軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第22話 Sランク黒曜竜の襲来と、絶景の特大サンルーム

ダンジョン中層・第五十階層。

地上から派遣された、国家の威信をかけた『超エリート救出部隊』は、歩みを止めて絶望に打ちひしがれていた。

「……隊長。この爪痕と、周囲の岩がガラス化している痕跡……間違いありません」

索敵担当の探索者が、震える声で報告する。

歴戦のAランク探索者である隊長は、苦虫を噛み潰したような顔で、その禍々しい痕跡を見つめた。

「『 黒曜竜(オブシディアン・ドラゴン) 』……。Sランクの災害級魔獣が、なぜこんな浅い階層に……っ」

黒曜竜。全身を黒い水晶のような超硬質の鱗で覆われ、その 吐息(ブレス) はすべてを焼き尽くしガラス化させる、ダンジョンの破壊神だ。

「足跡は……下へ向かっています。 最下層(アビス) です」

「くそっ……! ルミナ氏のいるログハウスに向かっているのか! あんなものに目をつけられたら、いかにあの謎の男が凄腕でも、ひとたまりもないぞ!!」

隊長は血を吐くような思いで、自らの通信端末を開いた。

そこに映し出されているのは、呑気にホットサンドを頬張っているルミナの生配信画面だった。

***

「ん〜! チーズがとろとろで最高……っ!」

最下層の極楽ログハウス。

ルミナが食レポを終え、リスナーたちと談笑していた、その時である。

ズドォォォォンッ!!

突如、最下層の空間全体を揺るがすような、凄まじい轟音が響き渡った。

ドローンカメラが激しく揺れ、ルミナは悲鳴を上げてゲーミングチェアにしがみついた。

『な、なんだ!? 地震!?』

『おい、カメラの外! 外を見ろ!!』

ルミナが震える視線をウッドデッキの外へ向けた瞬間、彼女は絶望で息を呑んだ。

バサァッ……! と、禍々しい紫水晶を粉砕しながら、巨大な影が舞い降りてきたのだ。

全長二十メートルを超える巨体。漆黒のガラスのようにギラギラと光を反射する鱗。そして、獲物をすり潰すための凶悪な牙。

「ど、どらごん……っ!?」

『黒曜竜だああああ!!』

『終わった……災害級のSランク魔獣だ!!』

『あいつの鱗、ミスリルの剣でも傷一つ付かないんだぞ!?』

『ルミナちゃん逃げて!! いや、逃げ場なんてない……っ!』

画面の向こうで、中層にいる救出部隊の隊長が崩れ落ちた。

黒曜竜は、ログハウスを邪魔な障害物と認識したのか、その巨大な顎を開き、喉の奥で「極大の熱線ブレス」をチャージし始めた。

空気が焼き焦げ、最下層の温度が一気に上昇する。

ルミナは恐怖で声も出せず、ただ目を閉じた。

「おっ。なんだ、でっかいトカゲが来たな」

その緊迫感を、間の抜けた声が真っ二つに切り裂いた。

作業着姿のケントが、愛用の金槌を肩に担ぎながら、ウッドデッキにふらりと姿を現したのだ。

「け、ケントさん! 逃げて! あれは、絶対に勝てない竜で……っ!」

「勝つとか負けるとかじゃないんだよ。ルミナちゃん、あのトカゲの鱗、よく見てみろ」

ケントは、ブレスを放とうとしている黒曜竜を指差した。

「表面は黒いけど、光に透かすと透明度が高いだろ? あれ、強度を保ったまま研磨すれば、最高級の『遮熱強化ガラス』になるんだよ。……ちょうど、日当たりのいい部屋を増築したかったところなんだ」

『は?』

『遮熱強化ガラス?』

『おっさん、竜を前にしてなに言って……』

ゴォォォォォッ!!

黒曜竜の口から、万物を灰にする熱線ブレスが放たれた。

しかし。

「――コンッ」

ケントが、肩に担いでいた金槌を、軽く前方に振り下ろした。ただ、空間を叩くように。

パァァァンッ!!

その瞬間、【超速クラフト】の理不尽なまでの概念書き換え能力が発動した。

圧倒的な熱量を持っていたブレスが、ケントの金槌が放つ見えない波紋に触れた瞬間、パズルのピースが弾け飛ぶように「霧散」した。

さらに波紋は黒曜竜の巨体を包み込む。

『ギャア……!?』

黒曜竜が驚きの声を上げる間もなかった。

全長二十メートルの凶悪なSランク魔獣は、一滴の血を流すこともなく、文字通り『一瞬』にして空中で解体された。

ガラガラガラッ! ドスンッ!

ログハウスの庭に降り注いだのは。

長方形に綺麗にカット・研磨された『特大の黒曜ガラス板』の山と、最高級の霜降りが美しい『ドラゴン肉のブロック』、そして巨大な魔核だった。

「…………」

ルミナも、ドローンカメラ越しの数百万人のリスナーも、そしてモニターを見ていた救出部隊の隊長も。

全員が、完全に思考を停止した。

「よしよし。傷一つない極上のガラス板だ。こいつを、このログハウスの南側に組み込んで……と」

ケントは一人で頷くと、流れるような手つきで金槌を振るい始めた。

ガンッ! ガンッ! という小気味良い大工音が響き渡る。

手持ちの木材(暴風タイガーの骨など)で骨組みを作り、そこに先ほど解体したばかりの黒曜竜のガラス板を、寸分の狂いもなくはめ込んでいく。

ものの五分。

ログハウスの南側に、美しく光を反射する『全天候型・特大サンルーム(温室)』が完成してしまったのだ。

「よし、できた! これで禍々しいアビスの絶景を、安全に眺めながらティータイムができるぞ。太陽の代わりのグロウライト(発光苔)も設置したから、ここなら南国のトロピカルフルーツだって栽培できる」

ケントは額の汗を拭い、ドヤ顔で振り返った。

「ルミナちゃん、これでまた配信の『映えスポット』が増えたな!」

『…………』

『…………おっさん』

『Sランクの竜を一撃でガラス板にしやがった……』

『戦闘っていうか、ただの【木材カッティング作業】と同じノリだったぞ……』

『神話の竜を「ちょうどいいガラス」呼ばわりwww』

『ルミナちゃんの顔が、もう完全に「あ、この人神様なんだな」って悟りを開いてる』

中層でこの配信を見ていた救出部隊の隊長は、静かに通信端末を閉じ、部下たちに向かって言った。

「……地上に帰るぞ。あの男がいる限り、アビスは今、世界で一番安全な『極楽リゾート』だ……」

こうして。

最強の魔獣の襲来すらも、規格外の一級建築士にとっては、ただの「増築リフォームの建材のデリバリー」でしかなかったことが証明された。

さらに拡張された極楽ログハウス。

ルミナの「帰りたくない病」は、この美しい特大サンルームの完成によって、いよいよ不治の病へと悪化していくのだった。