軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第21話 最下層の全自動からくり屋敷と、ダメ人間製造の極致

「——というわけで、今日のランチは特製ダンジョンピザの残りを使った、とろとろチーズのホットサンドだよー!」

ルミナの底抜けに明るい声が、今日も最下層の極楽ログハウスから全世界へと響き渡る。

彼女は今、ケントが作ってくれた『玄武岩ガメ特製・ゲーミングチェア』に深く腰掛け、完全にリラックスした表情で配信を行っていた。

『ルミナちゃん、すっかり配信環境が整ってるなww』

『腰への負担ゼロの神チェア』

『背景のオシャレなログハウスと、外の禍々しい紫水晶のギャップで脳がバグる』

平和なコメント欄が流れる中、画面の端っこで、ケントが何やらブツブツと呟きながら作業着姿で床のフローリングを引っ剥がしていた。

「ケントさん、さっきから何を作ってるんですか?」

ルミナがホットサンドをかじりながら尋ねると、ケントは木屑を払いながら振り返った。

「ああ、ちょっとこのログハウスを『全自動化』しようと思ってな」

「ぜ、全自動? ここ、ダンジョンですよ?」

「そう。いちいち歩いて重い防音扉を開け閉めしたり、キッチンまで飲み物を取りに行ったりするの、面倒だろ?」

ケントはアイテムボックスから、ストローのように中が空洞になった巨大な骨を取り出した。

「前に倒した『暴風タイガー』の骨だ。こいつは風の魔力を通すために中が空洞になっていて、しかも絶対に折れない強靭さを持ってる。これをログハウスの床下や壁の中に張り巡らせて、『配管』にするんだ」

『……ん?』

『骨を配管にする? なに言ってんだこのおっさん』

リスナーたちが首を傾げる中、ケントはさらに『風の魔石』と『ハイスライムの粘液』を取り出した。

「動力はモーターなんかじゃない。究極のエコ、『 空気圧(ニューマチック) 』だ。風の魔石で発生させた空気をこの骨のパイプ内に圧縮して溜め込んでおく。そして、木材を寸分違わず組み上げた『からくりバルブ』で空気の逃げ道をコントロールするんだ」

ケントの瞳が、完全に『建築バカ』のそれに変わっていた。

「さらに、気密性を高めるパッキンと潤滑油の代わりに、ハイスライムの粘液を塗布する。これで摩擦係数はほぼゼロだ。釘や金属を一切使わない、日本の伝統的な『木組み』の技術と、流体力学の融合さ」

ケントが、手元にある木製の小さなスイッチを軽く押し込んだ、その瞬間。

プシュゥゥゥ……ピタッ。

極めて滑らかに、そして恐ろしいほどの静音性で、分厚く重い暴風タイガーの防音扉が自動で横にスライドした。

滑るような動き。ガタつきは一切ない。

Sランク素材の重厚な扉を、ただの「空気圧」と「スライムの潤滑液」、そして「完璧な木組みのレール」だけで制御しているのだ。

「よし、気密テストは完璧だな。空気の圧縮率も計算通りだ。スライム液のおかげで空気漏れも全くない」

「…………」

ルミナは、半分開いた口を塞ぐこともできずに固まっていた。

ドローンカメラの向こう側も、一瞬の静寂の後、爆発的な勢いでコメントが滝のように流れ始めた。

『はああああああああ!?』

『ちょっと待て! 今のおっさんの解説、ヤバすぎるだろ!?』

『空気圧だけであんな重い扉を!? 動力ゼロ!?』

『ハイスライムを潤滑油代わりにすな!!!』

『アビス(最下層)に、釘一本使ってない超絶ハイテクな「からくり忍者屋敷」が完成した件について』

「あ、ルミナちゃん。ついでにこのテーブルの裏にあるボタンを押してみてくれ。キッチンから自動で配膳されるように組んでおいたから」

ケントに言われるがまま、ルミナが恐る恐る木製のボタンをポチッと押す。

すると、キッチンのカウンターがプシュッと音を立てて開き、木のレールの上を滑るようにして、小さな木製の配膳カートがルミナのテーブルまで移動してきた。

カートの上には、食後のデザートである『ダンジョンベリーの冷たいタルト』と、淹れたてのコーヒーが乗っている。

「う、嘘でしょ……回転寿司の特急レーンみたいなことまで……」

「よしよし、空気圧のバルブ切り替えも良好だな。これでルミナちゃんが一歩も動かずに、極上クッションの上で生活できる『完全引きこもりからくりシステム』の完成だ」

ケントは満足げに腕を組み、ウンウンと頷いた。

『ダメ人間製造機が物理的に進化してるwww』

『ログハウスの皮を被った要塞』

『もう誰もこのおっさんを止められない』

『アビスの王(コア公)ですら、さっきから自動配膳カートにビビって部屋の隅で震えてるぞww』

最恐のダンジョンの底で。

規格外の元・一級建築士の狂気的な発想力により、ログハウスはただの「小屋」から、現代科学と魔法素材が極限融合した「超絶からくり要塞」へとトランスフォームを遂げていた。

「すごい……ケントさん、本当に天才です……! 私、一生ここから一歩も動きません!」

タルトを頬張りながら、感動のあまり泣きそうになっているルミナ。

この「外界と完全に隔絶された絶対的な安全と快適さ」が、後にやってくる「招かれざる客」たちの常識をどれほど木端微塵に粉砕することになるのか。

ルミナも視聴者も、そしてケント自身も、まだ知る由もなかった。