軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第23話 インフラの危機(水圧低下)と、最下層ホームセンターへの買い出し

「きゃあっ!?」

最下層の極楽ログハウスに、ルミナの悲鳴が響き渡った。

ドローンカメラが待機している脱衣所の外まで聞こえてきたその声に、配信のコメント欄がざわつく。

『ど、どうした!?』

『ついに魔獣の襲撃か!?』

『おっさん! ルミナちゃんがピンチだぞ!!』

慌ててウッドデッキから駆けつけてきたケントが、パーテーション越しに声をかける。

「ルミナちゃん、大丈夫か!? 転んだのか?」

「け、ケントさん! 大変です! シャワーのお湯が……チョロチョロとしか出なくなっちゃいました!!」

「……え?」

魔獣の襲撃でも、ダンジョンの異常でもなかった。

それは現代社会において、ある意味で最も恐ろしい生活トラブル——『水圧の低下』である。

「ああ、なるほど。怪我がなくてよかった」

ケントはホッと息を吐くと、腕組みをして天井の配管を見上げた。

「サンルームの増築と、自動スライドドアの設置。それに地下菜園のスプリンクラーまで一気に拡張したせいで、現在の『空気圧コンプレッサー(風の魔石)』と『純水ポンプ』の出力が限界を超えたんだ。いわゆる、ユーティリティ(インフラ)のパンクだな」

『インフラのパンクwww』

『アビスで水圧の心配してるの、人類史上でこのログハウスだけだろww』

『シャワーの出が悪い(致命傷)』

『おっさん、増築のペースが早すぎるんだよ!!』

急いで着替えを済ませ、髪を半分濡らしたまま出てきたルミナが、涙目でケントを見上げる。

「ケントさん、直りますか……? 私、もうあの極上のシャワーとヒノキ風呂がないと、生きていけない体に……っ」

「大丈夫だ。ただ、今の設備をこれ以上イジっても限界がある。ポンプの出力を根本から上げるために、より高圧に耐えられる『頑丈なシリンダー(筒)』と、強力な『雷の魔石』が必要だ」

ケントは作業着のポケットから金槌を取り出し、腰にツールベルトを巻いた。

「ちょっと、裏の『ホームセンター』まで資材の買い出しに行ってくる」

「ほ、ホームセンター……?」

『おっさんの言うホームセンター=アビスの未踏エリア』

『またヤバい素材を拾いに行く気かww』

『ルミナちゃん、シャワーのために素材集めクエスト発生!』

「あ、私も行きます! 配信のカメラも回したまま、ケントさんの買い出しの様子をみんなにお届けします!」

ルミナは濡れた髪をタオルでまとめ、ドローンカメラを引き連れてケントの背中を追った。

コア公は「吾輩はクッションで寝ておる」と早々に留守番を決め込んでいる。

***

ログハウスの『 絶対安全領域(セーフゾーン) 』を一歩出ると、そこは再び、紫色の瘴気が漂う絶対死の領域だった。

禍々しい結晶が乱立し、遠くから正体不明の魔獣の咆哮が響いてくる。

ルミナは緊張で身を硬くしたが、前を歩くケントは、本当に休日に近所のホームセンターの資材館を歩くような、呑気な足取りだった。

「おっ、あそこに生えてる『人喰いツタ』、ゴムみたいな弾力があるな。パッキンの素材にちょうどいい。ちょっと刈り取っておこう」

『Aランク植物のマンイーターをゴムパッキン扱いすな』

『あいつのツタ、鋼鉄の鎧も引きちぎる凶悪な罠だぞww』

『金槌でコンッて叩いただけで綺麗なゴムチューブに変換されたんだが……』

「あ、あっちの毒の沼地で光ってる石、配線の代わりになりそうだな」

人類未踏の絶望の迷宮は、ケントの目を通せば「棚に並んだ便利な資材」でしかなかった。

その異常な光景を数百万人のリスナーと共に楽しんでいた、その時である。

ズシン……ズシン……と、地鳴りのような足音が近づいてきた。

ルミナのドローンカメラが上空から捉えたのは、岩山がそのまま動き出したかのような、巨大な金属の塊だった。

「ひっ……! ケントさん! あれ!!」

「ん? おお、デカいな」

現れたのは、全身が青鈍色に輝く超硬質の金属で構成された、城のように巨大なゴーレムだった。

ダンジョン最下層にのみ生息する、Sランクの無機物魔獣『ミスリル・タイタン』。

物理攻撃も魔法攻撃も一切通じない、歩く絶対防御の要塞である。

『ミスリル・タイタンだあああ!!』

『終わった! さすがの金槌でも、ミスリルの塊相手じゃ打撃を弾き返されるぞ!!』

『逃げて! ルミナちゃん、早くログハウスに!!』

パニックに陥るコメント欄。

しかし、ケントの目は恐怖ではなく、純粋な『職人の輝き』に満ちていた。

「……素晴らしい。あの極厚のミスリル装甲なら、超高圧のコンプレッサーに耐えうる『最強のシリンダー』になる。関節部分で光ってるのは、特大の雷の魔核か? 完璧だ。俺が求めていた動力ユニットそのものじゃないか」

「け、ケントさん!? あいつ、こっちに向かって拳を振り上げて……っ!」

「ルミナちゃん、ちょっと下がってな。今の金槌の『物理打撃』じゃ、確かにあの硬さと質量は削りきれないかもしれない。だから――」

ケントはツールベルトから、あらかじめ用意していた謎のアイテムを取り出した。

それは、黒曜竜のガラス板を円盤状に加工し、小さな雷の魔石を組み込んだ『お手製の魔導ツール』だった。

「 打撃(インパクト) が駄目なら、『高速回転の切断』でアプローチするまでだ。いくぞ、新開発の『魔導サーキュラーソー(丸ノコ)』のテスト稼働だ!」

キュィィィィィンッ!!!

ケントの手の中で、超高速回転する黒曜ガラスの刃が、甲高いモーター音と共に凄まじい火花を散らした。

アビスのファンタジー世界に持ち込まれた、圧倒的な『現代電動工具(魔改造ver)』の力。

ルミナと数百万人のリスナーは、再びケントが常識をぶち壊す瞬間を、固唾を飲んで見守ることになるのだった。