軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第37話 妖精少女の決意と、過保護すぎるDIY兵器

「うーん……。食料の備蓄はありますけど、外に出られないとなると、なんだか無性に……」

要塞化しすぎて「自分たちも出られない」という皮肉な状況。

ルミナが窓の外のアビスの森を見つめながら、切実に呟いた。

「甘い果実とか、ケーキみたいなスイーツが食べたくなってきちゃいました。九十九階層の森に自生している『アビス・ピーチ』……あれ、すごく甘くて美味しいんですよね……」

その時。部屋の隅のクッションで丸まっていたバレーボール大の球体が、突如として眩い光を放った。

ポンッ!

軽快な破裂音と共に、球体が弾ける。

光が収まった後に現れたのは、手のひらサイズの可愛らしい妖精の少女であった。

彼女こそが、アビス最下層を統べる精霊であり、ダンジョン・コアそのものである『コア公』の本来の姿だ。

「ふははははっ! 悩める矮小な人間どもよ、喜ぶがいい!」

コア公は小さな腰に手を当て、ふんぞり返りながら威厳たっぷりに宣言した。

「この偉大なる吾輩が、直々にその『アビス・ピーチ』とやらを採ってきてやろう! 吾輩にかかれば、九十九階層の魔獣など取るに足らぬわ!」

ドヤ顔で言い放つコア公。最近はケントの飯とふかふかのクッションに餌付けされ、すっかり「ただの丸いペット」としてダラダラしていた彼女だが、今こそ己の 威厳(アイデンティティ) を取り戻す絶好のチャンスだと踏んだのだ。

「おお、久しぶりに元の姿に戻ったな。ここ最近はずっと球体になって寝てばかりだったから、まともに会話するのも久しぶりじゃないか」

「むっ!? 当然であろ! 吾輩はアビスの主ぞ! 決してただの丸くて便利な抱き枕などではないわ!」

ケントとルミナは目を丸くした。

「ええっ!? コア公ちゃん、一人で森に行くの!? ダメだよ、あんな恐ろしい場所!」

「ルミナよ、案ずるな。吾輩の魔力を以てすれば、森の奥深くへ転移することなど造作もな……」

「ダメだ。いくら管理者だからって、あんな小さな子を一人でおつかいに行かせるなんて、保護者として心配すぎる」

ケントは立ち上がり、完全に『初めてのおつかいに立候補した我が子』を心配する親の目になっていた。

「よし。お出かけ用の『安全なチャイルドシート』を作ってやるから、五分待ってろ。それを持たせるなら許可しよう」

「人の話を聞けと言っておるだろ! 吾輩にチャイルドシートなど……!」

ジタバタと空中で暴れるコア公を無視して、ケントは鼻歌交じりに作業用ツールベルトから工具を取り出した。

そして、昨日回収したばかりの『アダマンタイトの端材(ガルドの防具)』と、雷の魔石、風の魔石、そしてアビス・トレントの枝を作業台に並べ、猛烈な勢いで加工を始めた。

チュイィィィンッ! ガガガガッ!

「ケ、ケントさん……? 今、ガルドさんの数千万円の高級防具を、躊躇なくディスクグラインダーで粉々に裁断しましたよね……?」

「素材に貴賎はないよ。機能美を追求すれば、これも立派なベビーカーの装甲になる」

ケントの【超速クラフト】が唸りを上げ、ものの数分で前代未聞のDIYが完了した。

「完成! 名付けて『全自動・魔導ベビーバギー(お散歩カスタム)』だ! こいつの基板には仮のIFF(敵味方識別)タグを組み込んだから、これに乗っていればうちの防空レーザーに撃ち落とされずに外へ出られるぞ。」

ケントが披露したのは、妖精サイズのコア公がすっぽりと搭乗できる、漆黒の卵型ホバーボードだった。

「……な、なるほど。人間の識別データをシステムに登録するには二、三日かかるけど、ケントさんが作った機械の『通行パス』なら今すぐ発行できるんですね……」

ルミナの納得する声をよそに、外装はアダマンタイトで覆われ、物理攻撃を完全にシャットアウト。さらに側面には、先日の『防空レーザー』を小型化した砲塔が、なぜか二門も搭載されている。

「ほら、コア公。乗ってみな。座席にはハイスライムのクッション材を敷いてるから、乗り心地は最高だぞ」

「む……。……ほう、これはまた、意外と悪くないな。いや、むしろ素晴らしいぞ!」

コア公がバギーに乗り込むと、ウィィィンッ……と静かなモーター音が鳴り、床からフワリと浮き上がった。

「うむ! 快適である! これなら羽を動かす必要すらな……あ、いや、吾輩の威厳が際立つというものだ!」

「よしよし。自動追尾で目的の木までナビゲートするし、危険な魔獣が近づいたら自動で追い払ってくれる。コア公は座ってるだけでいいぞ」

「過保護すぎんか……?」

ルミナのドローンカメラがその一部始終を配信すると、視聴者たちのツッコミが滝のように流れ出した。

『ちょっと待て。ガルドの防具がベビーカーの装甲に魔改造されたぞww』

『小型レーザー砲付きのチャイルドシートなんて聞いたことねえよ!』

『おっさん、コア公を完全に「小さな子供」だと思ってるだろ』

『アビスの魔獣たちが可哀想になってきた……』

「ルミナちゃん、ドローンを護衛につけてやってくれ。迷子にならないか心配なんだ」

「あ、はい! コア公ちゃん、気をつけてね!」

かくして。本来の威厳を取り戻すはずが、完全に「重武装のベビーバギーに乗せられた幼児」と化したコア公は、世界数百万人のリスナーに見守られながら、いざ九十九階層の魔獣の森へと出撃していった。