作品タイトル不明
第36話 手厚い行政のゴミ回収と、出られない要塞
「あ、あの……探索者ギルド、もとい『環境局・最下層出張所』の者ですが……。事前の通信の通り、お庭の『粗大ゴミ』の回収に上がりました……」
翌日の午前中。
ログハウスの敷地境界線(アビス・トレントの生垣)の前に、ガチガチに震える十数名の男たちが立っていた。
彼らは探索者ギルドの特使部隊なのだが、その手には武器ではなく、なぜか『チリトリ』や『ゴミ袋』、そして『台車』が握られている。
「おお、ご苦労様です! わざわざこんなアビスの最下層まで回収に来てくれるなんて。最近の 行政(ギルド) は本当にサービスが手厚いですね!」
ケントはサンルームの窓から顔を出し、人の良い笑顔でブンブンと手を振った。
「一時的に生垣の迎撃モードと、防空レーザーは切っておきましたから、中に入って大丈夫ですよ! ほら、そこの『無限泥落としマット(キャタピラ)』も止めてますから」
「は、はいっ! 失礼いたします……っ!」
特使たちは、一歩間違えれば即死する『神域』に、文字通り命がけの綱渡りをするような顔で足を踏み入れた。
「ええと、庭先に転がっているのが『特大の粗大ゴミ(元Aランク・ガルド)』ですね。それから、そこの地面から生えているバンザイのポーズの石像(暗殺部隊)は『不燃ゴミ』で、裏手のスライムタンクの中にいるのが……」
「だ、大丈夫です! あとは我々、専門の回収業者がすべて引き取らせていただきますので!」
特使たちは、白目を剥いて気絶しているかつての悪徳クランマスターを、まるで壊れたタンスでも運ぶかのように台車に乗せ、ロープでぐるぐる巻きにした。
さらに、コンクリート漬けになった部隊やスライムまみれの先遣隊たちも、ギルドの魔法使いたちが泣きそうになりながら「回収」していく。
『ギルドの特使が完全に清掃業者になってて草』
『Aランクのクランマスターが、台車でガラガラ運ばれていく姿www』
『おっさん、ガチで「税金払ってるからゴミ回収に来てくれた」くらいにしか思ってないだろ』
かくして、世界中を震撼させた悪徳クラン『黒い毒蛇』は、文字通り「行政による無料のゴミ回収」という形で、完全にアビスから一掃されたのであった。
***
「ふぅ。庭もスッキリ片付いたし、これで本当に平和になったな」
数時間後。
ケントとルミナは、ログハウスのサンルームで優雅なティータイムを楽しんでいた。
外の景色は、凶悪な魔獣の気配も不審者もない、手入れされた美しい庭園そのものだ。
「そうですね……。なんだか、昨日までの大騒ぎが嘘みたいです」
ルミナはほっと息をつきながら、空中のコメント欄に目をやった。
すると、あるリスナーの書き込みが目にとまった。
「あ、ケントさん。リスナーさんから質問が来てます。『あんなにガチガチに要塞化しちゃって、二人は外に買い物とか素材集めに行けるの?』……って」
「ん?」
ケントはコーヒーカップを持ったまま、ピタリと動きを止めた。
彼はゆっくりと手元の木製タブレット(魔力制御パネル)を操作し、システムの設定画面を確認する。
数秒後。ケントは、少し気まずそうに頬をかいた。
「……あー。やってしまった」
「え?」
「『害獣』を自動で弾くシステムは完璧に組んだんだけど……俺たち住人が外に出るための『安全な 裏口(バイパスルート) 』のプログラムを組むのを忘れてた」
ケントの言葉に、ルミナの顔が引きつる。
「そ、それって、つまり……?」
「今のまま一歩でも敷地の外に出たら、俺たちも『侵入者』と判定されて、防空レーザーで焼かれるか、キャタピラで堀に落とされるな」
『自分たちで閉じ込められてて草』
『完璧な要塞の最大の弱点www』
『引きこもり特化型スマートホームじゃねえか!』
コメント欄がドッと沸く。
ケントは「まあまあ」と手で制しながら言った。
「心配いらないよ。IFF(敵味方識別)のファームウェアを更新して、俺たち用の解除キーを作ればいいだけだから。ただ、配線の組み直しも含めて、完成まで二、三日はかかるかな」
「に、二、三日ですか……」
完璧すぎる「おもてなしの防衛要塞」は、住人である彼ら自身をも見事に軟禁してしまった。
スローライフの拠点としては致命的な設計ミスに、ケントは苦笑いするしかなかった。