軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第15話 DIY動画(?)と、狂気のヒノキ風露天風呂

「こんにちは。ルミナちゃんのリスナーの皆さん。通りすがりの一級建築士、ケントです。うちのログハウス、なかなかいい造りしてるでしょ?」

ドローンカメラに向かって、人懐っこい笑顔で手を振る作業着のおっさん。

その光景が全世界に配信された瞬間、コメント欄はかつてないほどの処理落ちスレスレの爆速で流れ始めた。

『一級建築士!?!?』

『なんでダンジョン 最下層(アビス) に建築士がいるんだよ!!』

『「うちのログハウス」って、お前が建てたんかい!!』

『どんな工法だよ! Sランク魔獣の素材で家建てるとか、神話のドワーフでも無理だろ!!』

『オーラが完全に「休日にDIYしてる近所のお父さん」なんだがwww』

大パニックに陥るリスナーたち。

しかし、当のケント本人は、滝のように流れるコメントの文字を読み取ることもできず、呑気にコーヒーをすすっていた。

「へえ、100万人も見てるのか。すごいな。最近はネットの動画サイトでも『古民家再生』とか『DIY動画』が流行ってるらしいからな。俺のログハウスも参考になれば嬉しいよ」

「ち、違いますケントさん! みんな、DIYに感心してるんじゃなくて、ケントさんの存在そのものに……っ!」

ルミナが必死にツッコミを入れようとするが、ケントは全く気にした様子がない。

「それよりルミナちゃん。さっき魔獣に追われてたせいで、服も顔も泥だらけじゃないか。女の子がそんな格好じゃ可哀想だ」

ケントは呆然とするルミナの背中を軽く押し、ウッドデッキの奥へと案内した。

「腹も膨れたことだし、まずは『風呂』に入って、サッパリしてきなよ」

「ふ、お風呂……? ダンジョンの最下層で……?」

ルミナは自分の耳を疑った。

ダンジョン探索において、入浴などという行為は不可能に近い。水は生命線であり、体を拭くための魔法のウェットティッシュですら超高級品なのだ。

「ああ。ちょうど源泉(?)かけ流しで、いい湯加減になってるはずだ」

ケントがウッドデッキの奥にある目隠しのパーテーションを開けた瞬間。

モワァァァ……。

白い湯気と共に、心を強烈にリラックスさせる『極上のヒノキの香り』が、ルミナを包み込んだ。

「えっ……? うそ……っ」

そこに鎮座していたのは、大人数人が足を伸ばして入れるサイズの、超特大の『木製露天風呂』だった。

滑らかな木目の美しさと、満々と張られた透明なお湯。湯口からは、絶え間なく適温のお湯がチョロチョロと注がれている。

ドローンカメラがその全貌を映し出すと、配信のコメント欄が再び発狂した。

『はああああ!? マジで風呂あるじゃん!!』

『ダンジョン最下層で露天風呂!? 意味わからん!!』

『おい、ちょっと待て……。あの浴槽の木材、ヒノキじゃないぞ』

『植物学者のワイ、画面の前で泡吹いて倒れる。あれ、Sランク環境にしか生えない伝説の香木【 香炉樹(こうろじゅ) 】だぞ!!』

『ミスリル剣すらへし折る硬度の香炉樹を……どうやってあんな綺麗なバスタブに加工したんだよ!?』

リスナーの悲鳴などどこ吹く風で、ケントは得意げに風呂の設備を解説し始めた。

「この水はね、地下三十メートルの水脈から汲み上げてるんだ。でもそのままじゃ不純物が多いから、配管の途中に『ハイスライムの膜』を何層も組み込んで、逆浸透膜(RO)フィルターにしてるんだよ」

「ハ、ハイスライムの……膜……?」

ルミナの顔が引きつる。ハイスライムといえば、遭遇すれば一個小隊が全滅すると言われるAランクの凶悪魔物だ。

「そうそう。あいつの体液をろ過する器官は、最高級の浄水フィルターと同じ原理だからな。おかげで、このお湯は不純物ゼロの完全な超軟水になってる。肌がツルツルになるぞ」

『Aランク魔物を浄水器のフィルターにすな!!!』

『贅沢の極みwww』

『王族すら入れないレベルの超VIP風呂じゃねーか!!』

ケントはバルブを軽く叩き、満足げに頷いた。

「給湯器には『炎の魔石』を使ってるから、常に四十二度をキープしてる。もちろん、外から見えないように防音と目隠しの結界も完璧だ」

ケントは新しいバスタオルと、フカフカの着替え(暴風タイガーの毛皮を裏起毛にした特製ルームウェア)を棚から取り出し、ルミナに手渡した。

「それじゃ、俺は夕飯の仕込みで菜園の様子を見てくるから。ゆっくり入っておいで」

「あ……はい……」

ケントが去り、露天風呂に一人残されたルミナ。

彼女は手渡されたフカフカのタオルを抱きしめ、湯気を立てる極上の露天風呂と、その向こうに広がる禍々しいダンジョンの絶景を交互に見比べた。

ドローンカメラに向かって、彼女はポツリと呟いた。

「みんな……。私、もしかして……生きて帰るより、このままここに住んだ方が、幸せなんじゃないかな……?」

『おいやめろwww』

『帰ってこいルミナちゃん!!』

『気持ちは痛いほどわかるww 俺もそのおっさんの家に住みたいww』

『完全に餌付けされて骨抜きにされてるぞ!!』

死の淵から一転。

規格外の一級建築士による『狂気のホスピタリティ』は、ルミナの常識と配信のコメント欄を、見事に破壊し尽くしていくのだった。