にww』
一方その頃。地上の安全なタワマンで配信を見ていたサバイバル配信者の泥水ススルは、自分の手元にある「カチカチの携帯保存食(乾パン)」と、画面越しの「極厚ステーキ」を見比べて、ボロボロと涙をこぼしていた。
「なんで……ッ! なんでアビスの最深部にいるおっさんの方が、地上のタワマンにいる俺より美味いもん食ってんだよぉぉぉっ!!」
***
「「「いただきます!」」」
サンルームのテーブルに、豪華な品々が並んだ。
まずはメインディッシュ、グリズリーの極厚ステーキ。ケントがナイフを入れると、ルビーのように美しい赤身から、肉汁が滝のように溢れ出した。
「うまっ……! なんだこれ、分厚いのに噛まなくても溶けるぞ! 噛むほどに野性味あふれる濃厚な旨味が爆発して……最高だ!」
そして、食後のデザート。
キンキンに冷えたガラスの器に盛られた、『アビス・ピーチの特製ジェラート』である。
「んんっ……!!」
一口食べたルミナが、頬に手を当ててとろけるような声を上げた。
「冷たくて、すっごく滑らかです……! 桃の甘さと香りが口いっぱいに広がって、今までの疲れが全部吹き飛んじゃうくらい美味しい……!」
「う、うむ! 冷たくて頭がキーンとするが、これは美味いな! 吾輩の働きに相応しい極上の供物である!」
コア公も妖精の小さな口いっぱいにジェラートを頬張りながら、幸せそうに羽をパタパタと震わせている。
超強力なバカヂカラで練り上げられたジェラートは、氷の粒を一切感じさせない、シルクのような究極の舌触りを実現していた。
『ルミナちゃんの至福の顔、最高かよ』
『コア公の頭キーン顔かわええww』
『Aランククランを殲滅した直後に、こんな平和で美味そうな配信見せられるこっちの身にもなれ! 腹減ったわ!』
世界最悪の魔境の中心で、人類最高峰の脅威を物理的に排除した要塞。
その内部では今、ただ純粋に美味しいご飯を食べ、笑顔で食卓を囲むという、何よりも贅沢で平和な『スローライフ』の時間が流れていた。