軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第38話 はじめてのおつかい(圧倒的火力による蹂躙)

鬱蒼と生い茂る、アビス九十九階層の『黒き森』。

太陽の光すら届かず、常人ならば足を踏み入れた瞬間に濃密な瘴気で発狂してしまうというその魔境を、一つの小さな黒い物体がスイスイと飛んでいた。

『現在地、九十九階層・北北西。目的の【アビス・ピーチの群生地】マデ、アト三百メートルデス』

「うむ! ご苦労である!」

ケント特製の『全自動・魔導ベビーバギー』のふかふかシートに深く腰掛けたコア公は、短い足を組んでふんぞり返っていた。

妖精サイズの彼女にとって、このバギーは空飛ぶ高級玉座のようなものだ。

その後ろを、ルミナのドローンカメラがぴったりと追尾し、全世界に向けて『ダンジョン・コア(幼女姿)のはじめてのおつかい』を絶賛配信中である。

『景色は完全に地獄(Sランクの魔境)なのに、やってることが近所のお使いww』

『バギーの乗り心地が良すぎて、コア公が完全にくつろいでるの草』

『おっさんが作った「自動回避システム」が優秀すぎる。さっきから毒沼も茨も全部自動で避けてるぞ』

『もうこのベビーカー、世界中の軍隊が欲しがるレベルの超兵器だろ……』

リスナーたちがツッコミを入れている間に、バギーは鬱蒼とした森を抜け、開けた場所へと出た。

そこには、淡いピンク色の実をたわわに実らせた巨大な果樹――『アビス・ピーチ』の木がそびえ立っていた。

「おおっ! あったぞ! ルミナが所望していた甘い果実だ!」

コア公が目を輝かせ、バギーから身を乗り出した、その瞬間。

ズズンッ……!

地響きと共に、ピーチの木の裏側から巨大な影が姿を現した。

体長は五メートル以上。全身を燃え盛る炎のような赤い体毛で覆われ、口からは猛毒のヨダレを垂らす四つ足の魔獣。

Sランク指定の災害級魔獣、『ヘルフレイム・グリズリー』である。

その魔獣は、己の縄張りにある果樹に近づく小バエ(コア公)を見つけるや否や、鼓膜が破れるほどの咆哮を上げた。

「グォォォォォォッ!!」

『うわあああああ!! でたあああ!!』

『Sランクのヘルフレイム・グリズリーだ! 街一つを灰にするバケモノだぞ!!』

『コア公ちゃん逃げて! いくらアビスの主でも、今はただの妖精サイズじゃん!!』

配信のコメント欄がパニックに陥る。

当のコア公も、内心では(ひっ!? で、デカい!?)とビビり散らかしていたが、全世界に配信されている手前、ここで尻尾を巻いて逃げるわけにはいかない。

「ふ、ふははははっ! 愚かな獣め! この偉大なるアビスの主たる吾輩の前に立ち塞がるとは……その不敬、万死に値するぞ! 吾輩の前にひれ伏……」

コア公が小さな手を突き出し、精一杯の威厳を放とうとした、その時。

ピピッ。

コア公が乗っているベビーバギーのAI(ケントが組んだ防衛プログラム)が、無機質な電子音を鳴らした。

『警告。搭乗者(お子様)ニ対スル、明カナル殺意及ビ脅威(害獣)ヲ検知。安全確保ノタメ、自動防衛システムヲ起動シマス』

「……え?」

ウィィィィンッ!

バギーの側面に搭載されていた、二門の『小型レーザー砲』が自動で展開され、ヘルフレイム・グリズリーの眉間を正確にロックオンした。

「グォォォ……?」

『対象ヲ【害獣】ト判定。排除シマス』

次の瞬間。

ピィィィィィィンッ!!!

ケントが「ちょっとした護身機能」と言っていたその砲身から、凄まじい熱量を持った極太の光線が放たれた。

Sランク魔獣の強靭な毛皮も、防御魔法も、一切関係ない。

レーザーはグリズリーの脳天を寸分違わずに撃ち抜き――その巨大な体を、一撃で後方へ数百メートルも吹き飛ばしたのである。

ドゴォォォォォンッ!!!

森の木々をなぎ倒し、盛大な土煙を上げて沈黙するSランク魔獣。

一撃。正真正銘、完全なるワンパンであった。

「…………へ?」

ぽかんと口を開けるコア公。

彼女は今、何もしていない。ただバギーに座って指を差していただけだ。

『…………え?』

『は?????』

『ちょっと待って。今、Sランクの魔獣が消し飛んだんだけど』

『おっさんの「ちょっとした護身機能」=「Sランクをワンパンする自動迎撃レーザー」』

『過保護のレベルが天元突破してて草』

『ガルドの数千万ゴールドの防具で作られたチャイルドシート、控えめに言って神の兵器だろwww』

『さすがのコア公もドン引きしてて腹痛いwww』

数十秒の静寂の後。

ピクピクと痙攣しているグリズリーを見て、コア公はコホンと咳払いをし、慌ててふんぞり返った。

「ふ、ふははははっ! 見たか! これが吾輩の圧倒的な覇気よ! 気絶するとはだらしない獣め!」

『いや絶対レーザーのおかげだろww』

『ドヤ顔すんなwww』

『可愛いから許す』

「さあ、目的のアビス・ピーチは頂いた! ついでに、あの獣の肉もケントへの土産に持ち帰ってやろう! ケントの飯は美味いからな!」

完全に「おつかいを成功させてお駄賃を期待する子供」の顔になったコア公。

バギーに搭載されたマジック・アーム(ケントのお手製)が器用に桃を収穫し、さらに気絶したSランク魔獣をロープでバギーの後部に括り付けた。

「よし! 帰還するぞ! 吾輩の凱旋を盛大に出迎えるがいい!」

かくして。

アビスの最恐魔獣を(バギーの全自動レーザーで)一方的に蹂躙したコア公は、大量のアビス・ピーチと最高級の霜降り肉を引きずりながら、意気揚々とログハウスへの帰路につくのであった。