軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第14話 Sランク魔獣の絶品ランチと、全回復

「お待たせ。特製、デス・スコーピオンの燻製ステーキと、 地下菜園(うち) で採れたダンジョンポテトのじゃがバターだ」

極上のビーズクッションで完全に骨抜きにされていたルミナの前に、木目の美しい特製テーブルがスッと引き寄せられ、湯気を立てるお皿が置かれた。

「ひゃあ……っ!」

思わず、ルミナの口から感嘆の声が漏れる。

お皿の中心に鎮座しているのは、黄金色に輝く分厚い肉の塊。

表面は香木の煙でパリッと燻され、ナイフを入れた瞬間、中から透き通るような肉汁がジュワリと溢れ出した。

その横には、ホクホクにふかされた大きなポテトが添えられ、とろけたバターが食欲を暴力的に刺激する香りを放っている。

「デ、デス・スコーピオンって……あの、装甲が硬すぎて魔法も剣も通らないっていう、絶望の魔獣ですよね……?」

「ん? ああ、関節の隙間を金槌でコンッと叩けば、綺麗に解体できるぞ。カニみたいで美味いんだ。ほら、冷めないうちに食いな」

ケントは当たり前のように言い放つと、自分用のコーヒーをズズッとすすった。

ルミナは震える手でフォークとナイフを握り、おそるおそる肉を切り分けて口に運んだ。

「――っ!!!」

瞬間、ルミナの瞳孔がカッと見開かれた。

外側は香ばしく、内側は舌の上でトロけるほど柔らかい。

濃厚なカニと高級牛肉を掛け合わせたような圧倒的な旨味が、口いっぱいに爆発する。

魔獣肉特有の泥臭さや魔力のトゲトゲしさは一切なく、香木キノコによる燻製の香りが、旨味成分だけを限界まで引き上げている。

「おいひい……っ! なにこれ、おいひいっ!」

ルミナは配信中であることも忘れ、ポロポロと涙を流しながら肉を頬張った。

付け合わせのポテトも、まるで高級スイーツのように甘く、肉の脂を綺麗に中和してくれる。

そして、信じられない現象が起きた。

ポワァァァン……っ。

ルミナの体を、温かく、そして強大な光のオーラが包み込んだのだ。

「えっ……? 痛みが、消えた……?」

先ほどまで激しくズキズキと痛んでいた右足首の捻挫が、一瞬にして完治していた。

それどころか、すっからかんだった魔力が全身に満ち溢れ、転移トラップのショックによる疲労感すらも綺麗さっぱり消え去っている。

それもそのはず。

Sランク魔獣の肉体は、それ自体が莫大な魔力の結晶だ。

それを完璧な調理法で体内に取り込めば、最高級のエリクサー(万能薬)をがぶ飲みしたのと同じ効果を発揮する。

だが、そんなチート食材を、目の前のおっさんは『ただの昼飯』として振る舞っているのだ。

『はああああああ!?』

『待って、今ルミナちゃんに 全回復(フルレジスト) のオーラ出たぞ!?』

『Sランク魔獣の肉を食ったんだぞ!? そりゃそうなるわ!!』

『っていうか、あの肉の市場価値、一口で国が買えるレベルだぞ……』

『それを「昼飯」って……あのオッサン、どんだけ財力と戦闘力隠してんだよ!?』

『しかもシレっと「地下菜園で採れた」とか言ってたぞ! 最下層で農業!?』

ドローンカメラを通じて、ルミナの悶絶するような食レポと、信じられない回復現象を目の当たりにしたリスナーたちは、完全にパニック状態に陥っていた。

『探索者ギルド本部の者です。現在、状況を解析中ですが……あの男性のデータはギルドに存在しません!』

『トップランカーすら知らない謎の実力者!』

『ヤバい、同接(同時視聴者数)が100万超えたぞ!! 世界トレンド1位だ!!』

コメント欄が滝のような勢いで流れ、世界中のネット掲示板がこの『謎の極楽ログハウス』の話題で持ちきりになっていた。

だが。

そんな世界的パニックの中心にいるケントは、口の周りにソースをつけたルミナを見て、優しく微笑んでいた。

「よかったよかった。しっかり食べて、元気出さないとな。……ん?」

ふと、ケントの視線が、ルミナの斜め後ろにフワフワと浮遊している物体――ドローンカメラに釘付けになった。

「なんだあの、飛んでる目玉みたいなやつ。最下層のコウモリか? ログハウスの中に魔物を入れちゃダメじゃないか」

ケントはヒョイと立ち上がると、作業着のポケットから『愛用の金槌』を取り出した。

「待ってろ、今コンッと叩き潰して(解体して)やるからな」

「えっ」

ルミナは硬直した。

あの金槌は、Sランク魔獣の装甲すら『コンッ』でバラバラにする、この世の 理(ことわり) から外れた凶器だ。

あんなもので叩かれたら、カメラどころか、この一帯の空間ごと粉砕されかねない。

「ま、待って!! 違います!! それ魔物じゃないです!!」

ルミナは慌てて立ち上がり、両手を広げてドローンカメラをかばった。

「私のカメラです! 今、これを通して生配信してるんです!」

「……はいしん?」

ケントは金槌を振り上げたポーズのまま、キョトンと首を傾げた。

「あの、動画サイトの……VTuberとか、そういうやつ。今、この映像、世界中の人が見てて……その、100万人くらい……」

ルミナが恐る恐る告げると、ケントは瞬きを数回繰り返し、それからドローンカメラのレンズをじっと見つめた。

そして。

「ああ、なるほど。そういうことか」

ケントは金槌をポケットにしまうと、カメラに向かって、ひどく間の抜けた笑顔で、ペコリと頭を下げた。

「こんにちは。ルミナちゃんのリスナーの皆さん。通りすがりの一級建築士、ケントです。うちのログハウス、なかなかいい造りしてるでしょ?」

『『『 軽 い な !!! 』』』

全世界数百万人のリスナーの壮絶なツッコミが、画面の向こうで完全にハモった瞬間だった。