軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第20話 世界一バズる『最下層モーニングルーティン』

「みんなおはよー! 最下層(アビス) からお送りする、魅惑のモーニングルーティン配信、はじまるよー!」

ルミナの底抜けに明るい声が、全世界数百万人のデバイスから響き渡った。

映し出されたのは、禍々しい紫色の発光水晶を背景に建つ、場違いなほどオシャレで温かみのあるログハウス。

そしてウッドデッキのテーブルには、熱々のチーズがとろける特製ピザと、淹れたてのコーヒーが並べられている。

『お、おう。おはよう……』

『モーニングルーティン(人類の生存限界点)』

『世界一過酷な場所で、世界一くつろいでる女』

『さっきギルドからの緊急通信ブチ切りしなかったか?ww』

『完全にアビスの生活に染まりきってて草』

視聴者たちのツッコミが滝のように流れる中、ルミナは暴風タイガーの毛皮で作られたルームウェアに身を包み、幸せそうにピザを頬張っている。

「ん〜っ! 今朝のピザも最高に美味しい! みんなにもこの匂いをお届けできないのが残念だよ!」

『見せびらかすなww 飯テロすぎる!!』

『そのピザのベーコン、デス・スコーピオン(Sランク)の肉なんだよな……』

『市場価格に換算したら、ピザ一切れで都内に家が建つぞ』

『王族の晩餐より豪華な朝メシを食うなww』

一方その頃。

地上の探索者ギルド本部では、ルミナの配信をモニタリングしていたギルドマスターが、胃薬を水で流し込みながら頭を抱えていた。

「どういうことだ……。我々は国家予算を投じて、各国のSランク探索者を集めた『超エリート救出部隊』を編成中だというのに……!」

「マスター! ルミナ氏の生体バイタルデータを確認しました!」

「どうだ!? やはりあの『ケント』と名乗る男に、精神支配の魔法でもかけられているのか!?」

「いえ! 脈拍、血圧、脳波、すべてにおいて……彼女がダンジョンに潜る前よりも、はるかに健康でリラックスした数値を叩き出しています! ストレス値に至っては『ゼロ』です!」

「ゼロだと……!? あのアビスで!?」

ギルドマスターは崩れ落ちた。

救出作戦とは、絶望の淵にいる者を助け出すからこそ意味がある。

今のルミナを地上に連れ戻すことは、彼女の「極上のバカンス」を邪魔する行為に他ならないのではないか。そんな葛藤が、各国の首脳陣を大いに悩ませることとなった。

***

そんな地上の大パニックなど知る由もなく。

極楽ログハウスのウッドデッキでは、朝食を終えたケントが、メジャーを取り出してルミナの背丈や座高を測っていた。

「うん、こんなもんか。ルミナちゃん、しばらくここに滞在するつもりなんだろ? なら、配信用の『専用の椅子』があった方がいいと思ってな」

「えっ! ほんとですか!? 嬉しい!」

ルミナが目を輝かせると、ケントはアイテムボックスから巨大な漆黒の甲殻を取り出した。

それは、鈍い金属光沢を放ち、見るからに強固な魔力を帯びている。

「前に拾っておいた『玄武岩ガメ(Aランク)』の甲羅だ。こいつをベースにして、長時間の配信でも疲れない、人間工学に基づいたチェアを作ろう」

『は?』

『玄武岩ガメの甲羅!? 物理無効の 最強盾(シールド) の素材だぞ!!』

『おっさんの「前に拾っておいた」は次元が違うww』

『それを椅子にするって正気か!?』

リスナーたちが悲鳴を上げる中、ケントは愛用の金槌を振り上げた。

ガンッ! ガンッ! パキィィンッ!

【超速クラフト】と【構造把握】の悪魔的コンボが炸裂する。

いかなる名工でも加工に数ヶ月はかかるはずの超硬質の甲羅が、ケントの金槌が触れるたびに、まるで粘土細工のように滑らかな曲線を描き始めた。

そこに暴風タイガーの白銀毛皮をクッション材として組み込み、高さを調整する油圧シリンダー(のような魔道具)を仕込む。

ものの十分で、圧倒的な存在感を放つ『最下層特製・ゲーミングチェア』が完成してしまった。

「よし、できたぞ。座ってみてくれ」

ルミナがおずおずと、その漆黒と白銀のコントラストが美しいチェアに腰を下ろす。

「……っ!! な、なにこれ……っ! 背骨にピタッと吸い付くみたい! 全然腰に負担がかからないし、頭のクッションも最高の弾力……!」

「俺、前職ではデスクワークも長かったからな。座りっぱなしの辛さはよく分かってるんだ。ランバーサポート(腰当て)の角度にはこだわったぞ」

ケントがドヤ顔でサムズアップする。

長時間のデスクワークで腰を破壊されかけた元社畜だからこそわかる、究極のエルゴノミクス(人間工学)設計である。

『ゲーミングチェア(Aランク魔獣製)www』

『すげえ……座るだけで防御力カンストしそう』

『おっさん、ガチでなんでも作れるんだな』

『ルミナちゃん、完全にアビスで快適な配信環境整えてて草』

『もう地上に帰ってくる理由がないだろこれ』

「ケントさん……私、もう一生ここで配信します……っ!」

ルミナは感動のあまり、ゲーミングチェアに頬ずりをして涙を流した。

画面の端では、コア公が「吾輩の特等席も作れ!」とケントの作業着の裾を引っ張って駄々をこねている。

かつて、人類が決して踏み入ってはならないとされた絶対死の領域。

しかし今、そこは一人の建築バカなおっさんの手によって、世界中が嫉妬する『究極のオアシス』へと変貌を遂げていた。

こうして、大人気VTuberルミナと、限界社畜ケント、そしてポンコツ精霊コア公による、波乱万丈で平和すぎる「最下層スローライフ定期配信」が、完全に日常として定着したのである。